【クレイジーレッグズ】 福間健二 2factory59
待っていた。眠れない三角形の底辺。夜を大きな、使い途のない指にして。やがて東京の、人の死が、だれの手の、握りしめる力とも無縁になる時代が来た。まだ出会えない。逆光の、クレイジーレッグズ。何をこすり、何を割るのか。痛みと音楽はここにある。(クレイジーレッグズ1)2factory59
2014-03-10 08:10:04署名のない作曲のために。二キロメートル。夜明け、家並みの上を舞うやわらかい色のスカーフ。歩くべきだ。耳でわかる空気の明るさ。内面を、目で追って描写している、死後を生きる、目のきれいなお父さんはいまでもいる。いいこと、ちっともしないけど。(クレイジーレッグズ2)2factory59
2014-03-11 08:20:06背中と背中。「生まれる前から存在していた傷に体をあたえるために生まれた私たち」。理由の影と同期して、それを、何の真似でもないにせものにする、体から逃げる影。壊れた柵の上の、シェットランドウールの、ピンクのセーター。だれが着ていたのか。(クレイジーレッグズ3)#2factory59
2014-03-12 08:05:31事故死と自殺。歌うGと思考するG。ある時、ある場所。大地の力を、もうひとりのGが乗って生き抜く波にする。三月八日の国立の、三人のサックス奏者のように。推理小説。天と地のあいだ。だれの分身だろう。水で酔い、内面を微粒子にして噴出する。(クレイジーレッグズ4)#2factory59
2014-03-13 08:58:57何を蹴って、何を眠らせるのか。通路と光の作用。罠にかかる動物を興奮させる脚線の、滑り摩擦。計算通りにはいかないさ。シントー・シュラインの裏。梅林。いい香りがする。事実。だれかの待ち伏せ状態に浸透する「私たち」のことは心配しないで。(クレイジーレッグズ5)#2factory59
2014-03-14 08:39:30理論を食べてやせた。分析に飽きてふとった。何もしないで消えた。気の弱い東京のキツネ、そのスーツの中に隠されている歴史。ほとんど退屈だが、天使の出現する場面はある。穴があいちゃうんだものね。大きな指、暴発。キツネ、キツネ、二十一世紀の!(クレイジーレッグズ6)#2factory59
2014-03-15 09:06:00彼が亡くなり、彼女が亡くなり、やがて無計画な大阪の、苦しむ三角形は、おりる坂道を自分で用意する。しぶとい。T・レックス。G・エッグズ。C・レッグズ。ひとりで何人分もの声を出して、大正区で火焔菜を買う。オーブン、二三〇度で九〇分だよ。(クレイジーレッグズ7)#2factory59
2014-03-16 08:34:50炎とではなく、静かさ。よろこびをわかちあう竜と歩いた。建物、橋、液体をフレームの外におき、残る楕円球と色素の、このケーキのただなかに達する。静かさ、もう少し。「私たち」の狂った脚が思考するのは、まだ生まれていない音楽において、なのだ。(クレイジーレッグズ8)#2factory59
2014-03-17 09:04:10金属の管のように、やがて指が発達して、影で注意を引く。まずいと思っても、やってしまうことがある。クレイジーレッグズ、それはきみの名前だ。電気設備のいらない「卵」のなかに生きる夢の、目覚めぎわにやってしまうことを、いま、きみとしたい。(クレイジーレッグズ9)#2factory59
2014-03-19 09:33:43朝の九時から午後二時まで。キープ、カーム。義足のGを遠ざける。そうしていたい。でも、むり。自然も技巧も求めない出来事の残骸に咲く花と不規則な足音の影を再構成した「人間であることの恥ずかしさ」。書くのも、ざわめくのも、それがあるから。(クレイジーレッグズ10)#2factory59
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