ハタチになって一番に緑間と酒を飲みに行った。大学は別々だったから、高校時代と比べ疎遠になっていたが、逆にそれを意識していたのかやりとりは依然続いていた。彼が二十歳の誕生日にワインを買って出向いたら、俺は未成年だろうとボトルを開けることさえしなかった。バカ言え、ああ馬鹿正直なのか。
2014-04-26 05:33:45俺の誕生日は外食だった。何やら間接照明の落ち着いた店で、入店時こそ若干緊張したが料理の味と緑間の柔らかな表情に(ここのところ多くなったが、それでもやはりレアだ)店の格式などどうでもよくなった。美味しくご飯を食べることが出来るなら、どんな店だろうと関係ないのだ。
2014-04-26 05:37:15ワインなど滅多に飲む機会がないから(サークルや学校関係は生で始まりそこから薄いサワーのチャンポンが常である)、好みの味など分からない。緑間が店長と相談して好みを探るように選んだ酒を、少しずつ味わう。成る程ワインはワインでも味の違いがちゃんとあるのか。(正直それ程グルメでないのだ)
2014-04-26 05:42:24帰り際にはお互いそれなりのほろ酔いで、あの料理がうまかったとか、どの時のワインが一番好みだっただとか、食事の余韻に浸っていた。通りがけの公園で酔い覚ましがてら少し思い出話を交えながら。フェンスの向こうに見慣れた茶色い丸が転がっていて、久しぶりにコイツのシュートが見たいと思った。
2014-04-26 05:47:31落ちていたボールは空気が抜け、弾みこそしなかったが(なんと6号ボールなんて懐かしい代物だったのだ)、後から付いて来た緑間に軽くパスを出す。反射的に受け取った彼は、酔いの冷め切らない目を瞬かせてこちらを見たが、意図を汲んでかはたまた習慣か、次の瞬間にはシュートフォームに移っていた。
2014-04-26 05:53:43緑間の立っていた位置がスリーポイントラインからどれだけ離れていたかは分からないが、彼にとっては関わりのない悪条件だ。ボールは高く高く弧を描き、軋むリングにぶつかって地面に落ちた。 ぐわんぐわんとボードが揺れ、口を開けたままの俺は、フォロースルーのまま固まる緑間と目を見合わせた。
2014-04-26 06:02:07残った指先は高校時代の美しいバネのままで、口を一文字に引き結んで気まずそうな緑間の顔さえ見なければ、当然の如くシュートは入ったと確信しただろう。弾まないボールは、然程転がることもせずリングの下に落ちたままだ。
2014-04-26 06:06:04沈黙に耐えられず思わず笑ってしまう。やあやあいくら非凡な緑間も、酔いに任せて狙いを見誤るのだ。サヨナラ怪物緑間真太郎、よろしく人の子緑間真太郎。
2014-04-26 06:15:47