ヒア・カムズ・ザ・サン #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは不意に大通りへ踏み出した。決断的足取りで進む彼の視線の先には武装ヤクザ集団が……そして集団に囲まれ、ライフルの銃身で殴り倒される市民の姿があった。「アイエエエ!」「スッゾオラー!」(((捨て置け!ニンジャと関係無し)))ナラクが咎める。足取りは速まった。21

2014-03-05 22:29:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

市民は粗末ななりをしていた。およそ文明から隔絶されたかのような貫頭衣は、地理的要素を加味してなお凄まじい。禿げた中年の男は頭から血を流しながら、ぼんやりと、近づいてくるニンジャスレイヤーを見る。その目がニンジャへの恐怖で見開かれるより早く、ヤクザ達が銃を構えた。「スッゾー!」22

2014-03-05 22:35:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その指が引き金を引くより早く、投擲されたスリケンがヤクザの眉間を貫いていた。「「グワーッ!」」二人死亡!残るクローンヤクザが銃撃を開始!BRATATATAT……「イヤーッ!」弾丸めいた跳び蹴りが一人の首骨を粉砕!死亡!「イヤーッ!」三角飛び蹴りが隣のヤクザの頭蓋骨破壊!死亡!23

2014-03-05 22:39:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ!ニンジャナンデ!」中年市民が叫んだ。「ザッケンナコラー!」最後のクローンヤクザがチャカ・ガンをニンジャスレイヤーへ向ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」掌打が顎を破壊!その勢いで頭が540度回転し死亡!ニンジャスレイヤーは中年市民の首根を掴む!「アイエエエ!」 24

2014-03-05 22:43:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

市民をほとんど引きずるようにして、ニンジャスレイヤーは別の路地へ入っていった。トタンの壁はまるで迷路じみて、彼らを深みに誘う。入り組んだ路地を幾つか経由し、錆びついたソバ屋台の陰に市民を座らせると、ニンジャスレイヤーはその肩を揺さぶり、問いかけた。「そこで何をしていた」 25

2014-03-05 22:47:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「つ」市民の瞳孔はほとんど開ききっていたが、己が危機から脱したこと、それがこのニンジャスレイヤーによって為されたことを認識するにつれ、市民は徐々に落ち着きを取り戻していった。「捕まったのです。"外"に出ようとして。失敗しました」「オヌシ一人か」「いえ、三人で。二人はきっと」 26

2014-03-05 22:51:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ニンジャスレイヤーは市民を観察する。この者は元村人、現在は奴隷だ。貫頭衣は強いられたものである。人間の尊厳を奪い、反抗の意思を削ぐ事を目的にしているのだ。「私は侵略者の手のものではない」ニンジャスレイヤーは厳かに言った。「外とは……村の外を意味しておらぬだろう」 27

2014-03-05 22:54:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ?」市民は目をしばたたいた。「何をご存知で」「この村の何処かに脱走民の隠れ家がある筈。我々はそこに用がある」「どこまで知ってるんです……いや、言えやしません」市民は首を振った。「アンタみたいな人、こうやって助けて警戒を解いて、場所まで案内させて、一網打尽狙いでしょ」28

2014-03-05 23:02:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「一網打尽だと?成る程その通りだ」彼は頭を上げ、空を裂く光線を睨んだ。「我々はこのふざけたアマクダリ施設を叩き潰す為にやって来た。だが、その為にはオヌシらの情報が要る。たとえそれが断片であってもだ」29

2014-03-05 23:12:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「潰す?あの工事を?ここらの、そこらの。あいつらを?」男は声ひそめ、信じられぬという様子で周囲を見渡した。「無理だ。ニンジャだって居るんです!いや、アンタもニンジャですけど……つまり、そうだ!ニンジャは恐ろしいんです」「こうして話す時間も惜しい」ニンジャスレイヤーは遮った。30

2014-03-06 22:31:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は懐から携帯端末を取り出し、ノーティスを確認した。違法暗号短距離信号無線ネットワーク基地局からのIRCメッセージ。彼は男に言った。「ハマという少年を保護している。ネオサイタマからカナリーヴィルに先頃帰ってきて、誰何された」「ハマ!カワコイデのとこの天才児!」男は目を見開く。31

2014-03-06 22:37:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「畜生、めでたい話もあったもんじゃないかよ」男は目頭を押さえた。「いや、めでたくない!よりによってこんな時に!無事ですか!」「保護している」ニンジャスレイヤーは繰り返した。「知人か」「近所付き合いですよ」男は俯いた。「カワコイデの一家はきっともう……いや、わからねえ」32

2014-03-06 22:40:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アジトへ案内する理由はできたか」「ハマの名に免じて、いや、そんな偉そうな事言うつもりはありません。わかりました。考えてみりゃ、私一人で行き着けるとも思えねえ。一か八かですよ、私にとっちゃ。アンタを連れて行けば、少なくとも道中のヤクザを倒してくれるでしょう」二人は歩き出した。33

2014-03-06 22:47:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう夜だ。夜陰に乗じるってンです」男は歩きながら振り返り、そのつど話す。「これね、はじめはロケット打ち上げ場を作って村おこしをするって話だった。いや、今もそうなのかもしれませんがね。もはやわかりません。明らかなのは、とにかく私達の描いた絵と全然違う話だったッてだけです」 34

2014-03-06 23:00:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

後について路地を進みながら、ニンジャスレイヤーは遮らず聞いた。男は続けた。「失われていた宇宙計画再開!夢だ。産業道路を使って、ネオサイタマから人がわんさと来る。需要ですよ。そう思っていた。村長もえらく乗り気だった。結局騙された。胡乱な毒物タンクローリー車が続々やってきた」35

2014-03-06 23:08:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「待て。10秒」ニンジャスレイヤーは男を促し、交差路へ出るのを留めた。無人哨戒機が夕闇に走査光を投げながら通過する。男は声を潜め、「急に発電所まで作って!あれよあれよという間に、どんどん進んでいくんです。フクトシン博士の事も我々は大歓迎でね、宴会もした。最初に会えただけです」36

2014-03-06 23:14:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは多少の危険を冒してマグライトをつけた。「持っていろ」彼のニンジャ暗視力があれば彼自身の行動に支障はないが、この男とはぐれれば、掴みかけた糸口がふいになってしまう。「何か誤解があった、甘い事を考えていた、そう気づいた時にはもう、村は深みにハメられていました」37

2014-03-06 23:22:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は壁の金属看板に顔を近づけた。事前の取り決めを知らねば気付く事のない、傷めいた矢印が刻まれている。「こっちです。……エンタープライズ会社が弁護士の連中を集め、質疑応答の場を設けた。それが罠、いや終わりだった!参加した自治会の人間はその場で銃に囲まれた。まるでクーデターです」38

2014-03-06 23:39:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

有無をいわさぬ開発、住民の奴隷化、地域そのものの破壊的改造。悪夢じみた行いである。だが、その拙速さが気にもなった。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せる。何らかの期日があると見るのが自然か。モジュール式の発電所まで設営する大掛かりな工事。恐らくロケット工場という点に嘘はない……。39

2014-03-06 23:48:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今この瞬間ニンジャスレイヤーの胸中によぎったのは、アマクダリの陰謀とは何の関係もない過去のイクサである。「ここだ……やった」男の声が彼を現実に引き戻す。男は安堵のあまり座り込みそうになった。「畜生あいつらは辿り着けているか……」男は呟き、道路脇のワータヌキ像に手をかける。40

2014-03-07 00:00:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私がやろう」ニンジャスレイヤーのニンジャ膂力が、容易にワータヌキ像を動かした。等身大彫像をずらした奥の袋小路には古ぼけたマンホールがある。「昔使われていた避難所の名残です。町自体が随分変えられちまってて、探すのに難儀しました」男は屈み込み、マンホールの蓋を外した。 41

2014-03-07 00:09:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蓋の下にはタオルを頭に巻いた男の顔があった。歩哨だ。無愛想な睨みが見上げた。「オミロ=サン。辿り着いたな」「アイエッ!……シグノ=サンか。その、なんだ、随分深さがねえ穴だな……」「つけられていないか?」「いない、いないが、そのう……いいか?敵じゃねえんだが、ニンジャがよ……」42

2014-03-07 00:19:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……本来は災害時の急場をしのぐ貯蔵庫として作られたと思しき空間、弱いLEDボンボリの灯りが、車座になってアグラする者達を照らしていた。彼らはみな屈辱的貫頭衣を捨て、この場に備蓄されていたとおぼしきジュー・ウェアで身を固めている。オミロもだ。赤黒のニンジャだけが例外である。43

2014-03-07 00:36:18