「あんたのは冗談に聞こえんよ。お互いにあれらを搭載する機会がなかったのは幸運だったかも知れんぜ。北上には悪いが」 「モデル艦の記憶なんて無いですけどね」 「まァな」 木曾はすたすたと射場を出てゆく。残った赤城は立って弓を構え、矢筒から艦爆矢を一本抜いてつがえた。 #座礁艦隊
2014-04-09 17:04:38射場の端にある長方形のサーキュレーターが作動し、向かい風を発生させる。赤城の長髪がばさりと靡いた。擬似的な対気速度が得られる。戦闘行動を想定して、型を意識せずおもむろに弦を引き絞る。パン、と弓が鳴り、艦爆矢が放たれた。矢は空中で、艦上爆撃機、彗星の形に変身する。 #座礁艦隊
2014-04-09 17:12:27彗星はエンジンの音を響かせながら飛び、水平線の先へ消えてゆく。十数キロほど先の的に爆弾を落とすためだ。あらゆるものが実物通りの性能を示す艦娘の武装の中で、なぜか航空機だけは著しく弱体化されていた。 #座礁艦隊
2014-04-09 17:16:00特に航続距離が顕著で、実物のものより桁違いに"飛べない"。アウトレンジが前提の空母に艦隊決戦を強いるほどだ。対深海棲艦戦闘規定による措置だが、この規定で最も割りを食っているのは明らかに空母であった。 #座礁艦隊
2014-04-09 17:19:03だが赤城は規定がどうであろうと構わなかった。ただ艦載機を発進させて偵察し攻撃できればそれで十分だったし、続けていたらいつの間にかこの鎮守府の空母筆頭になっていた。他の正規空母や軽空母は自分を慕ってくれるし、とても心地よかった。 #座礁艦隊
2014-04-09 17:26:26「赤城さん」 二射目を行おうとしたところ、入り口の方から呼ばれる。抑揚の無いその声の主は加賀だった。同型艦ではないが、同じ一航戦としてよく「つがい」に捉えられる彼女とは、この鎮守府に所属するどの空母よりも親しかった。 #座礁艦隊
2014-04-09 20:06:16加賀はいつもの着衣装甲であったが、胸当てや前垂れなどの艤装は着けていない。この鎮守府では赤城と加賀はローテーションで待機についており、基本的に二隻一緒に出撃することはなかった。しかし、一航戦だからか、または「つがい」に引かれたのか、鎮守府ではよく一緒に行動していた。 #座礁艦隊
2014-04-09 20:10:29かたや常に微笑を浮かべ、かたや無表情一辺倒。特に意識してやっているわけではないが、いつからか「鉄面皮コンビ」と言われるようになった。加賀はその呼ばれ方が気に障っていたが、赤城は特に何も感じなかった。ただ、加賀が嫌な気持ちになるならやめてほしいとは思う。 #座礁艦隊
2014-04-09 20:14:14「あら、加賀さん、どうしたの?」 「木曾が出てくるのを見たわ」 加賀はさも不満そうな顔をした。他から見れば違いは分からないだろうが。 「また無断で借りていたのかと思ったのだけど」 「今回は私が立ち会いました。面白いものを見させてもらいましたよ」 #座礁艦隊
2014-04-09 20:22:00「面白いもの?」 「ええ。空飛ぶ魚雷です」 「まだ陸のことを考えているの、あの人?」 今度はあからさまに嫌悪感を示す加賀。 「艦娘は海の上が戦場なのに」 加賀は艦娘にあるまじき考え方をしている木曾が好きではないらしい。 #座礁艦隊
2014-04-09 20:43:41「木曾さんは木曾さんで考えているんですよ」 開発で出た使わない艦載機を提供するという話は加賀にはしない方がよいだろう、赤城はそう判断した。 「それに、日本ならともかく、ここでは実際に艦娘が陸で戦っていますからね」 「先日の髪を切った叢雲タイプたちのことかしら?」 #座礁艦隊
2014-04-09 23:25:52「加賀さんはあの子たちもお嫌いですか」 「あまり気分の良いものではないわね。海から離れ、テロリストとはいえ人を殺している。私たち艦娘は深海棲艦を倒すために生まれてきたはず。自分たちの存在意義から自ら離れて。理解に苦しむわ」 #座礁艦隊
2014-04-09 23:28:46加賀の思いは正しい。せっかく存在意義を与えられて生まれてきたのに、なぜそれに準じないのか。深海棲艦を倒す。私たち艦娘がここにいる理由だ。でも、もしも。 「加賀さんは、深海棲艦がいなくなったら、あるいは深海棲艦と戦わなくなったら、どうしますか」 #座礁艦隊
2014-04-09 23:43:30加賀はきょとんとした顔で赤城を見た。ああ、またやってしまったかな、と赤城は思った。会話が飛躍してしまうのが自分の悪い癖だ。頭でいろいろ考え過ぎて、出る言葉は相手には飛び飛びに聞こえるのだろう。 加賀は顎に手をあてて、 「考えたこともなかったわ……」 黙ってしまった。 #座礁艦隊
2014-04-09 23:47:45彼女は赤城の言うことは全て真摯に受け止めてしまうから、今の質問も真正面から悩んでしまっているのかもしれない。 「ごめんなさい、加賀さん。ねえ、散歩でもしませんか。午前の出撃まで間がありますから」 「……赤城さんとなら、いいわ」 そうして二隻は射場を後にする。 #座礁艦隊
2014-04-09 23:55:11Blue Submarine No. 6 - Mina Soko ni Nemure (Sleeping Deep Inside Everyone) 僕にとって深海棲艦のテーマはこれしかない。 http://t.co/Ogla26TZwW
2014-04-10 17:00:22薄くリップが引かれた細い唇に、幼さを固定された唇が吸い付く。遠慮なく互いの舌が絡められる。幼い方の舌が急いて相手を求める。ちゅっ、ちゅっ、と粘液質な音が部屋に響き渡る。唾液があふれ、つつ、と顎へ垂れてゆく。熱を帯びた吐息が互いを昂らせる。 #座礁艦隊
2014-04-10 22:41:14執務室。元ホテルの支配人室だったそこで、木曾は初雪の"ごほうび"の現場に居合わせてしまった。「邪魔したな」と出て行こうとすると、"ごほうび"をあげている最中の朝生提督が手で「そのまま待て」と制した。 #座礁艦隊
2014-04-10 23:37:03