ドリル・イェーガー#3

なんか凄い艦これっぽいぞ!
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劉度 @arther456

「了解であります。ケッコンシステム、起動!」「イエッスメム!」「ケッコンです!」「カッコカリですが」妖精さんたちが魔力を通し、戦闘指揮所の床に、淡い青色の魔法陣が浮かび上がる。艦娘と提督の魂を繋げ、精神を一段上のステージに引き上げる儀式、ケッコンである。23

2014-02-28 21:48:04
劉度 @arther456

薬指の指輪を通して、陸奥との繋がりが一層強くなる。「相互精神解放……魔力の性質が……」五感が体を離れ、意識がふわりと浮かび上がる。「……なんだ……パターン不明……」全身に激痛が走る。左手首と心臓を切り裂かれたような感覚。「緊急停……制御……」そして魂が、ストンと墜ちた。24

2014-02-28 21:52:33
劉度 @arther456

巨大な門があった。かつてその門を覆っていたラピスラズリは剥がれ落ち、今は黒い背景に灰色の建造物が立っているだけ。振り返ると、同じような門があるがそちらは開いている。後ろの門に立つのは、白く、そして赤い目の少女。五感が崩れ落ち、再生する。26

2014-02-28 21:56:34
劉度 @arther456

目の前で門がゆっくりと開かれる。両脇に備え付けられた、人の顔をした有翼の獣の石像が睨みつける。全身が痛む。幻肢痛。もう逢えない彼女の痛み。いや、彼女はここにいる。切り裂かれた体が、自然と先へ進む。ふらふらと覚束ない足取りで、魂が次の場所を目指す。27

2014-02-28 22:00:02
劉度 @arther456

門の中に一歩入った途端、視界が暗転し、そして世界がひっくり返った。目を開けると、そこは船の艦橋だった。だが、蔵王の艦橋ではない。伝声管が張り巡らされた、もっと古い時代の船だ。大戦期の鋼鉄戦艦、『陸奥』。知らないはずの提督の脳裏に、名前が浮かぶ。28

2014-02-28 22:03:00
劉度 @arther456

「提督!?」声がかかる。その方向を見ると、艦娘の陸奥がいた。「どうしたの、その格好!」「格好?」首を傾げると、しゃらんと金属音が鳴り響いた。提督の服が、いつもの紺色の軍服ではなく、鈴と鎖を縫い付けた、巫女服のような着物に変わっている。それを見て、提督が眉をひそめた。29

2014-02-28 22:06:32
劉度 @arther456

「……どうしてこの服なの」「え?」「気にしないで。それよりむっちゃん、ここがどこだか、分かってる?」「……なんとなく」声は不安げだが、恐らく彼女の頭は、いや、魂はこの場所を理解しているだろう。ここは現実ではない。提督と陸奥、そして『陸奥』の魂のリンクが生み出した心象世界だ。30

2014-02-28 22:10:43
劉度 @arther456

無意識の井戸の底。魂の座。アストラル界。イマジナリーコトダマ空間。この場所を、あるいは現象を表す言葉は様々だが、実際に到達した者は少ない。二人の魔力と記憶がこの世界を、そして彼女たち自身を形作っている。彼女たちはこの世界に限って全知であり、全能であった。31

2014-02-28 22:14:03
劉度 @arther456

「これが、ケッコン?」提督も陸奥も首を傾げる。単にドリフトの繋がりが深くなって、もっと強い魔力を使えるだけだと思っていたし、あきつ丸もそう言っていた。何かのエラーが起こっている。だが彼女たちには理由がわからないし、考えている時間もあまりなかった。32

2014-02-28 22:18:39
劉度 @arther456

ゴウン、と『陸奥』が揺れた。船は墨汁で塗られたような黒い海の上に浮かんでいる。船を揺らすような波は立っていない。鏡のように静かな海だ。『陸奥』を揺らすのは波ではない。海の中から現れた氷の巨人と、それに付き従う巨大な鯨の頭蓋骨が、彼女たちの心象世界に、そして現実に干渉している。33

2014-02-28 22:22:16
劉度 @arther456

提督と陸奥は、顔を見合わせ頷く。互いの精神に入り込みすぎていたようだ。まずは、敵を倒す。「やろう」「ええ」それだけで心は伝わる。提督は艦長席に座り、陸奥は操舵輪を握る。『陸奥』がエンジンを唸らせる。そして二人と一隻の意識は、現実へと舞い上がった。34

2014-02-28 22:25:36
劉度 @arther456

目を開けると、慣れ親しんだ蔵王の艦内が映る。「提督ッ!?」あきつ丸が提督の顔を覗きこんでいる。「どうしたのでありますかっ!?」「静かに」椅子にもたれたまま、提督は彼女を手で制す。「集中できない」「しかし今一瞬意識が、いえ、魂が……」「大丈夫だ」36

2014-02-28 22:29:08
劉度 @arther456

提督の視界は二重を超え、今は三重である。戦闘指揮所で光るモニタ群、心象世界で艦橋の向こう側にいる氷の巨人、そして陸奥の目の前に立ち塞がる氷山空母姫。「提督、対応はどうするのでありますか?」「任せろ」何を、と言いかけたあきつ丸が、ゴクリと唾を飲み込んだ。37

2014-02-28 22:32:22
劉度 @arther456

洋上では、陸奥目掛けて巨大イ級が突撃してきていた。数千トンもの鉄塊の質量は、それだけで半端な砲弾を凌ぐ武器となる。「陸奥さん!おっそいよ!」突撃から逃げようとしながら島風が叫ぶ。陸奥がその場から動こうとしないのだ。彼女は静かに片腕を突き出し、砲をイ級に向ける。38

2014-02-28 22:35:51
劉度 @arther456

轟音。砲撃が、イ級の巨体を宙に吹き飛ばした。39

2014-02-28 22:39:21
劉度 @arther456

間近で見ていた島風も、モニタ越しに見たあきつ丸も、上空にいた戦闘機隊も、氷山空母姫さえも、その光景を信じることができなかった。ただ提督と陸奥だけは、イ級の巨体が着水し、爆発四散する様子を冷静に眺めることが出来た。「……よし。一気に仕留めるぞ」40

2014-02-28 22:39:35
劉度 @arther456

陸奥が爆炎に突っ込み、反対側に抜ける。今までの陸奥よりも一段速い。駆逐艦の間を巧みにすり抜け、氷山空母姫の下へ。驚いたままの彼女の顔面にまず一発、拳を叩き込む。ギシィン、と魔力と鋼がぶつかり合い、そして氷山空母姫を吹き飛ばした。41

2014-02-28 22:43:42
劉度 @arther456

人と船。その違いは余りにも大きい。最大練度とはすなわち艦霊を受け入れられる限界である。だが、艦霊を受け止める魂が二つになれば。人とは違う存在と五感を繋げ、死を、命が終わる瞬間を識った魂が支えてやれば。彼女たちは最大練度のその先に、『陸奥』になれる。42

2014-02-28 22:47:08
劉度 @arther456

艤装の機銃が唸り、氷山空母姫から発進した艦載機を退けた。氷のような美貌を持つ氷山空母姫の顔には、驚愕がありありと浮かんでいる。「決めるよ、むっちゃん!」「ええ!」心象世界の『陸奥』の第三砲塔が動き、現実の陸奥の右手に魔力の炎が宿る。拳を握る。炎が揺らめく。43

2014-02-28 22:50:30
劉度 @arther456

「くぅぅぅらえええええッ!!」咆哮が、ベーリングの海に響き、その後ろに爆発音が続いた。陸奥の炎の拳は氷山空母姫の顔面に直撃し、その瞬間炎が爆発した。至近距離で砲弾の炸裂を受けた氷山空母姫は、笑ってしまうぐらいの距離を飛び、そして海に落ちた。44

2014-02-28 22:54:08
劉度 @arther456

「すごい……」姫の名を冠する深海棲艦が一撃で沈むのを見て、あきつ丸は呆然とするしかなかった。これがケッコンカッコカリ。想像も、計算も、遥かに超えている。「提督、おみご……」声をかけようとして、あきつ丸は固まった。提督の、笑みが引きつっている。45

2014-02-28 22:57:38
劉度 @arther456

「おい、ウソだろ……?」同時に、妖精さんが叫ぶ。「氷山空母姫、沈黙していません!これは……!?」あきつ丸はもう一度モニタを見た。波間から巨大な腕が伸びていた。その材質は機械でも細胞でもない。氷だ。腕に続いて胴が、そして頭が。氷結した海水が巨人を形作り、立ち上がった。46

2014-02-28 23:01:33