Ken Keen Chronos 「第一話」
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春のこの街に吹く風ほど気持ちのよいものはない。これに匹敵できるのは秋のそよ風ぐらいであろう。そんな中、ビルを縫う高架をビニールハウスめいたリニアレイル電車が切り抜けてゆき、次第に赤レンガの駅に吸い込まれる。「本日も中央特快のご利用ありがとうございました。まもなく終点東京です」
2014-04-08 21:17:29走るビニールハウスの中に整然とクロスシートが並ぶ。妙に小奇麗かつ秩序正しい光景は社会IT促進による在宅ワーク一般化と過剰気味だった首都圏人口減少の結果であり、過去の朝の東京の顔である通勤ラッシュとは別世界である。それでも出社する人間がこのビニールハウスに乗るのだ。
2014-04-08 21:26:03放送を聴いた乗客たちはそろそろ降りようかと身支度を始める最中、窓際の席の男は独り虚ろに丸の内の光景をボンヤリ眺めていた。彼の名は洋水硯~ヒロミ・ケン~。齢は25歳。キーン・クロノスという会社で働いている。
2014-04-08 21:29:49硯の顔は30年ぐらい前の2010年代当時の人間に言わせれば大方”この年齢にしてはボヤッとした甘っちょろいフェイス”、”ウチの草食系新人みたいだな”などど評されるだろう。しかし彼は間違いなく2010年代の一般人よりも歴史書に載る修羅場を肉眼で直視してきた。なぜなら彼の仕事は――――
2014-04-08 21:34:33凍てつく寒さと強風は誰にも区別なく突き刺さってくる。物言わぬ漆黒の夜空がその寒さに拍車をかける。だが、照明弾が打ち上げられるやいなや、飛び交う銃弾と血の大河を作る阿鼻叫喚の地獄に姿を変える。旅順の街を囲む山に設けられた要塞への総攻撃が突撃ラッパと共に始まった。
2014-04-08 21:43:08ラッパの音は攻める側も守る側も今日が”人生で最も辛い日”の更新日であることを知らせた。鉄条網!機関銃!死体の山!それでも攻める側は諦めなかった。塹壕突破!白兵戦!時の経過は次第に守勢側に味方しなくなってきた。
2014-04-08 21:47:04コンクリートに四方を固めた旅順要塞ロシア軍司令部では司令官ステッセル中将が参謀たちと共に机を囲み、眉間にシワを寄せていた。多大な犠牲を払ってでも殺到し、じわじわと堡塁を突破する日本軍。この戦いに敗れればとてもとても皇帝陛下に顔向けできない。
2014-04-08 21:56:56イライラしたステッセルは周りの部下たちにガミガミ当たり散らし出していた。参謀たちはこの男の下に来て本当に良かったのかと自問自答しながらも日本軍の突破への処方箋をひねり出そうとしている。
2014-04-08 22:02:22BTH-KOOOOOOOOOOOOOOOOOMMMM!!!!!!! 突如轟音と閃光がコンクリート部屋を襲う!敵の砲撃が命中か!?いや構造上ありえない!
2014-04-08 22:04:20ステッセルが強い耳鳴りに痛みつけられながらも意識を取り戻すと、その目には異様なヘルメットの男たちが部下たちを虐殺する光景が映しだされていた。おそらくシティクライムに慣れた20世紀末の人間なら「銀行強盗みたい」と評すであろう格好をしている。
2014-04-08 22:09:22フルフェイス男どもは今度はステッセルの持参物を物色しだした。そして皇帝ニコライ二世から下賜された宝物に手を掛けた。その瞬間、ステッセルの感情は茫然自失から激しい怒りにチェンジし、体を起こし絶叫しながら物色フルフェイス男にサーベルを斬りつけるべく突進する!!
2014-04-08 22:13:46だが物色フルフェイス男は気だるそうに何とステッセルのサーベルを片手で白刃取りし力づくで奪ってポイ捨て!常識は崩壊した!逆に物色フルフェイス男はステッセルにタックルし抑えこみに掛かる。「運が悪かったな。オメーはアワレな家畜なんだよ。出荷してやるからついてきな!」
2014-04-08 22:21:49物色フルフェイス男はステッセルの首元を掴み引きずって行く。他のフルフェイス男2人が物色フルフェイス男を先導する。要塞深部を守備するロシア兵が司令部の異常に気づき駆けて行く。フルフェイス男たちは向かってくるロシア兵をレールガン自動小銃で難なく蜂の巣にしていく。
2014-04-08 22:25:50「テケテケテケテケ!」軽い音を出しながら高レートで針のような弾丸を繰り出すレールガン自動小銃が要塞内のロシア兵を次々掃討し、フルフェイス男たちと彼らに引きずられたステッセルはとうとう日露両軍が激突する前線堡塁に到着した。
2014-04-08 22:29:40「今からこういう仕事でしかできないショーを特別に見せてやんよ」フルフェイス男は弾薬パウチからスーパーボールらしきものを取り出し、地面にたたきつけた。そのスーパーボールらしきものはスーパーボールらしくたたきつけられた衝撃の反発で、いや、それでも異様な位空に飛んでいった。その瞬間!!
2014-04-08 22:33:52遙か遠く飛んだスーパーボールが突如大火炎となって空中で化けた!酸素を消費!空から降ってきた炎はロシア兵も日本兵も平等にフレイムする!塹壕の兵士を焼くどころか手前の坂にまで炎は喰らいつき、要塞に突撃しようとした日本兵まで丸焼きだ!恐怖の総和!
2014-04-08 22:39:39驚愕した日本軍の将校が自分の中隊小隊を後退させようと声を出そうとするももう手遅れ!猛スピードで進む炎は彼らまで飲み込んでいったのだ・・・。「まだまだ満足しねえナァ。リーダーこいつ拷問いいすか?」ステッセルの首元を掴むフルフェイス男が別のフルフェイスに訊く。そしてまた司令部に戻る。
2014-04-08 22:45:03地獄からやってきたサタンの下僕による一連の殺戮の光景により、ステッセルは完全に放心してしまった。「お宝パクるついでにこーゆー旧時代土人をハイテク拷問で痛めつけて殺っちゃうの、すっげーキモチーワー」と呟く卑しいフルフェイス男。とことん卑しい。
2014-04-08 22:49:16司令部だったコンクリ部屋にはステッセルとフルフェイス以外にはレールガン自動小銃で蜂の巣にされた参謀や兵士たちの死体しかいない。この部屋が自分の墓地なのだと受け入れるしかなかった。これでも皇帝陛下と祖国に貢献できたのだ。それでいいんだ。と・・・。
2014-04-08 22:53:47フルフェイス男がステッセルに手をかけようとしたその時、部屋の入口からまたもや独特なレールガン自動小銃の連射音が部屋に鳴り響く!。ステッセルが音の方向に顔を向けた瞬間、撃ち殺されるフルフェイスども!。フルフェイス殺しの主はなんと日本兵だった!。何故なんだ!?。
2014-04-08 22:57:22日本兵がレールガン自動小銃を持って手際よくフルフェイスを皆殺しにするわけがない!そもそも近隣の兵士はさっきのサタンの業火でみな死んだ!。その日本兵はステッセルを拷問しようとしたフルフェイスのホトケの懐からニコライ二世の下賜物を探り当て、ステッセルに渡す。「マカーキ(猿)!?」
2014-04-08 23:01:37