ツイッター小説 お気に入りセレクト 2010/11/01
#twnovel 直径二メートルのおばけかぼちゃ。三角にくり抜かれた両の目と鼻は窓の役目を果たす。半月にくり抜かれた口は通風孔の代わり。「さあ、ハロウィンもお開き。これからパーティーだよ」彼女をエスコートしたこの馬車に免許はいらないけど、空は飛べない。深夜の国道をこっそりと進む。
2010-11-01 00:08:28#twnovel 頭に浮かんだ文字が言葉になり、文章になり、やがて物語になる。それはこの世で最も小さな海であり、最も小さな空である。それでも海は深く空は高い。どちらも広大で果てしない。天井も底も知れない。まだ見ぬ誰かと同じ空を見上げ、同じ海で泳ぐ日を夢見て、私は今日も物語を書く。
2010-11-01 00:08:46#twnovel 本当に一度だけ後悔したことがある。それは、ある男の記憶を消してしまったこと。幼い頃。人の記憶を消せることを楽しんでいた僕。それを叱ってくれたあいつ。けれど僕は、あいつが鬱陶しくて、僕のことを忘れさせた。あいつはもう、僕のことを思い出さない。僕は忘れない。
2010-11-01 00:12:18人造人間とはフラスコから出ると死んでしまうらしい。きっと人間もそうなのだ。自分の殻を破るだの、限界を越えるだの、そんな事をしたらあっと言う間この灰色の無味乾燥な世界に窒息して死ぬだけだ。だから私はここから出ない。私のフラスコから、けして出ない。 #twnovel
2010-11-01 01:28:24#twnovel 十月の私がカレンダーを去る時は近づいていた。私の後ろの十一月は明日から自分の出番とあって興奮気味だ。誰でも最初はそうだろうと私は思う。最初は厚みがあったこのカレンダーも今では十一月と十二月だけになってしまった。見送られる月達がいるだけでも私は幸せかもしれない。
2010-11-01 01:45:45#twnovel アパートの二階に住むTさんは、普段爪を切りながら切った爪を窓から捨てていた。ある日いつものように爪を捨てると、向こう側から「こら」と声がした。え。誰の声だと思い、窓から外を見たが誰もいない。切った爪を投げ捨てると、ばらばらと切った爪が窓から飛び込んできたという。
2010-11-01 01:47:24世界に崩壊の音が響いていた。空を支えるようにあった大木。その枝の上にある街が崩れ落ち、湖に沈んでいくのを私は見ていた。ふと、気配を感じ振り返ると、そこには息を切らした少年が居た。おや、と思い私は彼に声を掛ける。「もう此処も終わりだというのに、どうしたんです?」 #twnovel
2010-11-01 01:55:07#twnovel 「結婚しよう」思いきって俺は彼女に言った。 だが如何なる情報もその場に留まることはなく顕在化した次の瞬間には大量情報の波に呑まれ識別も検索も不可能な深海へと埋没していく運命にある。 「えっ、今何か言った?」俺の一世一代の告白は渋谷の人混みに散った。
2010-11-01 02:22:56相手の足がぽろりととれた。すると「目には目を、歯には歯を」と足をもがれた。うっかり二本もとられたので文句をいったら、もう一本とっていいことになった。「もう一本いく?」百足同士のけんかはしだいに、わけがわからなくなっていった。 #twnovel
2010-11-01 02:30:31#twnovel 熱いコンソメスープが出来上がった。何しろ夜中の3時過ぎだ。スープの香りは台所を抜けて家を包み込み、庭にまで拡散し、夜空の新月へ吸い込まれていく。クルトンをひとつまみ入れるとスープの香りは落ち着き、新月が少しだけ形を崩した。新月に入ってから8時間後の出来事だった。
2010-11-01 04:55:51幼稚園児の頃、私は毎晩布団の中で空想をした。内容は女性の人間処理工場である。木箱に詰められた女達がコンベアで運ばれ、ノコギリで切り出されたトルソーが無数に並ぶ様に、幼児の私はサディズム的興奮を感じた。その後私は「正常に」育ったが、時折あの幼児の空想の意味を思う。 #twnovel
2010-11-01 05:25:51#twnovel 黒々と光るアスファルトに同心円の虹が浮いて、今なお静かに広がっている。うなだれてひとつ落とした溜め息の影を見る。溜め息はあちこちから湧いて出て、揺れて重なる虹の干渉の縞の上に、月曜日さんが佇んで微笑う。霜月の七兄弟は、ほとんど足音を立てない。
2010-11-01 08:34:22#twnovel 「転校生を紹介する」担任の後ろから入って来たのは、銀色の全身タイツのような服を着た少年だった。「みんなもよく知っている通り、今までも沢山の未来から留学生がやってきていたが、これからはちゃんと未来人と名乗るというルールができました。ということで、モリ・ケン君です」
2010-11-01 09:47:14#twnovel 子供のころに見た景色は、全てが新しく幻想的だった。大雨は魔王の城への道を阻む怪物になって、道端の草花は幻の妙薬になった。隣に歩く男の子は「俺が守る」と、傘を聖なる剣に変えて伝説の勇者になる。もうずっと昔の事に感じるけれど、勇者は今でも私を守ってくれている。
2010-11-01 10:33:45「随分離れちゃったね」…「4時間あれば着く距離だよ」…「通信だけならね。そっちはどう?」…「毎日が新たな発見だよ。海王星の環を君に見せたいな。衛星の重力で噴き出した水が空に弧を描くんだ。光があればきっと、ダイヤモンドリングだね」「そう言えば、今日で結婚十周年ね」 #twnovel
2010-11-01 13:34:29「へいおまち!」威勢の良い掛け声と共にだし巻き卵が出された。ほおばると甘さが口いっぱいに広がる。僕に合わせて作ってくれた味だ。スイミングの帰り道に、親の知り合いのお寿司屋さんに寄って一人でする食事もすっかり慣れた。さてとカロリーも補給したし、塾に行こうかな。 #twnovel
2010-11-01 18:55:58#twnovel 死を望む少女がいた。少年は少女のために童話を書いた。少年の童話はおもしろく、少女は死を忘れて読みふけった。少女を生かすため少年は童話を書き続け、少女は読み続けた。その話は有名になり少年の童話を多くの人が読んだ時、少女の命はつきた。少年は2度と童話を書かなかった
2010-11-01 21:08:08#twnovel プチトマト刑事が取り組んでいたのは誘拐事件。犯人に渡す身代金を運んだ。身代金のバッグにプチトマトを入れておき、匂いを手がかりに追跡して犯人のアジトを発見。見事犯人を捕まえ人質を救出した。その能力が人間離れしていて誰にも理解されないことを、まだ彼は知らない。
2010-11-01 22:00:11人間豹は飢えていた。今宵の獲物は企画女優と呼ばれる名もなきAV嬢だった。路上でいきなり押し倒した。「カメラはどこ?」「そんなものはない」「じゃあ今夜泊めてくれる?」「それも駄目だ」「ならせめて何か食べさせてよ」涙目で訴えられて往生する人間豹だった。 #twnovel
2010-11-01 22:01:13#twnovel 「パパ、遊ぼう!」子供は遊んでもらおうと寝ている父親を揺さぶった。それに気づいた母親は「パパは仕事を終えて今寝たところなの。だから起こしちゃ駄目よ」と子供に告げる。それを聞いた子供は「そうなんだ。パパ、起こそうとしてごめんね。ねえ、パパったら」と揺さぶり続けた。
2010-11-01 22:25:11#twnovel 老夫婦は二階の窓から外を覗きながら寂しく顔を見合わせた。「今年は来なかったね」「ああ、でもまた来年が有るさ」男はお菓子で一杯にしたかごを悲しそうに見た。老齢化社会となり子供の姿が町からすっかり消えたのだ。二人は今にも動きだしそうな子供の剥製を何体も並べ始めた。
2010-11-01 22:28:05君はしっぽをくねらせ、大地に落ちた月へ飛びかかる。水しぶきが上がると驚きのあまり飛び退き、目をぱちくりと見開く。私はその顛末に声を上げて笑う。小さくくしゃみをした君は、虚空の月を睨み、悔しそうに鳴いた。ちぎれた大地の月も、その姿を見てゆらゆらと笑っていた。 #twnovel
2010-11-01 22:43:45#twnovel 赤い雨が降ると虫が来る。祖母は雨音を耳にして恐ろしげにつぶやく。赤い雨が降ってきた。アスファルトに落ちた雨滴は、そのまま赤いバッタ、血蝗となって飛んだ。赤い雨の中を、血煙のような血蝗の群れが飛び、街と人を食い散らした。大地を人の血でうるおして血蝗は消えた。
2010-11-01 22:47:55浮気症の彼を地下室に閉じ込めた。最初は彼も強がっていたが、次の日には食事をくれと弱音を吐いた。男のプライドなんて安いものだ。さらに翌日、女の泣き声がすると言い出した。「ああそうかも」私は彼を閉じ込める前日のことを思い出しながら言った。「壁の中のあの娘と仲良くね」 #twnovel
2010-11-01 23:29:04#twnovel 裸で待つのは寒い。下しそうな腹にバスタオルを巻く。このホテルでは各部屋にエアコンはなく、送風口から一括して風を送っている。暖かくも冷たくもない風がどろりと吹く。ノックの音がする。その遠慮がちな音で誰が来たか知れた。タオルを落とす。もう腹を下す心配はない。どうぞ。
2010-11-01 23:40:56