古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #11

更新十一回目のまとめです。 呉軍港空襲組の語る青葉。そして衣笠を打ちのめす真実。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……私が北号作戦で一隻も失わずに資源持って帰ってきたんだよって言っても誰も信じてくれなくって!それなのに、その時の旗艦が日向だったって聞いたら皆うんうんって納得してさあ!ひどいと思わない!?」 「まあ……そうなるな」 「むきー!そのドヤ顔がムカつくー!」 「まあまあ落ち着いて」

2014-03-28 03:19:14
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

利根に連れられて入った提督の執務室のソファで、対面の鳳翔さんを相手に元気よく愚痴っているのは戦艦娘の伊勢さんだ。隣に座った姉妹艦の日向さんは満更でもなさそうな顔をしていて、それがまた伊勢さんをヒートアップさせている。よくよく仲のいい姉妹だなあ、と何故か羨ましく感じた。

2014-03-28 03:25:52
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ソファの奥の執務机の横には同じく戦艦娘の榛名がたたずみ、伊勢型の掛け合いをハラハラしながら見守っていた。 「待たせたの。集まってくれるか」 利根が声をかけると、やっと私たちがいることに気付いた伊勢さんが口を閉じ、呉軍港で連合軍の空襲を迎え撃った艦たちがソファの周りに集まってきた。

2014-03-28 03:32:53
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執務室に置かれたテーブルを囲み、めいめいソファに腰かける。入れ替わりに鳳翔さんがお茶を淹れに立った。意外だったのは、執務机の椅子に雷ちゃんはじめ第六駆逐隊の面々までそこにいたことだった。執務室を借りて青葉の話を聞く以上、彼女たちにもそれを聞く権利はあるか、と思い直した。

2014-03-28 03:40:01
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着席した全員を見回し、利根が口を開く。 「さて、今日集まってもらったのは他でもない。この衣笠が、姉である青葉が昔いかに戦ったかを知りたいという事でな、呉で一緒だったみなに足労を願った。まずは集まってくれたことに感謝する」 利根が軽く頭を下げる。私もそれに倣った。

2014-03-28 03:43:58
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そこで気が付いた。呉で青葉と一緒に戦い、艦娘としてこの世界にも来ている艦が一隻足りない。 「北上じゃが、残念ながら『あの頃のことは思い出したくない』だそうじゃ。当時あやつは回天搭載母艦に改装されておったからな。すまんが勘弁してやってくれ」 私の疑問に利根が答えた。

2014-03-28 03:51:39
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無理もない、と私は思った。北上さんはあの頃すでに姉妹艦を全員失い、その上特攻兵器を積まされていた。それを考えれば思い出したくないのも当たり前だ。今でも提督に「あれ」は積まないでくれと繰り返し言っている。また、食堂で大井さんに睨むような複雑な表情をされたのも合点がいった。

2014-03-28 03:58:53
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大井さんにしてみれば、利根に頼んで愛する北上さんの辛い過去をほじくりかえすような真似をした私のことが腹立たしかったのだろう。そして、それと同時に私に共感もしたのに違いない。辛い過去に苛まれている自分の姉をただ見ている事しかできない、同じ無力感を抱えた妹同士として。

2014-03-28 04:04:06
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鳳翔さんの淹れてくれたお茶をすすり、利根が話し始めた。 「さて、始めるか。と言っても、話せることはそう多くはない。なにせ青葉は吾輩らの誰ともほとんど話そうとせんかったからの。特に吾輩とは全くじゃ」 思わず隣に座る利根の顔を見つめる。その横顔からは、いかなる感情も読み取れなかった。

2014-03-28 04:11:58
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利根の目だけが動いて、私を見た。言いづらそうに口を開く。 「鬼怒から聞いとるじゃろうな?つまり……ビハール号のことを」 私は何も言えず、ただ首を縦に振った。利根も頷いた。 「ならよい。吾輩から言う事は何もない。何を言っても言い訳になる」 青葉も何も言わんかった、と利根は続けた。

2014-03-28 04:20:23
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「ただ、呉で最初に顔を合わせた時吾輩の顔をじっと見ておった。何があったか元々わかっておったようじゃが吾輩の顔を見てそれを確かめたのじゃろうな。それからはいよいよ塞ぎこんで何も言わなくなった……」 利根の言葉の端々に、この事について何度も考え、悩み、苦しんだ傷跡が見えるようだった。

2014-03-28 04:29:56
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利根が両肘を膝に乗せ両手を組んだ体勢で下を向いて押し黙った。それを見ていられず、私は話の矛先を変えるべく榛名に話を振った。 「あの、青葉は呉で古鷹山の近くにいたのよね?」 「あ、はい。そうです。利根さんも近くにいて」 「やっぱり古鷹山をずっと見つめてたりしてた?」 「……いいえ」

2014-03-28 04:39:20
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榛名の言葉に、私は少なからず衝撃を受けた。 「むしろ、逆です。青葉さんは古鷹山にはいつも背を向けてました。時々ちらっとお山の方を見て、すぐまた顔を背けて……」 古鷹山は、古鷹ねーさんの名前の由来になった山。青葉は、その時からすでに古鷹ねーさんとは向き合えなくなっていたのか。

2014-03-28 04:45:38
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私が絶句していると再び利根が口を開いた。そして私は更なる衝撃に見舞われる。 「……そんな按配でな。みな動くための燃料すらもない、修理もままならない状態でただ水面に漂っているしかない日々じゃった。ところがある日いきなり青葉に尋ねられた。『どうすれば、償いになると思いますか』とな」

2014-03-28 04:56:02
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償い。償いって、青葉、まさか。 「あ、それ私も聞かれた!何のこと言ってるのかわかんなかったけど……」 伊勢さんが言う。日向さんと榛名、鳳翔さんも同様らしい。 「それには、なんて……?」 震える声で尋ねる。皆の答えが聞きたかった。青葉自身が選んだ答えには目を向けたくなかった。

2014-03-28 05:05:34
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伊勢さんが答える。 「私らは『これからどうするつもりですか』って聞かれたんだと思ってさ、『とにかく最後まで戦うよ。出来る限り』って答えた。でも、青葉は何にも言わないでまた押し黙って貝みたいになっちゃった」 伊勢さんの言葉に、日向さんも頷いている。青葉はどんな気持ちだったのだろう。

2014-03-28 05:15:12
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「榛名は……金剛お姉さまに、最期に『榛名は一人でもくじけちゃノーですヨ』と言われていましたから……そのお言葉通りにしようと思いますと答えました」 榛名が目尻を拭いながら言う。 「私は……『ただ運命を受け入れましょう』とだけお答えしました」 と鳳翔さん。

2014-03-28 05:22:43
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皆、それまでの戦いで仲間や姉妹艦や自分の子供のような艦をことごとく失っている。それでも、青葉の問いに対して決して後ろ向きな答えは返していない。傷付いていても、身動きすら取れなくとも、みんな最後まで戦う気だったのだ。では、青葉は?みんなの答えを聞いた青葉は、どんな気持ちだったのか。

2014-03-28 05:29:42
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最後に利根が、それを告げた。知りたくない、真実を。 「吾輩は、青葉にそう聞かれた時てっきりビハール号のことを言っているのだと勘違いしての、青葉を邪険に追い払ってしまったが……今思えば、あれは青葉自身の罪――そんなものがあればじゃが――そのことを言っておったのだと思う」

2014-03-28 05:35:57
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胸のあたりがぎゅうっと苦しくなる。嫌だ、聞きたくない。そう心が悲鳴をあげる。そんな弱い自分を叱咤して顔を上げさせる。 「……青葉は、鬼怒の言葉だけを支えに日本に帰ってきた。じゃが、帰りつけたはいいが、それで救われはしなかったのじゃろう。失ったものが多すぎた」

2014-03-28 05:46:18
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「むしろ、呉に帰りつけたが故に、改めて自分にはもう何も残されてないことを実感してしまったのだろう。残されたのは罪だけじゃ。自分一人生き残った罪、仲間を見捨ててきた罪……。そんなもの、どこにもありはしないというのにな」 いつしか私は両手を血の気が失せるほどぎゅっと握りしめていた。

2014-03-28 05:51:17
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利根が息を一つついた。そして話を続ける。 「……あの頃吾輩らは、甲板の上や周囲に辺りから切ってきた木を並べておった。動けん代わりに島のように見えるようカモフラージュはしようという事でな。あいにく上空から見れば丸分かりだったようじゃが」 急に話が変わったけれど、私の緊張は解けない。

2014-03-28 05:58:48
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「それで敵さんがな、『並べた木が枯れていますから取り替えてはいかが』などと人を食ったビラをまき散らして行きおったことがあった」 利根の語りに日向さんが頷く。 「ああ、伊勢がきーきー悔しがって地団太踏んでたな」 苦笑して、利根が続ける。 「そして、青葉は……笑っておった」

2014-03-28 06:04:47
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青葉が、笑っていた?まさか、まさか。考えたくない、そんなことあるわけない。けれど、私の頭は容赦なく一つの答えを突き付ける。よほど青ざめた顔をしていたのか、いつのまにか隣に来ていた雷ちゃんが私の手を握ってくれた。 「それはなんと言い表したものか……ぞっとするような笑顔じゃったよ」

2014-03-28 06:08:57