Side 金剛

4
ながら @Nagara_KDZK

「ヲ級拾った提督」の続きを漠然と考えてたら、利根の無断出撃について「おまえがいつまでもふらふらしとるからだ!」と書類一式投げつけてくる上司と、全力で反抗する提督というひどい展開になった。毎度ながら終われる気がしない。

2014-03-16 20:40:32
ながら @Nagara_KDZK

[Side 金剛]「横須賀郊外上空で重巡利根の索敵機が全機未帰還」の非常事態は、公式には存在しないこととなった。そんなバカなと思ったところで、実際にそう処理された。おかげで私たちの艦隊は、利根を含めて思わぬ休暇を手にすることとなった。提督も鎮守府には来ていない。#twnovel

2014-03-17 00:38:46
ながら @Nagara_KDZK

来客があったのは、休暇処分の決まった日の午後だった。「提督はいるかね?」軍令部の上司が、私をなめるように見回しながら言う。決して頼りになるとは言い難い提督だが、こういうことをしないところは高く評価していいと思う。「当艦隊は本日事実上の謹慎で、提督も不在でして」#twnovel

2014-03-17 00:42:24
ながら @Nagara_KDZK

「仕方ないな。これだけ届けに来たんだが……」「お預かりしましょうか?」二度は来ないでもらいたいという言外の意図を隠して言う。駆逐隊を守るのが水雷旗艦の使命ならば、戦艦も同じだ。「そうか、ならば頼もうかな。預かったのが古参の君ならば、彼も信頼するだろう」#twnovel

2014-03-17 00:48:58
ながら @Nagara_KDZK

大判の封筒を預かり、執務室へ向かう。中では小箱のようなものがころころと移動している。「提督ぅ、金剛入りまーす」。鍵はいつもかかっていない。執務室の扉を開けると、案の定誰もいない。「私が敵艦なら提督何回死んでまーすか…」ため息をつきながら、机に封筒を置く。#twnovel

2014-03-17 00:53:55
ながら @Nagara_KDZK

『第三次改装計画と条件の設定に関する指令書』。無造作にゴミ箱に入れられた書類が目にとまった。私の装備の第二次改装はこの間行ったばかりだが、第三次改装計画があるなら、興味がないといえば嘘になる。取り出して見てみたい、という誘惑を振り払って、私は執務室を後にした。#twnovel

2014-03-17 00:58:44
ながら @Nagara_KDZK

鎮守府周辺の深夜哨戒…つまりは散歩、は買い食い。随分と久しぶりの悪行に向かうため足取りも軽い私の耳に、大きな音が聞こえた。見れば執務室の扉から、明かりが漏れている。いつも適当に積んである荷物でも崩れたのか、提督は無事かな、と適当な口実を考えながら近づいた。#twnovel

2014-03-17 01:06:09
ながら @Nagara_KDZK

「提督!なにやってるデスか!」ガラス瓶を片手に、崩れた書類と、書籍と、吐瀉物に埋まっていた彼を抱き起こす。その様子は明らかに尋常ではなかった。だいたいが、アルコールの類を全く受け付けない彼がこんなものを空にしているというのがおかしいのだ。#twnovel

2014-03-17 01:11:05
ながら @Nagara_KDZK

心拍、ある。呼吸、残念ながらある。意識、なし。非情措置執行。パァン!と景気のいい音が5回もした頃だろうか。彼はゆっくりと目を開けた。「金剛、か…。残念、まだ生きてるらしい…」。不知火なら「では私が完遂を」とでも気の利いたことを言うのだろうが、私には無理な相談だ。#twnovel

2014-03-17 01:16:11
ながら @Nagara_KDZK

「提督にはこっちがお似合いデス」差し出した炭酸水で口をすすいだ彼が、ぽつりぽつりと話し出したのは、昼間見た第三次改装の書類の件だった。なお、頭は膝の上に大破着底させてある。スカートを気にして反対側を向こうとしたので力でこちらを向かせた。話ができないから仕方ない。#twnovel

2014-03-17 01:33:18
ながら @Nagara_KDZK

「あれは、改装じゃない…牢獄に繋ぐみたいなもんだ」「牢獄…」「改装を2回経た君ならわかるはずだ。どんなに改装をしても、最新型の装備には届かない」…認めたくない現実。私たち姉妹の装備はもはや限界に来ている。新型戦艦の配備は私も強く望むところだ。#twnovel

2014-03-17 01:39:42
ながら @Nagara_KDZK

「上層部もそれはわかっている。改装資材の意味に疑問を持ちながらも、それでも戦力増強のためには無理をせざるを得ない。そのために、提督と結びつけることで死兵とするかわりに、資材の使用を認める…第三次改装案とはそういうものだ」「ほわっっ?」#twnovel

2014-03-17 01:43:05
ながら @Nagara_KDZK

「詐欺みたいなもんだ……君たちを、街の女の子たちの夢で釣って、鎖で縛って」。提督のために強くなることを望む艦と、第三次改装の関係は、あまりにも切ない。けれど、同時にそれも理解できる私がいた。「それを、うちもやれと言ってきた」昼の、あれのことか。#twnovel

2014-03-17 01:49:20
ながら @Nagara_KDZK

「高い練度の艦に、提督への献身と決意を示すものを着用させることで第三次改装の許可条件とする……誰がこんな悪趣味なことを考えたのやら」ああ、封筒の中で転がっていたのは指輪か、とぴんと来た。たしかに悪趣味だ。私たちは兵器だ。彼らの枠には入れない。#twnovel

2014-03-17 01:55:53
ながら @Nagara_KDZK

「利根の無断索敵も、『君がいつまでも意地を張るから娘たちも余計なことを考える』だそうだ」 ああ、この人は。残酷なまでに、提督に向いていない。私たちを兵器だとは考えられない。騙して使い捨てることも、できない。私は、それでも構わないというのに。#twnovel

2014-03-17 02:05:22
ながら @Nagara_KDZK

「金剛?!」急速に近づいた私の顔に、彼は即座に反応した。つまりは、全力で飛び起き後ずさった。困った人だ。すぐ傍に、楽になれる選択肢があるのに。「ノープロブレムデス、提督」手首を掴んで、引き寄せ、抱きしめる。「私が、受け止めます。皆の想いも、提督の悲しみも」#twnovel

2014-03-17 02:13:40
ながら @Nagara_KDZK

「だから」。腕に力を込める。「仮初めでもいい」。囁く。「私を、使ってください」。囁く。「私に、頼ってください」。囁く。「私だけを、傷つけてください」。#twnovel

2014-03-17 02:19:20
ながら @Nagara_KDZK

次の瞬間に、何が起こったのか、わからなかった。まさか、曲がりなりにも戦艦たる私が、彼に、突き飛ばされるなんてことが、あり得るとは思わなかった。だからか、扉の向こうに、よろめきながら立ち去る人影を、追いかけることもできなかった。私の言葉は、彼の背中を押すどころか… #twnovel

2014-03-17 02:24:24
ながら @Nagara_KDZK

私だって、都合のいい艦を演じたつもりはなかった。提督の懊悩に便乗しようとしたことは否定しない。「これでfinish? そんなわけないでしょう?」。戦闘の景気づけにつぶやく言葉が、意識せず漏れた。…今は、追うまい。彼のことだ、明日には冷静さを取り戻しているだろう。#twnovel

2014-03-17 02:34:02
ながら @Nagara_KDZK

いつか。いつか彼が、金剛という艦が、本当に、彼のために命運が尽きるまで戦う気なのだと気づいたら。いや、気づかせたら。そのときは、絶対に逃がさない。二度の改装を経た高速戦艦の底力をイヤというほど思い知ってもらおう。時も場合も、お構いなしに。[Side 金剛 1・了]#twnovel

2014-03-17 02:39:43
ながら @Nagara_KDZK

いつか。いつか彼が、金剛という艦が、本当に、彼のために命運が尽きるまで戦う気なのだと気づいたら。いや、気づかせたら。そのときは、絶対に逃がさない。二度の改装を経た高速戦艦の底力をイヤというほど思い知ってもらおう。時も場合も、お構いなしに。[Side 金剛 1・了]#twnovel

2014-03-17 02:39:43