#完全ノープラン艦これ与太話 【エンカウンター・ウィズ・サブピーシーズ・オブ・キメラ・ツー】　#5

春魔解丼 @vespiking

海底へと引き摺り込まれる雷神はその最中、ニタニタと笑う艦影と擦れ違い、その刹那に聞き取った。神の失墜を告げる悪魔のラッパを。伊58の声を。「ザンネンでちたな。おめーはもう、ウチのボスのエモノでち。もう逃げらんねーでちよ」「……ＡＡＡＡＡＨＨＨＧＧＧ！！！」 #KZNPLN

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巻雲はそのまま、海底に設置された巨大鹵獲装置にダイヴする！赤赤と聳える機械の大口が巻雲を呑み込み、轟音を上げてその顎を閉じる！「グワーッ！ヤメローッ！ヤメローッ！」巻雲は半狂乱になり、無尽蔵の魚雷を撃ち尽くす勢いで乱発するが、反響した爆風が己の霊体を削るのみ！ #KZNPLN

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巨大鹵獲装置は内からの雷撃をすべて跳ね返し、巻雲を削り取る！「アーッ！アーッ！」「防性ヤマタイト超合金。世界最強の合成金属でち。大本営総本部『赤レンガ』、あの万魔殿のカベもこいつの赤色でち。てめーのチンケな魚雷でアナ空く程、大本営のクソ共はヤワじゃねーでちよ」 #KZNPLN

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ガッ！「ヒッ！」雷撃の轟音で空母らを震撼させたCVスレイヤー巻雲は、装置外壁に貧弱な潜水空母の加えた打撃音に竦み上がり、赤黒い闇の中で縮こまる。「……いい加減観念しろや。こちとらてめーと違ってヒマじゃねーんでちよ」赤の棺がグラリと傾き、そこで巻雲の意識は途絶えた。 #KZNPLN

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巻雲は薄暗い研究室、そのプールの中で覚醒した。身体はうまく動かない。ゴウゴウと不気味なモーター音だけが静かに、だが威圧的に響く無生物の世界。多数のモニタには、何やらわけのわからぬ数字やグラフの群れが産まれては死んでゆく。 #KZNPLN

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『オハヨ！よく眠れたでちか？』突如、粘着くような甲高い声が静寂の唯物世界を裂いた。『巻雲とかいうシリアルキラー反逆者よ！キミに第二の人生と更正のチャンスをあげるでち！今日からキミはノット犯罪者！清く正しいわが鎮守府の工廠へようこそ！ヤッタネ！』スピーカーからだ。 #KZNPLN

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『さあ映えあるキミのセカンドライフを祝して、キミにステキなイメージチェンジ！さあ、新しい自分とごたいめーん！でち！』ガゴンプシュー！眼前のメカ鉄扉が蒸気を吹いて開き、大きな鏡を押すホバー車椅子の女がエントリーした。『ア、ア……アーッ！ＡＡＡＨＨＨＧ！！！』 #KZNPLN

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巻雲は旋律する！鏡の中、物理的に自身の身体がなければならぬプール内に浮かぶのは一本の魚雷！艦艇らしき影はどこにもない！『アーッ！ウワーッ！』巻雲は外部スピーカーから狂気の悲鳴をあげる！無理もない！目が覚めると魚雷になっていた！常人ならば発狂必死の冒涜的現実！ #KZNPLN

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『ウワーッ！ナンダコレーッ！ウワーッ！』「おーっと暴れんなでちよ。ウカツに電気ビリビリのニンポもどきでも出そうもんなら、おめー一発でドッカーンでち。人間魚雷よくない。甲標的は安全です。そのプールがおめーのスイートルームでありオブツダンなのでち」 #KZNPLN

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「だがそう悲観することもない。きみは高いインテリジェンスを有した世界初の知性魚雷になったのでち。おりこうさん魚雷でちよ。よろこべ」『いやだーっ！ヤメローッ！』「まあまあ、そういうな。つもる話もあるだろう。ゆっくりと話そうではねーでちか」ホバー車椅子がプールに迫る。 #KZNPLN

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「てめーらSoK2のしくみだ何だは、うちのボスに任せる。そいでもって、だ」伊58が車椅子からぐいと身を乗り出す。「私が知りたいのは、てめーらのお話でち。あの青虫はアテになんねー。教えろ。『敵対者』」ガッ！『ヒッ！』 #KZNPLN

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【小休止】 #KZNPLN

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●【休止が終わるでち】● #KZNPLN

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入渠ドック2F、病棟個室。 #KZNPLN

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意識不明のまま修復プールでバイオ修復を終えた熊野は、窓から差し込む朝の日差しで目を覚ました。あれから、何日が経過しただろう。伊58の鹵獲トラップは成功しただろうか。鎮痛剤により混濁した意識のまどろみで、熊野はぼんやりと天井を見つめた。 #KZNPLN

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夕張や弥生の艦影は、当然ながら無い。連中はギークである。くだらぬセンチメントよりも、目先の好奇心で行動するタイプだ。眠りこける僚艦の顔を見に行って何の得があるのか。つくづく、感性が自分と同じなのだ。熊野は心の底から安堵した。ここは、いつもの日常だ。 #KZNPLN

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「気がついたか」ボソリと低い声。「……日向、教官」満足に動かぬ舌を回し、ねばつく口から掠れた声を押し出す。「無事でよかった。きみが大火傷で運ばれてきて、気が気じゃなかった」日向は椅子に腰掛け、熊野をじっと見つめていた。 #KZNPLN

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「教官、申し訳、ありません。瑞雲……」「気にするな」「ですが」「気にしなくて、いい。航空戦艦はタフだ」「……教官。私は、私は。大切な瑞雲を」「そう、大切な瑞雲だ。ただの、普通の瑞雲だ」「エッ」 #KZNPLN

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「私にとって大切な瑞雲。それが、瑞雲六三四空だ。そして、きみにとっての大切な瑞雲。きみの瑞雲だ。わかるか」日向は壁にかかった熊野の甲板を持ち上げ、彼女の視界まで運んだ。黒く焦げた瑞雲が1機。「多少ましな状態で回収できたから、修理した。瑞雲はタフだ。きみと同じだ」 #KZNPLN

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ギプスをまいた左腕を吊った、キズだらけの妖精がその傍らに立ち、右腕で小さく着帽敬礼した。病棟なので帽子はかぶっていないが、腰に巻いたコルセットが敬意を示していた。「わかってくれれば、それでいい。工廠の皆から聞いたよ。勝ち戦だ。瑞雲の勝利だ」 #KZNPLN

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自分たちは、確かに間違いを犯したのかもしれない。人類は、艦艇は、空を目指し、航空主兵論の時代をもたらした。多くの艦艇を置き去りにして。そして、行き過ぎた航空主兵論は、怪物を産み出した。CVスレイヤー。恐るべき敵であった。 #KZNPLN

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熊野はこれからも歩き続けるだろう。瑞雲と共に、この航空と科学の時代を。人の、艦艇の歩みはどこまでゆくのか。陸海軍と空軍との差は縮まり、制空権が陸と海を支配する。航空機は嘗て艦艇の放った魚雷を放ち、戦車の無限軌道跡を悠々と飛び越える。そして、戦争から境界が消える。 #KZNPLN

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海洋や山々は国境としての意味を喪失し、かわって緯経線が境界を成す。マス目で仕切られた領土を奪い合うゲームめいた代理戦争と、戦場を効率的に燃やす爆撃機の編隊。このマッポー世界において、我々はどこまで飛び続けるのだろうか。 #KZNPLN