【twitter小説】箱の世界#2【幻想】
リクルは急いで逃げた。誰かが自分を見ている! そうだ、ここはあの箱の街なのだ。もしかしたら自分以外の誰かがこの街を覗いていたのかもしれない。視線の恐怖でやみくもに道を探した。記憶を頼りに来た道を引き返す。 30
2014-03-02 16:46:40自分は何に怯えているのだろう? 見られているだけなのにそれが無性に怖かった。あのサマードレスの娘も自分の視線に怯えていたのだろうか。そう考えるとリクルは申し訳なくなった。やがて元来た路地裏をやっとのことで見つける。 31
2014-03-02 16:51:38空は怖くて見上げられなかった。思い出すだけでも震えてくる、大きな目の視線……リクルは路地裏を必死で走った。辺りは暗く、途中で自転車を倒したり植木鉢を蹴飛ばして割ったりしてしまった。路地裏を抜け、彼はよく見知った街角に辿りつく。 32
2014-03-02 16:58:26息は荒く、彼は膝に手をつき立ちつくしてしまった。さっきから全速力で走ってばかりだ。恐る恐る空を見上げるが、のっぺりとした月が光っているだけだ。彼は安心して、街角の段差に座りこんだ。ここは人の通りもなく、誰も気には止めない。 33
2014-03-02 17:03:55あの誰もいない街に比べたら、このよく見知った街のざわめきはなんと心地のいいものだろう。あの街は静かな世界だった。視線だけしか存在していない冷たい世界。あの娘もそれを感じているのだろうか? そしてそれを自分に教えに……? 34
2014-03-02 17:05:54想像は尽きないが、とにかくもうあの街に行くのはやめよう、箱を覗くのもやめよう。そうリクルは決心した。サマードレスの娘にもう会えないのは心残りだったが仕方が無い。それから彼はゆっくりと立ち上がり、家に帰ったのだった。 35
2014-03-02 17:09:45しばらく日が過ぎたが、やはり時が経つと箱への好奇心がまた膨らんでくる。箱は机の引き出しの中に大切にしまってある。何度か取り出して見てみる。が、結局はあの視線を思い出し、引き出しに戻す日々が続いた。 36
2014-03-02 17:13:47その数日の間、街に出ることもよくあった。だが、例の路地裏は記憶が曖昧になっていて見つけることができなかった。それはそれでいい話ではあるが。もう一度あの街に行く気力はない。あのサマードレスの娘はいまもあの街に住んでいるのだろうか。 37
2014-03-02 17:20:22もう一度あのサマードレスの娘に会いたい。彼女に会って、今度は声をかけてみたい。この前は失敗したけれど、今度はうまく行く気がする。決心したのはある日曜の朝だった。その日は何故かいつもよりはやく起きることができた。 39
2014-03-03 20:31:40シャツに着替えてリクルは朝の街へと向かった。朝食も食べないまま彼は急ぐ。鳥はさえずり、風は穏やかだった。太陽が温かくリクルを迎えている。列車が通る音がする。踏切はカンカンと音を鳴らしていた。 40
2014-03-03 20:47:23朝の街はひとも少なく、店もまだ開いていない。リクルはその中を何度も往復した。あの娘は今日も来ているだろうか。相変わらず前通ったあの路地裏は見つからなかった。でも、また会えるような……そんな妙な確信だけがあった。 41
2014-03-03 20:51:06しかしその確信とは裏腹に、彼は時間を擦り減らしていった。とうとう太陽は高く昇り、街にひとは溢れ、店は開き活気づいてくる。もう昼になっていた。流石にリクルは腹が減ってくる。朝から何も食べていないのだ。 42
2014-03-03 20:55:58近くのカフェに寄ってサンドイッチを買う。道のよく見える窓側の席に座り、リクルは街を眺めていた。自分が子供の頃はこんなカフェなんて無かった。随分変わってしまった……彼は少し思い出を掘り返す。 43
2014-03-03 21:02:49そうだ、あのサマードレスの娘……どこかで見たと思ったら、子供の頃会ったような記憶がある。ずいぶん成長したものだ。この街のように、彼女もすっかり変わっていた。彼女はこの街に帰ってきたのだろうか。 44
2014-03-03 21:08:16それとも彼女はあの街で……箱の中で見た街でずっと過ごしていたのだろうか。まさかね……。リクルはいつの間にか思い出から空想に浸っていた。彼は気づかなかったが、その前を横切り、カフェに入ってきた娘がいた。 45
2014-03-03 21:13:47娘はコーヒーを買うと、しばらく店で席を探していた。今は昼時で人が多く席はほとんど埋まっていた。リクルの隣の席は空いていたが。リクルはふと何気なく振り返る。そこで気づいた。……彼女に! 46
2014-03-03 21:18:27リクルは席を探して歩いているサマードレスの娘と目があった。そして思わず声をかける。 「こんにちは……ここ、空いてますよ」 「あ、ありがとうございます」 そう言って娘は席に座った。 47
2014-03-04 22:40:19リクルは何を言おうか考えていたが、なんと娘から話しかけてきた! 「不思議な話ですけどね、あなたには随分昔に会ったような記憶があるのですよ」 それは僕も同じだ! と言いそうになったが彼女はまだ話を続けていたので黙っていた。 48
2014-03-04 22:43:38「その後、最近偶然あなたを見つけることが出来ました。不思議な話ですけどね……言って信じてもらえるかどうか分かりません。ですが、確かにわたしはあなたを見つけたのです。ですが最近あなたを見失ってしまって……」 49
2014-03-04 22:46:23またしても自分と同じ状況だ。これはどういうことだろうか。まるで自分が独白しているかのようだ。さらに娘は続ける。 「もう会えないかと思っていました。でも偶然あなたを見つけて……カフェに入ったときは気づかなかったのにね」 50
2014-03-04 22:56:13娘はコーヒーをカウンターに置き、荷物を探り始めた。そして……なんと、小さな箱を取り出したのだ! それは古めかしい木箱で、手のひらサイズの大きさだった。黄色い塗装はかなりはげ落ちている。 51
2014-03-04 23:00:44リクルは声をあげそうだった。それは自分のよく見知っている木箱とそっくりだったのだ。ただ微妙に違う。箱の深さとか、蓋のサイズが微妙に違うのだ。しかし娘はリクルの驚きに気付いていないようだ。 52
2014-03-04 23:06:12