rsbs日誌#49
#rsbs日誌 帝都、東京。その日の夜は一段と暗かった。真夜中と言う事を差し引いても尚、暗い。まるで墨汁を垂らしたかの様だ。普段なら人通りもあっただろう通りも、こんなに暗くては人っ子一人居やしない。否。静か過ぎた。不気味なまでに、人の気配が無いのだ。少女は不安げに道を歩いていた。
2018-11-29 23:33:05#rsbs日誌 不意の出来事だった、一筋の風が吹き抜けた。まるで突風の様に。少女は暗闇の中吹き付ける風に驚き、体を強張らせる。次の瞬間だった。体に力が入らないのだ。其れ所か、視界がどんどん暗くなっていく。すぐ傍にあったはずの街灯の明かりがまるで遠くの物の様に感じられた。そして驚く。
2018-11-29 23:33:21#rsbs日誌 またもや、胡乱な事件が帝都東京で起きたと言う。その知らせを受けた比良坂巴は、苦々しい顔をして渋々本土へと飛んだ。「わしは言った。わしは言ったとも。帝様に魑魅魍魎の事件を解決してみせようと。だがちょいとばかりワシに仕事を押し付けすぎやしないかね?んん??」
2018-11-29 23:34:14#rsbs日誌 苛々した表情と口ぶりで迎えの車に乗った比良坂は隣に座っている安倍乃の膝を自分の膝で突きまわしていた。「勘弁してくれ。頼むから。今回は俺も捜査に借り出された。だけども分からん物は分からんのだよ。犯人が何物なのか。何故犯行が行えたのか」比良坂はハァ…と溜息を付いた。
2018-11-29 23:34:50#rsbs日誌 「それを解明するのがお前さん達、『第二種資料室』だろうがっ」「ご尤も…っと、着いたぞ。比良坂。此処が調査現場だ」導かれた先は…死体安置所であった。はて。何故にこんな場所で胡散臭い事件が繋がるのだろうかと比良坂はしきりに首を傾げた。こう言うのは尋常な事件では無いのか?
2018-11-29 23:35:14#rsbs日誌 「どうも、お待ちしておりました。監察医の神井と、私の助手の北村です」眼鏡をかけて髪を伸ばした如何にも医者だと言う風体の監察医と、助手ですと言わんばかりの三つ編みの女性から紹介を受けた。「所で比良坂さんは、内臓は得意ですか?」「…不得意じゃ」とんでもない質問である。
2018-11-29 23:35:38#rsbs日誌 「それでは難易度の低い奴から行きましょうかね。北村さん。B-503を出して頂戴」「はい先生」助手は言われるが儘に、幾つもの収納棚になっている物の一つを引っ張り出した。ふわりと冷気が流れ出す。冷蔵庫に詰め込まれた死体と言うスプラッタ映画をふと比良坂は思い浮かべた。
2018-11-29 23:36:07#rsbs日誌 そして収納棚から出てきた死体は…『余りにも綺麗すぎる腑分けの為された死体』だった。骨はまるで磨き上げられた様にツルツルで、筋肉は今にも動き出しそうで。心臓に至っては今にもドクンドクンと動き出しそうな新鮮さを保っていた。そしてそれは艦娘の死体だった。
2018-11-29 23:36:23#rsbs日誌 「まるで今にも動き出しそうでしょう?」困ったように、苦笑するかの様に北村が言う。「実際…使えてしまえるんですよ。この腑分けされてしまった体は。四肢や器官を失った艦娘に、内緒で施術を試みた結果、見事に動いたんですよ。其れほど見事な腑分けだったんです。この事件は」
2018-11-29 23:36:37#rsbs日誌 あまりの悪趣味さに、流石の比良坂も口元を抑えた。「こんな事件が、何件も起きているんだ。そして犯行対象は艦娘か、引退した元艦娘ばかりだ。馬力も在る艦娘が、何故こうも容易く腑分けされるのか。全く分からん。俺は最初、カマイタチが悪霊化でもしたかと思ったが…」
2018-11-29 23:38:06#rsbs日誌 安倍乃がそう言いかけた時、比良坂が手で制した。「いや、これは違う。紛れも無くヒトの類の仕業じゃ。腑分けの切り方、ヒトを解体する術を知っている奴の犯行じゃ。それに聞くが…ただ地面に転がしてあった訳ではないのだろう?」比良坂の言葉に、安倍乃は頷いた。「お前の言う通りだよ」
2018-11-29 23:38:55#rsbs日誌 「骨格はブルーシートに横たわらせて、腑分けされた筋肉や内臓と言った器官はジップロックに詰め込まれて冷やされていた。明らかに『尋常じゃない』。魑魅魍魎だったらそのまま食い捨ててポイか、ぐちゃぐちゃの腐乱死体になってコンニチワが良い所だ」「解せんな。解せん事ばかりだ…」
2018-11-29 23:39:18#rsbs日誌 比良坂は不思議に思った。何故殺すのが難しいハズの艦娘や、元艦娘ばかりを狙う?安倍乃から聞いた所によると、犯人はシリアルキラーで間違いないそうだ。ほぼ一日、二日に一度の頻度でこの怪事件は起きていた。「犯行時刻は?」「夜だが、まるでバラバラだ。ひと気のある時間さえだ」
2018-11-29 23:39:35#rsbs日誌 益々分からない。比良坂は頭を抱えて唸り、その場を後にした。何よりも引っかかるのは、犯行時間だ。夜である。と言う共通事項しかない。そしてどの様に腑分けしてみせたのか。全くの謎。ヒトを解体するだけで結構な時間が掛かると言うのに、犯人は短時間で見事な腑分けをしてみせるのだ。
2018-11-29 23:40:04#rsbs日誌 「だーっもう皆目検討が着かん!こう言う時は足を使って調べるに限る!安倍乃。わしはここで別れるぞ。良いな」「おい、比良坂!…まったく…」斯くして魔女は、非常に古典的な手段を用いて犯人の足取りを追う事にした。同時に一つの確信もあった。シリアルキラーならば何かを残す筈、と…
2018-11-29 23:40:43#rsbs日誌 …ある日の夜の事だった。オレンジ色の髪の少女は空腹を紛らわせる為にコンビニエンスストアへと足を運んでいた。それにしても、今日は暗い。道行く歩道に等間隔で立ち並ぶ街灯は皆薄暗く明滅を繰り返すばかりだ。何よりも、人通りがある筈なのに、ひと気が微塵も無い。恐ろしい程に。
2018-11-29 23:41:44#rsbs日誌 少女は恐怖心に心を蝕まれながら、同時になんとも不思議だと思いながら歩を進めた。コンビニエンスストアを目指して。不意の出来事だった、一筋の風が吹き抜けた。まるで突風の様に。少女は暗闇の中吹き付ける風に驚き、体を強張らせる。次の瞬間だった。体に力が入らないのだ。
2018-11-29 23:42:10#rsbs日誌 そして少女は無残にもバラバラになった。犯人は酷く楽しげにクックック、と声を漏らした。アッハッハ!と高笑いさえ上げていた。「我ながらなんて芸術的!嗚呼、こんな事が出来る自分が恐ろしいくらいだねぇ!」「漸く見つけたぞ、シリアルキラーめ」不意に胡乱な声が路地裏から聞こえた。
2018-11-29 23:42:40#rsbs日誌 其処には鬼火を灯したランタンとペンデュラムを手に携えた比良坂の姿があった。「よもやお前が犯人だったとはな。監察医の神井…いや…軽巡洋艦北上よ」比良坂は路地裏から一歩踏み出した。じゃりっ、と言う音が妙に耳に響いた。「何故こんな犯行を繰り返す?事が知れたら解体は免れんぞ」
2018-11-29 23:43:01#rsbs日誌 比良坂の問い掛けに、北上はニッコリと笑みを浮かべながら答えた。「あたし元々普通の艦娘だったんだけど、仲間の死体の構造を見てね。魅入っちゃった訳よ。どんな風に出来てるのか。どんな風に作られているのか。それでもうドキドキが止まらなくってさ」北上は楽しげに自分の過去を語る。
2018-11-29 23:43:52#rsbs日誌 ねぇ見てよ比良坂。この心臓。送り出す血液も無いのにまだ元気にドックンドックン動いてるんだよ?肺だって、まるで生きてるみたいに収縮を繰り返して。艦娘って凄いよね。最後はコアが壊れない限りこんなバラッバラの状態でも『生きて』いられるんだからさぁ。」愛おしげに彼女は語る。
2018-11-29 23:44:14