野川忍教授(@theophil21)による「有期雇用とは何か」

野川忍教授による有期雇用制度についてのTwitter上の講義録。
5
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(1)例によって、実態の評価や政策のありかたではなく、そもそも有期雇用とは法的にどういうことで、どんな原則やルールがあるのか、ということを解説します。 まず、有期雇用とは、「あらかじめ雇用の期間を決めて労働契約を結ぶこと」です。

2010-10-28 13:41:58
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(1)つまり、「1月1日から3月31日まで雇用する」、「明日から六か月働く」ということを合意するのが有期雇用です。これに対して、「雇用の期間をあらかじめ定めずに労働契約をむすぶ」のが、正社員に一般的な労働契約の形態で、「期間の定めなき労働契約」といいます。

2010-10-28 13:44:32
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(2)期間を定めた場合には、その期間の間は原則としてどちらからも解約することはできません。同時に、期間が満了したらどちらからも何も言わなくても自動的に契約は終了します。「3月31日まで」と定めた有期雇用は、3月31日で自動的に終わります。

2010-10-28 13:46:18
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(3)これに対して、期間を定めないということは、いつまでも雇用関係が続く、という意味ではなく、「どちらからでも、いつでも自由に解約できる」ということを意味します。たとえば辞職は、いつでも自由にできますが、それはこの原則があるからです。

2010-10-28 13:47:40
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(4)でも、使用者側からの解約、つまり解雇は、周知のように労働契約法16条をはじめ、これを規制する法の規定がいくつもあります。なぜ辞職は自由なのに解雇はそうでないのか、については以前にここに記しました。根本的には、「企業社会自身がそれを選んだ」からです。

2010-10-28 13:49:38
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(5)さて、有期雇用は、もともと「その期間だけ存在する仕事に対応するため」に利用されるものでした。たとえば、「半年間、わが社で特別キャンペーンを張るので、その間働いてもらう人を雇おう」というような場合です。この場合は、期間が満了すれば契約が終了するのは当然ですね。

2010-10-28 13:51:22
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(6)また、ある期間の間だけ存在する仕事をするための仕組みであれば、その期間内はどちらからも解約してはいけない、ということになるのも当然です。ところが、日本では、有期雇用はこのような本来の利用方法では使われていません。そこに多くの問題が生じる原因があります。

2010-10-28 13:53:08
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(7)日本では、恒常的に存在する仕事についても、有期で人を雇用し、期間が満了したらその期間を更新し、それを繰り返すという形で有期雇用が使われてきました。そうすると、まずは「恒常的に存在する仕事に就かせるためなら、何で有期雇用にするの?」という疑問が生じます。

2010-10-28 13:55:06
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(7)日本では、期間を定めない労働契約で雇った、いわゆる正規労働者の雇用を最優先で守るという慣行が企業社会にあります。そのために、不況などのおりに人件費を削減する手段として、「簡単に切れる」労働契約によって雇用する労働者がバッファーとして必要になります。

2010-10-28 13:57:46
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(8)有期雇用労働者は、企業にとっては、期間が満了すれば自動的に雇用関係が終わるので、このような「正規労働者を守るためのバッファー」として最適です。しかも、当該有期雇用労働者が必要であれば、期間満了時に、また期間を更新して雇用を継続すればよいわけです。

2010-10-28 13:59:24
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(9)たとえば女性に職域が限定されていた高度成長期などには、このシステムは労働者側にとっても常に不利益ではありませんでした。夫の賃金で生活する主婦の就労機会としてはそれなりの意義があったし、賃金が低くても家計維持者が別にいれば現実的な問題としては意識されなかった。

2010-10-28 14:02:59
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(10)しかし、一方で人件費が投資ではなくコストとして意識され、他方で全員が平等に参加する雇用社会が到来すると、日本におけるこのような有期雇用の利用方法は強い軋轢をもたらします。具体的問題はいくつもありますが、主たるものとしては二つです。まずは正規労働者との格差。

2010-10-28 14:05:56
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(11) 有期雇用とはいえ、いわゆる契約社員などにみられるように、正規労働者と同じ仕事を同じ時間、同じような負担のもとに行っているのに、なぜ処遇が低いのか。ただ、これは「同一価値労働同一賃金」に関する普遍的な問題の一つなので、あらためて紹介したいと思います。

2010-10-28 14:07:31
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(12)もう一つが、何度も反復更新したあと、急に「今回は更新しない」という扱いをすることは不当ではないのか、という問題です。期間1年の有期雇用で、更新を10回繰り返して11年も働いたのに、「11回目は更新しません」と言われれば、戸惑う労働者も少なくないでしょう。

2010-10-28 14:09:22
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(13)この場合、法の原則から言えば、何度更新しようと、期間が満了すればそのつど契約は終了しているのだから、更新するかしないかは使用者と労働者の意思が合致するか否かによるのであり、使用者が「否」と言っている以上更新の合意は成立せず、問題ない、ということになります。

2010-10-28 14:11:11
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(14)しかし、日本の裁判所は、そこに使用者側のアンフェアな意図を読み取り、一定の場合には更新を拒否することは許されない、言い換えれば更新拒否は、期間を定めない正規労働者に対する解雇と同じ意味になるから、解雇として厳しく判断する、と言ってきました。

2010-10-28 14:13:19
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(15)一定の場合とは二つ。一つは、更新手続きがいかにもずさんで、「実質的には期間を定めていないのと同じ」というような扱いになっていれば、使用者は形式論を持ち出して「今回は更新しない」とは言えず、更新拒否は解雇と同じとみなされます。しかし重要なのはもう一つの基準。

2010-10-28 14:14:53
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(16)もう一つは、労働者の側に「雇用継続の合理的期待」が生じているとみられる場合。つまり、「また更新されて雇用は継続されるはずだ」と、労働者が期待するのが当然、というような状況を使用者自ら作っているか、そうみなされても仕方ないような事態になっていた場合です。

2010-10-28 14:16:51
theophil21 @theophil21

有期雇用とは何か(17) 有期雇用については、大陸ヨーロッパ諸国をはじめ厳しく規制されている国も少なくありません。日本においてどのように扱っていくのか、あくまで契約の自由にまかせるのか、一定の規制が必要かが、これから労政審で議論されていきます。

2010-10-28 14:19:16