『ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ』#1

南の孤島を舞台に繰り広げられる艦娘冒険活劇というかB級映画というか。 その始動編 第二話 http://togetter.com/li/677570 第三話 http://togetter.com/li/687755
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シャル819 @char819

「楽に終わるなら、それがいい……」初雪はそう言ったが、吹雪にはむしろ、この静寂はこれから待ち受ける困難の前兆のようにも感じられた。嵐の前はたいてい静かなものではないか。そんな不安を知ってか知らずか、その直後にあきつ丸から声が挙がった。「前方にA島確認、であります」 24

2014-05-04 22:29:16
シャル819 @char819

あきつ丸が指し示す水平線上に、小さな島と、そこに鬱蒼と茂るジャングルの緑が見えはじめていた。「ようやく目的地ってわけか……」天龍はあくまで慎重な姿勢を崩さず、警戒を解くことなくそうつぶやく。そして吹雪もまた、まだ遠くに浮かぶだけのその島を漠然と見つめていた。 25

2014-05-04 22:31:27
シャル819 @char819

その島はただただ静かで、深海棲艦の気配は一切無い。まるでここだけはあの敵のいない平和な世界が保たれているかのようだ。いや、それは違う。島にはそもそも生気がなく、活動自体を停止しているとさえ思わせるなにかある。A島に接近するにつれ、吹雪の中のそうした意識はさらに強まっていく。 26

2014-05-04 22:33:38
シャル819 @char819

「とりあえず、あそこの海岸から上陸してみるとするか」天龍の視線の先にあるのは、大きく開けた白い砂浜である。まだ島の全周囲を確認したわけではないが、ひとまずは上陸して様子をみるという考えだろう。そのあたりの細かい動向は、艦娘は実際の船舶よりもはるかに融通が利くのである。 27

2014-05-04 22:35:49
シャル819 @char819

「いやー、なんとも綺麗な島だなー」上陸し、砂浜から眼前に広がる緑を見て、深雪が暢気にそう言った。確かに目の前の光景は、楽園と見紛うほどに美しい。青い海と緑の島、そしてそれを包む明るい日差しは実に煌びやかで、目に映る世界だけを見るなら、ここはこの世の天国に思えるかもしれない。 28

2014-05-04 22:38:00
シャル819 @char819

だがどこかで、吹雪はそれを覆い隠す大きな違和感が蠢いているのを感じていた。任務に対する緊張感と使命感で過敏になっているだけなのだろうか?いや、違う。この島にはなにかがおかしい。その目に見えない異物が、まるでこれから自分たちをも飲み込もうとしているように思えてならないのだ。 29

2014-05-04 22:40:15
シャル819 @char819

「天龍さん、みなさん、ちょっとこれを見てください!」まるで吹雪のその違和感を裏打ちするかのごとく、前方の岩場付近を調査していた白雪からそんな声があがった。慌てた様子がないところをみると敵がいたというわけでもなさそうだが、その驚き方からは、ただならぬ事態を感じさせる。 30

2014-05-04 22:42:38
シャル819 @char819

「なんだこりゃ……」岩場の陰に転がっていたのは、錆にまみれて潰れた、大きな鉄の塊だった。パッと見には無造作な残骸にしか見えないが、情報をつなぎ合わせると元は重機かなにかだったと思わせる。「……おそらくこれはハ号、九五式軽戦車であります」ポツリと、あきつ丸がそうつぶやいた。 31

2014-05-04 22:44:37
シャル819 @char819

「しかし、どうしてこんなことに……」あきつ丸が訝るのも無理はない。いかに軽戦車とはいえ、ここまで無残な破壊がなされるには相当な力が必要だ。「でも、爆発などの戦闘が起こった様子はないですね……」ここに残っているのはただの鉄塊だけだ。なにが起こったのかを示す材料は何もない。 32

2014-05-04 22:46:47
シャル819 @char819

「じゃあ、いったいなにが?」目の前の戦車の残骸に、吹雪も首をかしげるばかりだ。「あくまで、これは見たままの事実を基にしての推測ですが……」白雪が答えようとするが、彼女自身も自分の分析が突拍子もないと自覚しているらしい。不可思議そうな表情を浮かべたまま、考えを口にしていく。 33

2014-05-04 22:49:28
シャル819 @char819

「なにか、強大な質量がこの戦車にぶつかったとしか思えないです」「質量?」誰もが、その意味を理解できていない。「たとえばの話ですが、巨大な鉄の塊のような、そういったものが勢いよく衝突したりとか」だがそれがおかしいのは吹雪にもわかる。「えっと……、戦車戦って、そんなのだっけ?」 34

2014-05-04 22:51:42
シャル819 @char819

「いえ、戦車も基本的には砲弾を打ち合い、それを貫通、爆発させて相手を倒すもの、であります」陸軍であるあきつ丸がそう解説する。「確かに、質量で押しつぶすのは非効率的過ぎますしね」だが白雪のその言葉に、誰もが戸惑いは隠せない。目の前には、質量で潰された戦車が実在しているのだ。 35

2014-05-04 22:54:43
シャル819 @char819

「なら、この戦車になにがあったんだ?」天龍の問いに答えられる者はいない。「陸軍がなにかをしていたのだとは思いますけど……」吹雪もただ事実の確認を口にするだけだ。「いや、それより重要なのはさ、敵はいったい何者かってことだろ?」深雪のその言葉に、一同の空気が凍り付いた。敵! 36

2014-05-04 22:56:59
シャル819 @char819

考えるまでもなく、戦車をこのように破壊した存在がいるはずなのだ。それを思い出し、各人は緊張した面持ちで周囲に注意を向ける。「やっぱ深海棲艦かな?」「そう考えるのが妥当だろうな」だが吹雪はその意見に納得しきれずにいた。敵意があるにしては、この島は、この海域は、少し静かすぎる。 37

2014-05-04 22:59:19
シャル819 @char819

確かに、深海棲艦以外にこんなことを出来る存在がいるとも思えない。かつての戦争相手は、程度の差こそあれ、戦車の主と同じ人間であった。戦車を破壊するにしてももっと真っ当な手段を用いたことだろう。だが吹雪の知る限り、深海棲艦もまた、破壊にこのような力を用いるとは思えないのだ。 38

2014-05-04 23:01:41
シャル819 @char819

「敵がどこに潜んでいるかわからんからな。もう少し島の状況を調べる必要がある」抜刀し、あらためて周囲を見回した後、天龍はそう宣言して再び歩み出す。「この戦車はどうしましょう?」「今はそのままでいい。まずは敵の確認が最優先だ!」島の静寂の中に、その勇ましい声だけが響いた。 39

2014-05-04 23:04:07
シャル819 @char819

【ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ】#1終わり #2へ続く

2014-05-04 23:04:39
シャル819 @char819

これにて本日分更新は終了でございます。TL汚し失礼しました。なお、こちらの更新は、http://t.co/laf71rdXXA様の提供でお送りしました。ありがとうございます。もし感想などございましたら、リプライやhttp://t.co/2zNmCPvNh4をご利用ください。

2014-05-04 23:06:59