加賀さん観察日記 Part9

  まとめのまとめ http://togetter.com/li/661480 続きを読む
1
前へ 1 2 ・・ 14 次へ
キタユキ @k_t_y_k

「……私が退院して、鎮守府の凍結が解除されて、保護されてた奴らが戻って、びっくりしたよ。20人ちょっとしかいねえんだもん。100人近くいたのか。20人。いや、25人かな。25人も残ってくれただけでも嬉しかった。……半分以上、死んでたけどな」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 19:40:41
キタユキ @k_t_y_k

「戻ってくるまでの間は、鳳翔さんが皆の面倒を見てくれてた。天龍の顔見たときは本当に安心したよ。ああ、あいつまだ死ねなかったんだなって……足柄とかなんであいつ生きてんのか不思議なぐらいだったし、馴染みの顔は結構残ってくれてた。白雪、暁、時雨……」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 19:45:27
キタユキ @k_t_y_k

提督はぶつぶつと、艦娘の名前を呟きながら指折り数えている。残っていた艦娘達。空母が2隻。戦艦が1隻。潜水艦が2隻。重巡が5隻。軽巡が3隻。残りは全部駆逐艦のようだ。僕が会ったことのある名前もちらほらあったけど、他の艦娘達がどうなったかは、想像に難くなかった。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 19:50:29
キタユキ @k_t_y_k

「あ、でもな、他のとこにいってた奴は皆帰ってきてくれたよ。欠員も補充したし、1年でガタガタだったとこも全部立て直した。死んだやつと私の体ぐらいだよ、どうにもならなかったの」鬱屈した内容と裏腹に、提督はけらけらと愉快そうに笑っている。「起こったもんはしゃーない」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 20:14:06
キタユキ @k_t_y_k

「……あ、ごめん。話脱線した。ごめんな、初日からこんなどうでもいい話。まあ言わんかったところでどうせ解る話だし。そうだ、そういえば初雪ちゃんの部屋はどうする?いつもどうしてた?」初雪とはずっと同じ布団で寝てる、と伝えると、提督は口笛を鳴らした。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 20:32:02
キタユキ @k_t_y_k

「ヤボなこときくけど」また廊下に歩みを進めながら、提督は僕に尋ねた。「見習いくんよ、お前にとって初雪はどういう存在?」僕にとっての初雪。初雪は、死んだ妹の代わりにやってきた。雰囲気がよく似ているから、と父は言う。髪が長くて、大人しい。顔は似ても似つかないけど。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 20:38:56
キタユキ @k_t_y_k

僕は5年間、初雪を妹として見てきた。一緒の食卓でご飯を食べて、一緒の布団で寝る。妹が小児ガンになるまではずっとそうして暮らしてきたし、僕はもう16になるけど、今も初雪とそうして過している。提督になろうと思ったのは、そうすれば初雪とずっと一緒にいられるからだ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 20:43:11
キタユキ @k_t_y_k

「シスコンも大概やな」また提督はケラケラと笑う。「そうかそうか。お前にとって初雪は、妹の代わり……いや、家族ってわけか。そうか。いいよ、別に艦娘をどう扱おうが自分の勝手だし。でもな」階段に差し掛かり、提督のブーツの踵がリノリウムを蹴った。硬い音が木霊する。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 20:45:57
キタユキ @k_t_y_k

「そうやって大事な人の代わりを作ってしまうと、後でもっと辛い思いをすることになる。もし初雪が死んだら?お前は次の初雪を迎えられるか?そうやって代わりが代わりをどんどん呼んでいって……結局、元の思い出も、自分も、何もかも磨り減って終わり。艦娘は代用品じゃないよ」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 20:48:03
キタユキ @k_t_y_k

靴底を鳴らして、階段を降りていく。2階は重巡の部屋らしく、廊下で古鷹とすれ違った。古鷹は僕の顔と初雪を見比べて、ああ!と小さく声を漏らすと、「お久しぶりです。今日から宜しくね」とニコニコ微笑みかけてくる。どうやらこの古鷹は、僕と初雪のことを知っているようだ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:01:33
キタユキ @k_t_y_k

「古鷹は残ってくれてた重巡の一人。他にいたのは足柄と、羽黒と、鳥海と、あと誰だ、摩耶だったけな。鳥海はドックだし、摩耶は外見回ってるから、よく会うかも。羽黒は……滅多に出ない。会いたいなら私より陽炎に話通して。付き人だから」古鷹は初雪と話している。楽しそうだ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:06:12
キタユキ @k_t_y_k

「そういえば提督、綾波さんから伝言です。加賀さんが早くきてほしい、って。早くいってあげたらどうですか?きっと寂しがって鳴いてますよ」そういえば、この鎮守府の秘書艦は加賀と叢雲だった。初雪を引き取りにきたとき、大小仁王立ちで出迎えられて内心怖かったのを覚えている。#加賀さん観察日記

2014-03-04 21:11:29
キタユキ @k_t_y_k

加賀は元気なようだけど、叢雲の方はどうなんだろう。朝に出迎えられたとき、艦隊の列の中にはいなかったような気がする。つかぬことを聞きますが、と提督に声をかけ、叢雲がどうしているかを聞く。すると提督は、自分の胸を指で叩いた。まるで自分が叢雲だ、と言うかのように。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:13:26
キタユキ @k_t_y_k

「あいつは私の中で生きてるよ……永遠にな」冗談っぽく提督が笑うのを見て、初雪とじゃれていた古鷹が、ばつの悪そうな顔をした。「……提督」「気にすんなよ。事実だし。叢雲は犠牲になったのだ……私を生かす犠牲にな……」提督が帽子を取る。僕は驚愕した。叢雲がいる。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:17:20
キタユキ @k_t_y_k

「遺伝子の塩基配列で、どの艦娘の型との相性がいいかが決まる。私は吹雪型が一番相性がよかった。だから移植もすんなり……ってわけ。でもあいつホントバカだよ。うち、他に吹雪いたのに、真っ先に自分のこと使ってくれっていったらしいし。バカじゃねえの。こんなクズのために」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:20:34
キタユキ @k_t_y_k

叢雲の顔で、提督は笑う。赤い目が二つ、白い肌の上で揺れる。でも僕は、彼女のことを艦娘ではなく、一人の人間として認めていた。不思議なことだけど、事実は小説より奇なり、というのは本当にあるんだな、とただ率直な感想だけが胸から頭へすっとかけのぼっていた。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:28:53
キタユキ @k_t_y_k

「なんでこんな気まずい話ばっかり……まあでもな、叢雲がいなくなったからって、私がいる。加賀もいる。残ってくれた皆もいるし、戻ってきてくれた皆もいる。前向いてかんとな。そうじゃないと、酸素魚雷食らわせるわよ、ってな」冗談交じりの口真似は、案外似てなかった。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:38:47
キタユキ @k_t_y_k

その後、妙にギクシャクしてしまったのを気にしたのか、提督はずっと喋りっぱなしだった。艦隊にいた軽巡が実は幽霊だったとか。艦隊のアイドルの十八番が般若心経だとか。全くなんのフォローにもなっていなかったけど、妙におかしかったので、僕はそのまま聞きつづけていた。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:55:14
キタユキ @k_t_y_k

初雪は知っている艦娘と話して緊張がほぐれたのか、鎮守府の外を出て、ドック・車庫・営倉と回る頃には僕の横を並んで歩いていた。そういえば、荷物は廊下に置いてたけど、縄は手に持ったままだ。ふと初雪の手を見やり、そこから伸びる先を見ると、腕が括りつけられていた。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 21:58:17
キタユキ @k_t_y_k

僕は思わず声をあげ、飛びのく。初雪は自分が何を持っているのか全く理解していないようで、縄跳びで遊ぶみたいに上下に動かし、腕を跳ねさせていた。「あ、それ、夕立のおもちゃ。そのへんほっといて。初雪ちゃん後で手洗いな」よく見ると縄は腸だった。酸味が口に広がってくる。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 22:01:43
キタユキ @k_t_y_k

吐き気を何とか抑えこみ、鎮守府の、荷物を置いた部屋に戻ってきた。「ちょうどベッド二つあるし、初雪ちゃんと使い。じゃあ、今日は疲れてるだろうし、ゆっくりどうぞ。テレビは休憩室にしかないから、見たいんならそっちで。他の奴らもようけおるけどな」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 22:20:07
キタユキ @k_t_y_k

ノートPCを立ち上げ、今日の報告を作成する。そういえば夕食の時間がそろそろだけれど、さっきの「おもちゃ」のせいであまり食欲が湧いてこない。提督は平然とした様子でいたけれど、僕もああならないといけないんだろうか。初雪は疲れたのか、ベッドで寝顔を見せている。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 22:30:35
キタユキ @k_t_y_k

朝食は朝礼も兼ねるので全員集合だが、昼食と夕食はバラバラで、部屋でとっても構わないらしい。僕は初雪の分の食事も取りに疲れた腰を上げた。僕達の部屋は執務室や戦艦の部屋と同じ1階にある。食堂や酒保は反対側の建物にあるので少々遠い。執務室の前を通ると、話し声がする。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 22:35:19
キタユキ @k_t_y_k

提督ともう一人、誰かが話しているようだった。気になって聞き耳を立ててしまうが、声がくぐもってよく聞こえない。何とかして聞こうとしていると、肩にちょんちょんと物が当たる感触がした。僕は慌ててドアから離れ、何が当たったかを確かめようと辺りを見回した。が、何もない。#加賀さん観察日記

2014-03-04 22:41:09
キタユキ @k_t_y_k

「下」不機嫌そうな声が腹の辺りから聞こえ、見やると小さな艦娘がいた。鉄の上げ底にメタリックなサンバイザーをしている。独特なシルエットだ。「君ぃ、何しとんの?要あるんやったら、ノックぐらいしいや。女の部屋の戸ぉに顔つけよって、気持ち悪いわ」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 22:43:46
前へ 1 2 ・・ 14 次へ