セラフィリアの庭園#2

魔竜との交渉に向かう竜族の青年クルーム。突然現れた、魔竜に恋人を奪われたという娘。彼らに課せられた奇妙な試練の行く末とは…。 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
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減衰世界 @decay_world

 化け物はリンサに気付いたようだ。シャーッという呼吸音をあげると、勢いよく首が伸びた! 蛇腹構造なのはこのためか、首は一気にリンサの目の前まで伸びてきた。巨大な口が開かれリンサを丸飲みにしようとする! 「へぇ、面白いね」 リンサは軽々とそれをかわす! 49

2014-05-06 17:25:25
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 クルームは自分の目を疑った。どう見ても避けられない速度であり、巨大な口から逃れるにはかなり走らなくてはいけないはずだった。だが、リンサはまるで電気が迸ったかのように地面を蹴って跳ね、あっという間に化け物の攻撃を避けてしまったのだ。リンサは重武装をしているのに! 50

2014-05-06 17:33:39
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「お返しだよ!」 リンサは伸びきったままの蛇腹に剣を突き立てた! 傷口から緑のドロドロとした血液がごぼごぼと湧き立つ。「おっと危ない」 リンサは血を浴びないようにバックステップですぐ間合いを取った。芝生に血がまき散らされ、酸で腐食したように煙をあげた。 51

2014-05-06 17:38:47
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 化け物は怒り狂い、フシューッという呼吸音をあげてリンサを探した。「手助けする!」 クルームは尻尾を振り、魔法を使った。すると、広場の上にたくさんのリンサの姿が現れた。どれも実体を持っているかのようにリアルだ。クルームが得意とする幻術である。 52

2014-05-06 17:43:16
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 どれが本物のリンサか分からなくなった化け物は、手当たり次第に近くの虚像に食らいつく。「あは、ありがとう、竜の使者さん!」 虚像は皆一斉に喋り出す。「まだ僕の魔法は終わっちゃいないぞ」 クルームは背嚢のポケットを開ける。すると、幾つもの小石が飛び出した。 53

2014-05-06 17:49:38
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「飛礫の魔法だ、ほら、避けてみせろ!」 小石は空中にいくつも浮かび上がり、化け物の周囲を飛び交うと、一斉に飛びかかって化け物を打ちすえた。化け物は叫び声をあげて逃げ惑う。やがてクルームの集中力が途切れ、小石は芝生の上に落ちて動かなくなった。化け物はぐったりとして動かない。 54

2014-05-06 17:58:27
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「すごーい、流石の魔法の腕ね!」 虚像もまた姿を消し、本物のリンサがクルームの元へと駆け寄ってきた。「これで終わりだといいんだけど」 化け物はよろよろと起き上がってはきたが、これ以上の戦闘は不可能に見えた。化け物は力を振り絞って頭を伸ばす! しかしそれはでたらめな方向だ。 55

2014-05-06 18:01:14
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「何を……!?」 クルームは見た。化け物は広場の外周に生えている果実に向かって真っ直ぐ伸び、黄色い柑橘のようなその果物を丸飲みにした。果物を飲みこんだ瞬間、不思議なことに、化け物の傷があっという間に癒え始めたのだ! 「おいおい、聞いてないぞ」 56

2014-05-06 18:04:56
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 化け物は元の力を取りもどし、ひときわ高いシューッという呼吸音を上げた。「あは、普通に戦って勝てる相手じゃ……なさそうだね」57

2014-05-06 18:05:29
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――セラフィリアの庭園#2 (了) #3へ続く

2014-05-06 18:05:38