地下鉄の少女#3
列車は彼の動揺などどこ吹く風で、闇の地下を疾走する。心臓が列車の振動に揺られて大きく鼓動した。地下鉄の少女はぐっすりと眠っているようだった。いつからそこにいたのだろうか、列車に乗るときカラカは全く気付かなかった。 80
2014-04-25 16:33:59新聞を読むのも忘れ、カラカの視線は少女に釘づけになった。彼の中に様々な思いが去来した。今日、今日なら彼女の行く先、歯車三丁目に辿りつけるかもしれない。魔法使いの罠だとしても、行きたくて、つきとめたくてしょうがなかった。 81
2014-04-25 16:39:50ただ、いまのカラカには仕事があった。新しい菌床を作らなくてはいけない。それをしないと、彼の工場は成り立たない。大事な仕事だ。一時の好奇心で休んでいいものではない。だが、彼の好奇心は抑えきれないほど膨らんでいた。 82
2014-04-25 16:46:08ノイズまじりのアナウンスが歯車一丁目への停車を告げる。いつの間にかそんな所まで来てしまった。列車がゆっくりと停車し、乗客を入れ替え、また発車する。このまま三丁目まで行くだろう。行けるはずだ。カラカは確信した。 83
2014-04-25 16:52:31途中下車でちょっと見るだけだ、そう、ちょっとだけ降りて、また工場へ行けばいい。彼はやっとまばたきをした。乾いた目にまぶたが貼りつく。ジンジンとする痛み。カラカは目を強く閉じて、開いた。視線の先には、少女の笑顔があった。 84
2014-04-25 16:57:19まぶたを閉じた一瞬の間に、地下鉄の少女は目を覚ましこちらに微笑んでいた。まるで今までカラカを弄び、ようやく気付いたの? と言わんばかりに蠱惑的に微笑んでいるのだ。カラカは、ぎこちなく笑みを返した。アナウンスは歯車二丁目を告げる。 85
2014-04-25 17:03:37列車はゆっくりと停車し、乗客を入れ替え、また発車した。カラカはもう読むことも無い新聞を畳み、鞄に押し込んだ。地下鉄の少女はにこりと笑い、涼しい顔で目を閉じている。もうすぐ聞こえるはずだ。あのアナウンス。存在しないはずの駅。 86
2014-04-25 17:07:53「次は歯車三丁目、歯車三丁目……」 地下鉄の少女は目を開き立ち上がった。まるで雪が舞ったかのように、淡い水色のワンピースが翻った。デニムのパンツが活動的に揺れて、彼女は今まさに開こうとするドアの前に立つ。 87
2014-04-25 17:12:00カラカはよろよろと立ち上がった。列車が減速し歯車三丁目のホームの景色が窓に飛び込んでくる。まるで廃坑のような薄暗いホーム。裸電球が風で揺れ、劣化したコンクリートのホームがてらてらと光る。 88
2014-04-25 17:18:22やがて列車は完全に停車した。ドアが開き、地下鉄の少女はホームへと飛び出す。カラカは必死になってその後を追いかけた。存在しないはずの、歯車三丁目駅の謎がようやく……カラカは、ホームへと飛び出した。 89
2014-04-25 17:26:25