【第二部-拾弐】夕張の懐中時計 #見つめる時雨

夕張×五月雨
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五月雨視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「いつもごめんね、五月雨ちゃん…」 「いえ、気にしないで下さい。好きでやってることですから」 三角巾とエプロンを着け、部屋の掃除を進めていきます。ここが誰の部屋かといいますと、夕張さんの部屋。私は三日に一度、この部屋を掃除しにくるのが習慣になっていました。

2014-04-29 22:01:27
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

初めて夕張さんの部屋にお邪魔した時、思わず咳き込んでしまったことを思い出します。夕張さんは整理整頓があまり得意ではないようで、機材ですとか、専門書が部屋に散らかっていました。そんな中で生活していたら、いつか夕張さんが体調を崩してしまうのではないかと、少し心配になったんです。

2014-04-29 22:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

この部屋、掃除させてくれませんか?私がそう提案すると、夕張さんは困惑した様子で「そんな、悪いわよ!」と遠慮しました。でも、私は譲りませんでした。どうしても譲りたくなかったんです。夕張さんに体を壊してほしくなかったんです。夕張さんのお役に立てるのなら、私、喜んでやります。

2014-04-29 22:10:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

そして、私が押し切る形で、これは始まりました。一番最初の大掃除は大変でしたが、綺麗になった部屋を見て(機材関係は場所を整理するに留めましたが)、夕張さんはとっても喜んでくれました。あんなに喜んで貰えるなんて、本当に、頑張った甲斐がありました。

2014-04-29 22:15:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

今、夕張さんはというと、いつものように作業机に向かって何かを弄っているようでした。夕張さんが言うには趣味らしいです。機械についてはあまり詳しくないので、何をしているかはよくわかりません。いつも気になって聞いてみるのですが、やっぱり理解しきれませんでした。

2014-04-29 22:20:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

でも、説明してくれた時の夕張さんの顔…とっても楽しそうでした。本当にこういうことが大好きなんだろうなって、私まで何だか楽しくなっちゃいました。…夕張さんの喜ぶ顔。楽しそうに話す顔。私は、夕張さんのそんな顔が見たくて、ここに足を運んでいるのかもしれません。

2014-04-29 22:25:20
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「今日は何をしてるんですか?」 掃除も一段落ついたので、いつものように、夕張さんの手元を覗きこみました。…あ、これ…何だかわかる気がします。…懐中時計? 「うん?今ね、時計を直してるのよ」 私の予想は当たってたみたいです。ちょっとだけ夕張さんの世界に入れたみたいで、嬉しい。

2014-04-29 22:30:23
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「誰かに頼まれたんですか?」 「ううん、そうじゃないんだけどね。これ、提督のなのよ。でも、これはもう使わないからって言うから、私が貰ったの。一度弄ってみたかったのよ」 「壊れてたんですか?」 「うん。貰ったときはもう止まっていたわ。だから今、直してるの」

2014-04-29 22:35:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「直りそうなんですか?」 「多分ね。替えの部品も見つけたし、問題なさそう」 そう言う夕張さんの横顔は、鼻歌でも歌い出しそうなくらい楽しげでした。夕張さんはまるで子どもみたいに夢中になっていましたが、時々目を細めた時に強調される長い睫毛は、本当に綺麗だなって…思いました。

2014-04-29 22:40:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「あ、ごめんね。そんな立ちっぱなしじゃ辛いでしょ?…よっ」 夕張さんが丸椅子を引っ張りだし、私の前に置いてくれました。 「あ…すみません、ありがとうございます」 私はそれに腰を掛け、また、夕張さんの手元を眺めました。

2014-04-29 22:45:26
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

机の上が汚れていたせいか、夕張さんの手も少し汚れていました。でも、夕張さんの指はとても細くて、長くて…それが一本一本動くたびに、私は見惚れてしまっていました。…どうして私は、こんなに夕張さんの事が気になるのでしょう。気が付くと、目で追っている自分がいます。

2014-04-29 22:50:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…いえ、理由はわかっていました。私のあの時の記憶。それがそうさせるのだと思います。私が夕張さんの力になりたいのも、あの時の罪滅ぼしなんだと思います。…夕張さんには、幸せになって欲しいんです。いつも笑顔で…いて欲しいんです。夕張さんが気になるのは、そのせい。

2014-04-29 22:55:20
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「よし、これで大丈夫なはず」 夕張さんが工具を置き、時計のゼンマイを巻きます。私はその様子をじっと見ていました。…何だかドキドキします。 「…やった!」 時計の針の音が聞こえてきました。わぁ…! 「夕張さん、すごいです!」 「ふふ、これくらい大したことないわよ」

2014-04-29 23:00:58
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕張さんが私の手に懐中時計を置いてくれました。私はそれを見ながら、感動に浸りました。夕張さんは大したことないって言いましたけど、私は何だかとてもすごいことのように思います。さっきまで止まっていたものが、また動き出したんです。夕張さんの手で。

2014-04-29 23:05:20
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「あ、これ、止まってたなら時間直さないといけませんよね」 「そうね。そうだ、五月雨ちゃんが直してくれない?今の時間はね…」 私は懐中時計の針を確認しました。…あれ? 「…?どうしたの、五月雨ちゃん。固まっちゃって…って、五月雨ちゃん!?」

2014-04-29 23:10:21
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「…え?」 気づいたら私は…目から涙がこぼれていました。…何で?どうして…? 「五月雨ちゃん!?五月雨ちゃんってば!?」 夕張さんの心配そうな声が聞こえてきました。でも、私にもわからないんです。何で、私泣いてるの?

2014-04-29 23:15:47
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滲んだ視界に、時計の針が映りました。あ…そっか。私…これを見て…。何の偶然か、時計の針は…あの時刻を指していました。 「…10時…15分…」

2014-04-29 23:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕張さんが私の肩を抱いて、必死になだめようとしてくれてました。…でも、違うんです。わかりました…私…嬉かったんです。嬉しくて、泣いちゃったんです。…止まっていたこの時刻から、時計の針が進み始めたことに…。夕張さん自身が、その針を進めたことに…。

2014-04-29 23:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私はそのまま、夕張さんの腕の中で泣いていました。夕張さんはきっと訳もわからないまま、でも、優しく抱きしめてくれました。 「…夕張さん…。今、16分になりました…。夕張さん…ここにいます…。私…夕張さんに…触れています…」 私は…夕張さんに抱きつきました…。

2014-04-29 23:30:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「え?あ…」 夕張さんが何かを察したように、呟きました。 「…大丈夫よ。私は、ここにいるわ。五月雨ちゃんの、傍にいる…」 …夕張さんが、温かい。私はその温かさに、夕張さんの確かな存在を…感じていました…。

2014-04-29 23:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

あれから何分たったんでしょう…。でも段々と落ち着いてきたようです。私、取り乱してしまって…恥ずかしいです…。って、あれ?いま私、何を…。 「……」 今の状況を振り返って見ました。トクントクンって、音が聞こえます。そして、私の頬にはとても柔らかくて、優しい感触がありました。

2014-04-29 23:40:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「……」 え?これって、その…夕張さんの…。私、夕張さんに包まれて…。 「…!?ごごご、ごめんなさい!?わ、私…!?」 びっくりして夕張さんから身体を離しました。 「もう大丈夫?五月雨ちゃん」 「は、はい…」 あ、あれ…?どうして私、こんなにドキドキしてるの…?

2014-04-29 23:45:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…?本当に大丈夫?顔赤いわよ…?」 「え…」 自分の頬に両手を当てると、熱をもっているのがわかりました…。 「もしかして熱あるんじゃ…」 熱…?顔が熱いのも、こんなに胸がドキドキするのも…そのせいでしょうか…?…夕張さんの手が、ゆっくりと私の額に伸びてきました。

2014-04-29 23:50:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ちょっと熱い…かしら?でも、そうでもないような気も…」 夕張さんの手が私の額に触れている間…私は思わず目を閉じてしまいました。とても、緊張してしまって…。 「熱はなさそうだけど、顔真っ赤だし…休んだ方がいいわ。あ…もしかして、私が掃除させちゃったせいかしら…!?」

2014-04-29 23:55:24