『海士』まとめ。拡大版。

前のまとめに落ちがあったので、その前のものと合わせて再編集しました。
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中所 宜夫 @show3418

能『海士』。志度の浦を訪れた藤原房前の従者が行き当った海士に声を掛け、海中のミルメ(海藻)を取れと言うと、海士は空腹を案じて持っているミルメを差し出す。しかし月を見る為の事と知り、昔もそんな事がありましたと、この浦の海士が明珠を龍宮より潜き上げた事を仄めかす。ーー>

2014-04-10 22:31:09
中所 宜夫 @show3418

能『海士』続。このやりとりがどうも腑に落ちないのです。志度の浦にやって来て、いきなり海に映る月を見る・・・。何かの暗喩か、でなければ似たような出来事があったか。いずれにしろこの曲がどういう意図で書かれたのか。房前と見せて誰を描きたいのか。・・・『海士』は謎が深い。

2014-04-10 22:36:51
中所 宜夫 @show3418

『海士』。前にも書きましたが、太平記の登場人物で母親の身分が低くて苦しむのは足利直冬です。そしてこの人は世阿弥周辺との交わりを十分伺わせるのです。九州探題になっていますから、志度周辺への往来はあり得ます。30歳程世阿弥より年長の直冬。

2014-04-10 23:03:11
中所 宜夫 @show3418

足利直冬はWikipediaによれば、晩年石見に隠棲していたといいます。もし1400年まで生きていたとすれば、直冬70代で世阿弥は30代。父観阿弥が急逝した後雌伏している世阿弥が、石見で共に月を見たのかも知れません。

2014-04-10 23:07:53
中所 宜夫 @show3418

また足利直冬は九州探題になっていますが、世阿弥も北九州との関係が深そうなのです。尤も時代が大分ずれています。しかし直接ではなくとも、影響力は持っていたでしょう。世阿弥は神功皇后をシテとする『箱崎』という曲で、猿楽に天女舞を導入したとされています。

2014-04-10 23:18:00
中所 宜夫 @show3418

前にも書きましたが『海士』は人気曲ながら何とも不思議な曲です。能の形式に嵌っていると、よく考えると不自然なことも、流れにのって進んで行きます。私たちもうっかり見過していることがとても多い。さて、今回の舞台はどの程度までその流れを遡及することができるでしょう。

2014-04-25 08:45:41
中所 宜夫 @show3418

『海士』一。幸若舞に『大織冠』と『入鹿』いう曲があるようです。これが能とは微妙に異り何とも悩ましい。幸若舞は能より後の芸能ですが、その先行芸能である曲舞は能より古い。いずれにしても藤原鎌足不比等親子には謎が多く、寺社の伝承、民間の伝承それぞれに異同があるようです。

2014-04-25 09:16:30
中所 宜夫 @show3418

『海士』二。能の設定では房前13歳の時、既に大臣として世にあり、母の追善のために志度へ下る。奈良時代初期にはなさそうな出世。その上身分低い母親の子。その陰には母海士の命懸けの手柄があった。その事を房前本人はもとより誰も知らないので、母の霊は成仏出来ずにいる。

2014-04-25 09:22:20
中所 宜夫 @show3418

『海士』三。志度に下った房前の前に一人の海士が行き合う。何故か悲しみに沈んでいる女。伊勢の海士は夕波に月を愛で、浜荻の風に秋を知る。須磨の海士は若木の桜を汐木に挿して春を忘れない。この志度には花の咲く草もないので、せめてミルメでも刈りましょう。

2014-04-25 09:28:05
中所 宜夫 @show3418

『海士』四。ミルメなど態々刈らずとも河口近くに運ばれてくるのに、やはり海に潜るのが嫌ではないのね。さてさて天野の里に帰りましょう。(少し悲しみが柔らいでいるのかナ)

2014-04-25 09:36:27
中所 宜夫 @show3418

『海士』五。房前の従者がこの海士に声を掛けますが、このやりとりが腑に落ちません。海に映る月を見るのにミルメが邪魔だから刈り除け、と言われて海士は、そう言えば昔もそんな事がありました。明珠を龍宮から潜き上げたのもこの浦の海士なのですよね。と言いながら海に向う。

2014-04-25 09:43:36
中所 宜夫 @show3418

『海士』六。追善に来たのに何故海の月を見るのか。昔もそんな事と言うけれど、内容はかなり違う。どちらも食のためではなく海に潜るということかな。ここに何かが隠れていると思うのですが、今回は稽古を重ねてきても何も思いつきませんでした。でも案外本番で納得したりするのですよね。さて明日は?

2014-04-25 09:49:41
中所 宜夫 @show3418

『海士』七。海士の言葉を聞き咎めた従者に促されて、玉取りについて語り始めたらあ後は一気呵成。語るうち目前の海士はいつしか昔の母となり、房前に書付けを手渡して海に消える。房前がこれを披くと「黄泉に去って13年。私を弔う人がいないので冥界の暗闇に眠っています。どうか救けて下さい」と。

2014-04-25 10:00:06
中所 宜夫 @show3418

『海士』八。房前が追善していると母は龍女の姿となり、法華経を手に現れる。前は何故龍女で現れるのだろうと思っていましたが、龍宮の聖域を犯して海で死んだのですから、その下僕となっているのは不思議ではないです。変な解釈をしている解説があって、こんな素直な理解を妨げていました。

2014-04-25 10:10:45
中所 宜夫 @show3418

『海士』九。法華経には八歳の龍女が成仏したという寓話が述べられているので、その法華経の功徳により龍女は成仏して行くのです。さてここで早舞という舞を舞います。この部分は囃子の演奏だけで謡はありません。言わば純音楽的な舞。形而上学的と言っても良いと思います。

2014-04-25 10:17:01
中所 宜夫 @show3418

『海士』拾。能の「舞」は多くのものが同じ構成をしています。静かな舞も、激しい舞も基本的な型は同じで、歩み方や構えで違いを表現します。決められた型を一つずつ丁寧に辿って行くことで、龍女は西方浄土に向います。能は舞台上の出来事が見所のお客様と共有されるように仕掛けられています。

2014-04-25 10:23:29
中所 宜夫 @show3418

『海士』結。明日理想的に勤めることが出来れば、見所の皆様もこの世の悲しみを一時拭って浄められた魂で能楽堂を後にする。いや。これは一生かけてそういう舞台をしたい、という事ですので悪しからず。世阿弥が考えた能とはそういうものだ思います。以上、明日に本番を控えての気持でした。

2014-04-25 10:31:39
中所 宜夫 @show3418

本日と言うか既に日が変わってしまいましたが、『海士』にお運び下さいました皆様、共演して下さった皆様、真に有難うございました。遅くなりましたがここに御礼申し上げます。常々能はナマモノだと申しています。今日はまあまあ新鮮な所をご提供できたと思います。今後とも宜しくお願い申し上げます。

2014-04-27 00:38:15
中所 宜夫 @show3418

『海士』終えて、一。昨日無事終えることが出来ました。共演の皆様、ご来場の皆様、ご後援の皆様に厚く御礼申し上げます。概ね好評を頂戴していますようで、大変嬉しく思います。幾つか感想を読ませて頂き、少し思う処を纏めてみます。

2014-04-27 06:47:49
中所 宜夫 @show3418

海士終、二。非常に母性が強調されていた、と感想を頂戴しました。現在進行中の新作能『中尊』が、母親の想いを取り上げた作品ですので、自然にそちらへの想いが強くなったと思います。後シテの面も、もっと強い面の事もあるようですが、私は優しい面の方が好きです。それも母性を増したようです。

2014-04-27 07:06:15
中所 宜夫 @show3418

海士終、三。装束と面についてもコメントを頂きました。装束は、京都で江戸時代の能装束の復原をしていらっしゃる方からお借りしました。江戸時代の能装束の素晴らしさ、そしてそれを生み出した江戸時代の武士の教養の高さと言うものを、私はその方から教えて頂きました。

2014-04-27 07:24:05
中所 宜夫 @show3418

海士終、四。前シテの紺地に桜と蜘蛛の巣模様の縫箔は、蜘蛛の巣の金糸が水面に光る煌めきを思わせて、色合いの深さと言い、横に強く施された浮き織と言い、当に海士に相応しいものと思い選びました。

2014-04-27 07:36:18
中所 宜夫 @show3418

海士終、五。縫箔は、腰巻に付けて水衣をするのが標準なのですが、縫箔の素晴らしさを見て、当日楽屋で皆と話合い、右肩を脱ぎ下げるのもあると言うことで、急遽変更しました。右肩だけが外に出る着付けも、桜の模様でした。

2014-04-27 07:42:08
中所 宜夫 @show3418

海士終、六。後シテで上に羽織った紅地の薄い装束は舞衣(まいぎぬ)と言います。この色の柔らかさも復原の装束ならではと思います。泥眼の面(おもて)と相まって、優しく美しい姿となることが出来ました。

2014-04-27 07:50:19
中所 宜夫 @show3418

海士終、七。能面は、前が深井、後が泥眼。何れも新井達矢さんの手になるものです。出の前に鏡の間で最後に面を掛けるのですが、その時鏡に自分の顔を、面の中から見ることが出来ます。新井さんの面は美しいのですね。そして血が通っている。鏡に写る顔が既に仮面ではありません。

2014-04-27 08:01:23