「ジン。今日は深酒はやめた方がいい。走ってしまったから体に障る」「なぁ闇狐。約束やで。もし俺が生きることに飽きたなら、そん時は」「…残ったその心臓を、食らう」「そゆこと」
2014-05-06 22:21:25月影は、まだあどけない少女に膝を折ったが斬夜の父は「男として接するように」と重ね重ね言った。それは彼女が生まれた時から決められたものだったので月影は何も言わずただ頭を下げた。
2014-05-06 22:45:33忍としての役目を全うする傍らで月影は斬夜の世話をした。口数の少ない月影を最初怖がっていた彼女だったが、次第に慣れてきたのか逃げなくなった。やがて春には庭に咲いていた桜の木の一枝を手折って月影に贈るほどによく懐いた
2014-05-06 22:50:16「いいかつきかげ、おまえはいつでもわたしのそばにいて、わたしをまもるんだぞ。さぁ、やくそくのゆびきりをしよう!」そういってその小さな小さな小指に自分の小指を絡めさせられた日が、今でも脳裏に焼き付いていた。
2014-05-06 22:53:24斬夜は可愛らしい少女から、成長する度に自身の過酷な運命の重荷を増やしていった。口調を変え、身なりを変え、武芸を極め日々鍛練を怠らなかった。時には当主の厳しい指導で柔肌に青痣を作ることもしばしばあったが、それでも斬夜は気丈に振る舞った。
2014-05-06 22:59:24いつか指切りを交わされた白い手は美しく成長していくにつれて潰れたマメが増えていくばかりだった。いつだっただろうか、月影が斬夜のマメを見かねて手当てをした時があった
2014-05-06 23:03:00その時斬夜がふと、苦笑を漏らしながら言った。「幼い頃からいつもお前に世話をかけるばかりだな。僕にとってお前は部下であり兄でもあるんだ。月影、どうかこれからも変わらず僕を支えてほしい」
2014-05-06 23:06:33………その言葉に、忍として今まで冷徹に命令に従っていただけの月影がどれほど心を揺さぶられただろうか。目の前の主が日々自身の切磋琢磨で過酷に生きていても、ただの忍にこれほど心を開いてくれようとは。嗚呼なんという幸福であろうか!
2014-05-06 23:10:50「いいかつきかげ、おまえはずっとわたしのそばにいるんだぞ。さぁやくそくのゆびきりをしよう!」 ちっちゃい斬夜ちゃんと月影 http://t.co/kV0fNX33s9
2014-05-07 22:01:03それはまだ幼いジンが博打打ちの手伝いをしながら技術を磨いていた頃の話。その頃ジンは賭場の常連の爺から戯れに読み書きを習っていた。早くから乞食だった彼に今まで手習いの時間も場所も相手も無かったから、ここで初めて自分の名前の字を見たのだった。
2014-05-08 21:43:37夜中。ジンは闇狐に手習いの続きを頼んでいた。心許ない手付きで拾ってきた瓦版の裏に炭で自分の名前を書いていたが、ふとその手を止めたので闇狐は訝しんだ
2014-05-08 21:48:05「どうした」「……うーん、なぁんか俺の名前って単純やなぁ思てな」「ジン」「そ。オトンもオカンもジンとしか呼ばへんかったから漢字も知らんし、口に出しても単純でつまらんわ。なんやったら自分で新しい名前でも作たろか」「ならばどのようにする」「それは今から考えるわい」
2014-05-08 21:54:36