長谷敏司先生による第34回SF大賞受賞作紹介等まとめ
- saysyounen
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つまり、個人的に紹介文を書くのが難しい小説なのだ。内容よりも先に、作家の意識として〝上手い〟ことが目についてしまうからだ。読者さんの多くは技術を読書の主たる動機にするわけではないから、書き方を考えないと紹介としては機能しがたくなってしまう。
2014-03-08 22:53:48なので、今回の紹介では、落選した側の拙作『BEATLESS』についても言及する手前味噌をご寛恕いただきたい。たぶん、長谷が書くならそれがわかりやすいだろうし、その手法をとって一番角が立たないのは自分だろう。
2014-03-08 22:57:04『ヨハネスブルグの天使たち』を読んで驚くのは、DX9というギミックそれ自体についての記述が極限まで削られていることだ。長谷敏司がDX9というギミックを使って書いたなら、墜落によって二足歩行を成立させているどういう仕組みが損傷して、動きに影響が出てといったことを延々書いたはずだ。
2014-03-08 23:01:05そして、その結果、SFファンの読者さん以外には興味のないことに紙面を費やし、広い読者層に訴求する切れ味を大きく減じただろう。宮内悠介の選択はまったくもって正しい。同作品が直木賞候補にあがったのも、書くことの選別の精確さがベースにあるのだろう。
2014-03-08 23:02:33SFファンの読者さんにならむしろその冗長さが娯楽になる部分がある。だが、芸になるかはまた別の難しさがあり、その芸のうまい下手も出る。そして、冗長さを喜ぶよりも、切り詰められた選別を喜ぶ読者さんのほうが遙かに多い。おそらくSFを広く読んでもらう壁を突破するには、選別が必要なのだ。
2014-03-08 23:05:27長谷自身は、読者さんにしばしば冗長さをご批判いただく作家だけに、肌の感覚でも思う。人型アンドロイドに投身をさせれば、当然損傷に対する強さに差があり、丹念に描けば面白い。けれど、機械の壊れ方への愛着は広いフックにはならない。SFを書かせていただくとしばしば忘れてしまうのだけれど。
2014-03-08 23:10:04『ヨハネスブルグの天使たち』には、すばらしく高度に、SFを広く読んでもらうために何が必要で何を省くべきかの技術と知見が詰まっている。近未来ものでも「現代から何年離れているかをわかりやすく明示しないほうが説明が軽くなる」のは、基本的かもしれませんが個人的にちょっと驚きでした。
2014-03-08 23:13:34『BEATLESS』では様々な要素をエピソードとして膨らませて細部を描きながら量を増大させ、その塊から、見たことのない風景に到達しようとした。『ヨハネスブルクの天使たち』では、連作短篇集として鋭くカットしたものをつなぎ合わせると独自の何かが浮かび上がってゆく。
2014-03-08 23:18:08見当違いをする危険を冒しても踏み込むほうが、作家が書く紹介文らしいと思う。『BEATLESS』では世界の中で人間が可換であることを、身近な舞台を中心に記述している。『ヨハネスブルグの天使たち』では、地球全土で起こっていることでもそうだと問題意識を巻き込んで記述しているように思う。
2014-03-08 23:26:16拙作では、情報が際限なく膨らむため、基本的に地球規模のことを記述しないようにした。受賞作では、短編連作という点を結んで、全体像を描いている。そうなると、DX9というギミックにそれだけの汎用性と強度が求められる、ようにSFを中心に考えると思う。
2014-03-08 23:28:05先にも書いたように「現代から何年離れていると距離感を明示しすぎない」という絶妙のすり抜けかたで、それを回避してしまった。近未来でもそこを曖昧に書くことで、暗喩(メタファ)として扱えるのだ。驚くほど上手い。けど、なにか釈然としない。だが、ギミックは間違いなく十全に機能している。
2014-03-08 23:29:10だが、あたりまえなのだ。『BEATLESS』で使ったアナログハックというギミックは、機械側にこころや感情にあたるものがなくても様々なことが支障なく働くというものだった。これは機能した。つまり、あってもなくても働くものならブラックボックスと扱って詳述を回避することも可能なのだ。
2014-03-08 23:31:25hIEとアナログハックというかたちで『BEATLESS』ではそこを中心に世界を記述している。文章量がそのために増大しても、そうすることを選んだ。DX9はそこをするりとスルーしてしまった。そして、広い世界に見たことのない風景を求めている。
2014-03-08 23:32:53小説単体としての完成度を比べたとき、『ヨハネスブルグの天使たち』に軍配があがるというのは、妥当であると長谷自身も思う。次にどう書けるのか、技術的な課題を考え続けている身としては、宮内悠介の作品には大きな刺激を与えてもらっている。
2014-03-08 23:39:30今回はちょっと紹介文としては分析によりすぎているけれど、ボーカロイドをギミックの元ネタにしたSFの作家による紹介なのでご勘弁を。長谷が書くならこういう文章のほうが面白いかと考えたのですが、紹介文として間口を狭くしてしまったかもしれません。
2014-03-08 23:42:29『ヨハネスブルグの天使たち』について、興味わかれましたら本を手にとってみてください。もろもろの社会情勢もあり、海外ニュースに触れる機会も増えている今だからこそ、いっそう面白い小説です。 http://t.co/lUwdawigMY
2014-03-08 23:45:41よくよく考えてみると、『NOVA』シリーズについて紹介が必要なSFファンのかたというのは、今や想像しがたい。けれど、このアカウントを見てくれているアニメファンやゲームファンの皆さんに、何か伝えることができるのか。考えどころではある。
2014-03-08 23:57:18『ヨハネスブルグの天使たち』については、長谷の立場からだからこそ手狭な話になった紹介でもあります。異論反論、自分のほうがしっかり語れるという思いのあるかたたくさんおられるでしょうから、盛り上がってくださるとうれしいです。祭りの主役は読者の皆さんなので。
2014-03-09 00:01:02@t_trace 恐縮です。読者さんに盛り上がってもらうには、もう一押しあったほうがいいかと考えた程度の思いつきでして。若い読者さんに面白そうなことをやっていると思ってもらうには、作家が率先してやってみるのもアリだろうというくらいの発想でもあります。
2014-03-09 22:32:02@yuusakukitano 候補者がこんなことを始めるのもどうかと思うところもあったので、そう言っていただけて本当にありがたいです。読者さんにも、作家はしあわせだと思っていただきたいですね。
2014-03-09 22:37:01