座礁艦隊その５　～どんだけ喰うの朧ちゃん～

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

細い目。大きな鼻。厚い唇。ヒゲの剃り跡。浅黒い肌。硬質な髪。丸太のようなうなじ。強張った肩。毛深い腕。節くれ立った指、が、私に侵入する。広い背中に手をまわし、掻き抱く。普段は出すことのないハイトーンの嬌声が漏れてしまう。愛しさ。高鳴り。そして罪悪感。 #座礁艦隊

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夢を見ていた。とても心地の良い内容だったはずだけれど、目が覚めると同時に忘れてしまった。わずかな引っかかりを残して。身体を起こす。昨夜のドレスのまま寝てしまったらしい。このようなものを着たのはいつ以来だろう。意識し始めると、落ち着かない。 #座礁艦隊

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時刻は朝の8時。起床時間はとっくに過ぎている。さっさと着替えよう。そう思ってベッドから降り、ドレスを脱ぐ。 「叢雲、まだ寝てるの？ もう朝ごはん終わっちゃ…あ」 朧が入口から覗き込んでいた。起こしに来たらしい。っていうか、なんで顔赤いの？ #座礁艦隊

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「ご、ごめん。着替え中だったね」 サッと引っ込む朧。別にいいわよ。今起きたから。あなたはもう食べたの？ 「ううん、まだ」 それじゃ一緒に食べない？ すぐ着るから。 「えっ、う、うん。食べる！ 待ってる！」 なんか、変に張り切ってるわね。 #座礁艦隊

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下着を変え、いつものインナースーツを着る。その上に、迷彩服。叢雲タイプの体型に合わせた特注品。着衣装甲と同じ材質で、それはつまり妖精さん製であることの証でもある。艦娘の艤装や武器弾薬は妖精さんにしか作れない。 #座礁艦隊

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燃料や鋼材、ボーキサイトは人間が採取したり精製したものだけど、そこから妖精さんの手が加わり人の作れない材質に変わる。その工程は艦娘である私もよく知らない。 「なんで君たちは、人間の姿をしてるんだ。なぜ、軍艦のまま蘇ってこなかった」 不意にオッサンの言葉を思い出す。 #座礁艦隊

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注) 現在の座礁叢雲ちゃんはいろいろあって(ない)ベリショデコ少女です。趣味です(キッパリ)

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注2) 座礁巻雲ちゃんもゲジ眉ガチ近眼クマソバカス歯列矯正発育不良です。フケも出ます。性格もクソです。アサイラム巻雲ちゃんリスペクトです。趣味です。なにもおかしくはない。いいね？

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非難などではなく単純な疑問として発せられた問いに聞こえた。言われてみれば、私たち艦娘がなぜ人間に限りなく似た姿をしているのか、私たち自身、知らない。深海棲艦に人型があって、それに対抗するため同じ人型となったのか、よく言う「深海棲艦と深いつながりがあるから」なのか。 #座礁艦隊

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いや、オッサンの問いは、そういうことを聞いてるんじゃないような気がする。もっと根源的な…、 「叢雲？」 ああ、ごめんなさい。今行くわ。すぐに答えの出ないことをぐだぐだ考えても仕方が無い。今は、食事だ。 #座礁艦隊

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配食所はもう誰もおらず、調理場も換気扇のごうごうという音以外は静まり返っていた。幸い朝食の残りは置いてある。ビュッフェ形式で好きなものを好きなだけ皿に取るスタイルなのだが、今朝の主食は白米、主菜も副菜も汁物も漬物もデザートも一種類、飲み物は水か牛乳と、 #座礁艦隊

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つまり何をどれだけ取って、あるいは取らないかの自由しか無い。鎮守府の食事がかなり贅沢な方であったのを今更ながらに思い知る。とはいえ一見して(人間向けには)栄養バランスの考えられたまともな食事だ。とりあえずここにあるものは全部エネルギーになるが、もともと艦娘は少食。 #座礁艦隊

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特に人間とほとんど同じ食事が出来る駆逐艦は、同じものを食べても人間よりはるかにエネルギー摂取効率が良い。一口二口で済む程度の量を、それぞれ分けて行く。そういえば初日の晩御飯は多かったな。 「叢雲って、あんまり食べないんだね」 と言う朧のトレーを見て、私はぎょっとした。 #座礁艦隊

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山と積まれたどんぶり飯、残っていたものをほぼ全部かき寄せた主菜、副菜、漬物。デザートのオレンジはまるまる二個分を載せてある。牛乳はピッチャーごとだ。えっ、朧、それ全部食べるの？ 「そうだよ。食べなきゃ戦えない。でしょ？」 そうだけど、いくらなんでも多すぎじゃない…？ #座礁艦隊

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「だって、提督が、食べなきゃ強くなれないぞって。駆逐艦のみんなも巡洋艦のひとたちも、みんなこれくらい食べるよ？」 いったいどんな鎮守府なのよ…。 ビニールの窓に面したテーブルに向かい合って座り、食べ始める。私は朧の量に合わせ、ちまちまと摘まむ。 #座礁艦隊

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対して、ものすごい勢いでかき込む朧。ご飯が、肉が、野菜が、どんどん彼女の腹に収まっていく。で、その相撲部屋も真っ青のエンゲル係数を誇る鎮守府はどこなのかしら。 「んっ。大湊警備府の第869支部。宮城県にあるんだ」 国内か。私もよ。横須賀の第13支部。伊豆の端っこ。 #座礁艦隊

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へええ、と朧が目を輝かせる。 「一番古い、あっごめん、歴史のある鎮守府だ。叢雲ってもしかして、すごいの？」 残念ながらノー。うちの支部は何代目か何十代目かで、私はその初期艦娘だっただけ。民間鎮守府なの。だけど、司令官は元海軍少佐。自慢じゃないけど、いい支部よ。 #座礁艦隊

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ね、ねえ、と、朧は急にかしこまる。 「このお仕事が終わったら、遊びに行っても、いいかな…」 別にいいわよ、と私が答えるないなや、空いていた左手をぐっと朧の両手が掴んだ。 「ありがとう。一緒にがんばろうね！」 う、うん。目が一段とキラキラしている。なんだろうこの雰囲気。 #座礁艦隊

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「はー、百合の花が咲き乱れておりますねー、胸焼けしちゃいます」その声が配食所に響いた途端、朧はばっと手を話し、俯いた。あら巻雲、アンタのご飯もう無いわよ。 「私は別に。クソ人間どものクソ飯なんかクソ米一粒たりとも口にしませんので。艦娘は燃料と鋼材が主食でしょう？」 #座礁艦隊

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あっそ。じゃあどうしてここにいるのかしら。ここはアンタの言うクソ人間がクソ飯を食らう場所よ。 「いえね、ゆうべはまともに分隊行動も出来ませんでしたし、今後のためにお二人と仲を深めようと思いましてね。おや朧さん何ですかそのクソ飯の山。まるで人間みたいな真似をしますね！」 #座礁艦隊

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朧は俯いたまま何も答えない。 「こんなにクソ飯食らったって、ほとんど無駄になるだけじゃないですか。私たちは艦娘ですよ。兵器なんですよ？ わざわざクソ人間の真似してやる必要なんか無いんですよ。そりゃ今は奴らに従ってますけどね、深海棲艦を一匹残らず駆逐した日には私達の…」 #座礁艦隊

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

こいつもう一回痛い目見ないと分からないか。私が立ち上がろうとする、よりも早く、朧の、テーブル越しのジャンプキックが繰り出されていた。が、巻雲は華奢な腕でその脚を絡め取り、引き倒す。 「ぁぐっ！？」 倒れた朧に間髪いれず巻雲がのしかかり、両手で頭を連打する。 #座礁艦隊

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瞬く間の形勢逆転に、朧は抵抗できない。ガツンガツンと朧の頭が地面に叩きつけられる。ようやく私は我に返り、巻雲の両腕をひっ掴む。巻雲は掴まれたまま朧を踏みつけにして跳び、私の胸を蹴って退いた。 「全く暴力的な人マネ達だ」 頭を掻いて巻雲が吐き捨てた。フケが落ちている。 #座礁艦隊

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「任務中はくれぐれも、人マネにかまけてご迷惑をお掛けになりませんよう」 濃いクマの乗った目をにたにたと歪ませ、だぶだぶの袖を振って巻雲は出て行った。朧はその場に倒れたまま、泣いていた。大丈夫？ 立てる？ #座礁艦隊

RyoRi （VRVape屋さん） @ryorinovels

朧は涙と鼻血で顔をぐちゃぐちゃにしながら、 「叢雲、アタシ、悔しい」 と、絞り出した。そうね。あのクソメガネ、殺してやりたいわね。 「違うの」 え？ 「アタシ、もっと強くなりたい。アタシのやり方で。アタシの鎮守府のやり方で。アイツ、見返してやりたい」 #座礁艦隊