rsbs日誌#42

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女 @r_s_b_s

#rsbs日誌　ハヂマリ

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#rsbs日誌　此処は南洋。海の果て…誰が呼んだかレズボス鎮守府。緑の深く生い茂る島の中。鎮守府の傍らに、硝子張りの小さな神殿の様な温室があった…この場所を知る艦娘は少ない。知っていても尚、立ち入る者はそうは居ない。

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#rsbs日誌　何故ならばその温室は余りにも、一息吸うだけでクラリと来る様な…甘い甘い毒で満ち満ちて居たから…慣れぬ者が此処の空気を吸ったならば、瞬く間に失神してしまう事だろう。其れ程なまでに…この硝子の宮殿の主の力が色濃く強く出ている場所であるのだから…

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#rsbs日誌　そんな、美しくも毒々しい神殿に近付く影が一つあった。さくり…さくり…と丁寧に砂利の敷き詰められた小道を歩く、小柄な駆逐艦。醸す雰囲気は老練で、ピンと張り詰めた弓の弦の様…滑らかに輝く金属の格子と硝子で出来た扉を開けて彼女は見渡す。毒々しい植物園を…

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#rsbs日誌　其処には鮮やかに咲き誇る様々な華、華、華…そして、この世には有りえぬ植物の数々。金属光沢を放つ百合。まるで水晶の様な葡萄。虹色にてろてろと光る不思議な睡蓮…と、正に見る者を狂わさん魔性の物たちばかり…

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#rsbs日誌　他愛もない植木鉢に植えられた、一見他愛も無い緑の草はマンドラゴラにガルゲンメンライン。不用意に手を出せば瞬く間にその雄叫びで絶命するか、手酷い傷を負う事になるだらう。危険な魔法の植物を一瞥もせず、駆逐艦の少女はすたすたと硝子の宮殿を歩いてゆく…

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#rsbs日誌　「提督？居るんでしょう。居たら返事なさい。全く…青臭いったらありゃしないんだから」ブツクサと文句を零せば、宮殿の奥より声が響いた。「此処におるぞ」地面に敷かれた木の板を踏みつけて少女は歩く。見た目よりも明らかに広い温室を歩いて、辿り着いた先は…蒼い蒼い世界だった…

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#rsbs日誌　「何じゃ？叢雲。お主此処が余り好きではなかろうに」「えぇ。好きじゃないわよ。青臭いし、おっかないし…私と言う存在がブレてしまいそうになるからね。この狂った植物達に囲まれてると…其れより、急ぎの便箋。あんた宛によ」

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#rsbs日誌　叢雲、と呼ばれた彼女はぶっきら棒に茶色い封筒を提督に渡した。くしゃり、と便箋の形をした紙が悲鳴を零した。「うん？どれどれ…なんじゃ。また華の催促か。あやつもまぁ…一々几帳面なこって」懐からあれやこれやと道具を取り出し、提督は指の関節をパキリと鳴らす。

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#rsbs日誌　あれやこれやと準備をしながらクック、と苦笑を零す提督のその顔は…叢雲には嫌がっている様には見えず、寧ろ何処か楽しんでいる様にさえ見えた。花切り鋏を片手に、提督はそっと一輪の華を優しく切り取り…ふぅ、とそっと息吹を掛けた。

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#rsbs日誌　「出荷のお願い？」「そう言う事じゃよ。今時こんな古臭い思い出話を知っておる輩なぞ、そうは居らんと言うのになぁ…」そっと淡いベージュの紙箱に包んで、くるりとリボンが独りでに紙箱を彩る。一厘の華…蒼い薔薇は、静かに…然し瑞々しいまま、紙箱の中に納まっていた。

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#rsbs日誌　まるでそうある事が正しいかの様に、蒼い薔薇は生き生きとしていた…「あいも変わらず…見事な魔法だ事…魔法といえば、この蒼い薔薇…どうやって作ったの？遺伝子組み換えではないでしょう？」ぽつりと呟き、叢雲は蒼い花びらをそっと撫でた。

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#rsbs日誌　しかし…まるでその青色ときたら、墨が半紙に染み渡るように、叢雲の指先を軟く淡く染めようとするのだ。叢雲は無言でそっと指を払う。蒼い滴が僅かに飛び散った。指に滲み込もうとしていた青は、瞬く間に…水が乾くかの如く消え果ていった…

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#rsbs日誌　「そうじゃとも…ラピスラズリの植木鉢に、ターコイズの砂利。タンザナイトの息吹を与え、ラピスラズリのティアドロップから抽出した水を飲ませて、そっとサファイアの奏でる自鳴琴の歌声を聞かせてやったのじゃよ」「よくやるわね…お金、かかったんじゃないの？」「何…他愛も無い」

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#rsbs日誌　「蒼い薔薇を欲しいと言う、夢追い人が居ったから、何処かの魔女が退屈しのぎに答えただけじゃ。わしの趣味でもあったしのう…」パチリ、とまた一輪、切り取られた蒼い薔薇にふぅ…と魔法の篭った息吹を優しく吹きかけながら、比良坂はそっと答えた。

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#rsbs日誌　「しかし…お前さんとの思い出でもあったな。この蒼い薔薇は…」ぽつりと、呟く…今も昔も、変な奴だって思ってたわ」「かかか…手厳しい」「だけども…」パチリ、と叢雲が蒼い薔薇を一輪切り取り…そっと比良坂の胸に挿した。

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#rsbs日誌　「あんたにあの時…この薔薇を貰ったのは、嫌な感じはしなかったわね…」「おや…まぁ。口説く様になったか？」「さぁね。何処かの誰かさんの影響かもよ」「言うようになったのう…」「うっさいわねぇ、どうでもいいでしょうが」やれやれとばかりに叢雲は箱に包まれた薔薇を取る。

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#rsbs日誌　「ほら、こんな所で油売ってないで。さっさとその蒼い薔薇を郵送なさいな。今日は駆逐艦たちを繁華街に連れてく約束でしょう？」「おぉぅ。急かさんでおくれ。こけてしまうじゃろ」比良坂を引っ張る彼女の手は、何処と無くトクントクンと脈拍が響いて聞こえたかもしれない…

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#rsbs日誌　昔々ある所に一人の女の子が居ました。少女は可哀想な事に親から愛してもらう事が出来ませんでした。更にあろう事か、女の子は好意を寄せられ、自らも好いたヒトに捨てられてしまいました。絶望の果てに女の子は泣いて泣いて泣き腫らして、泣き終えた頃…

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#rsbs日誌　女の子の両目は真っ赤な血の色に、髪は哀しみと闇の様な真っ黒な色に染まってしまいました。何時しか一人の女の子は、少女の姿をした魔女になってしまいました。少女の姿をした魔女は、ゆっくりとゆっくりと魔法を覚え…やがて立派で恐ろしい魔女に成ってしまいました。