【第二部-拾参】演習要項を口実に #見つめる時雨

榛名×比叡 山城×満潮
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榛名視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

お風呂上がりの火照った体に、廊下を吹き抜ける春の風が心地良い。そういえばもう立夏を過ぎたんでしたっけ。ということは暦の上ではもう夏。ついこの間冬が終わったと思っていたのに、季節が巡るのは早いものです。

2014-05-10 22:01:36
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

自分の部屋へ向かって歩いていると、正面から駆逐艦のコが歩いてきました。あれは…満潮?戦艦寮に珍しい…。でも、考えてみれば時雨もよく見かけます。まぁ、あのコは特別、戦艦寮に足を運んでいるようですけど。…あ、満潮と目が合いました。…あれ?私の方に向かってくる…?

2014-05-10 22:05:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ちょっといいですか?」 「え?」 まさか声をかけられるとは思わず、少し身を引いてしまいました。…満潮が怪訝そうな顔をします。 「…別に取って食うつもりはありませんよ」 私が緊張しているのが伝わってしまったみたいです…。恥ずかしい…。

2014-05-10 22:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

満潮は駆逐艦ですが、誰が相手でも物怖じせず、はっきりとものを言えるコです。私はそんな満潮を少し尊敬していました。だって、芯が強くないとあんな風には振る舞えませんから。その強さに、私は憧れていました。 「…私の顔に何かついてます?」 「え!?あ、いえ、すみません…」

2014-05-10 22:15:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「榛名さん、これ」 そう言って満潮が私に一枚の紙を差し出してきました。これは…? 「明日の演習の要項です。申し訳ないんですけど、比叡さんに渡しておいてくれませんか?」 演習要項? あ、そういえば今日は満潮が秘書艦でしたっけ。

2014-05-10 22:20:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「わかりました。預かりますね」 「ありがとうございます。助かります」 満潮から要項を受け取ります。それに軽く目を通し、明日の午前の演習時の旗艦として比叡お姉様のお名前が書いてあるのを確認しました。…僚艦には霧島の名前もありました。榛名の名前は…ないですね。残念…。

2014-05-10 22:25:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「あ、満潮。何してるの?」 浴衣姿の山城が歩いて来ました。 「榛名さんに頼み事してたのよ。明日の演習関係で」 「ふーん。ちゃんと仕事してるのね。偉い偉い」 そう言って山城が満潮の頭を撫でました。 「ちょ…やめなさいよ!子ども扱いしないでっていつも言ってるでしょう!?」

2014-05-10 22:30:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

満潮は山城の手を払いのけましたが、顔がほんのり赤くなってるような?満潮もこんな顔するんですね。なんだかほっこりします。 「満潮って扶桑姉様には大人しく撫でられてるのに、私じゃ駄目なわけ?」 「…!?あ、あんた…見てたの!?」

2014-05-10 22:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

満潮の顔がますます赤くなっていきます。本当の事なんですね。扶桑さんに撫でられる満潮…とても見てみたいです。 「うあぁ!?榛名さん忘れてください!!というか嘘です!デタラメです!!」 「満潮ったらね、姉様が髪を撫でてあげたら、すごい安心したみたいに…」 「山城ー!!」

2014-05-10 22:40:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ところで満潮、榛名には“さん”付けで、私は相変わらず呼び捨て?この扱いの差は何?」 「え?今更呼び方改めて欲しいわけ?別にいいじゃない」 「山城さんって呼んで、敬語使ってくれたら、これ以上姉様とのことは言わないであげる」 「は!?さ、最低…」

2014-05-10 22:45:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

満潮が溜息をついて、それから如何にもキャラを作ってますという感じで話し始めました。 「山城さん、今日も一日お疲れ様でした。明日もまた…って、何よ、その顔」 「ごめんなさい、思ったより気持ち悪かったわ…」 「…喧嘩売ってんの?」

2014-05-10 22:50:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ふふ、お二人は仲が良いんですね」 山城と満潮のやり取りが微笑ましくて、つい笑みが溢れました。 「あら、そう見える?」 「…榛名さん、霧島さんに眼鏡借りたほうがいいんじゃないですか?」 えっ?と、目が節穴ってことでしょうか?これでも、目はいいつもりなんですよ

2014-05-10 22:55:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「そういえば満潮、こんなところで油売ってていいの?」 山城が思い出したように言いました。 「え?…あーっ!そうよ、こんなことしてる場合じゃないわ!…あんたが呼び止めるからでしょ!?」 「ほらほら、早く行きなさい」

2014-05-10 23:00:56
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「山城…ホントに内緒にしてよね!あ、あの事…」 「ええ。私と姉様の心の中に大切に…とーっても大切に閉まっておくわ」 「…あんたの記憶、今すぐこの場で消してやりたいわ…」 満潮が赤い顔のまま山城を睨んでいます。ああ…何だか榛名も撫でたくなってきました…。

2014-05-10 23:05:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

山城に促され、満潮はそのまま去っていきました。 「全く、私の周りの駆逐艦は曲者ばっかりね」 「あら、みんな良い子達じゃないですか」 「…良い子ねぇ…まぁ、悪い子たちではないかも」 山城は、どこかくすぐったそうに微笑みました。

2014-05-10 23:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「でも、いいんですか?扶桑さん、取られちゃうかもしれませんよ?」 「は!?そ、そんなことあるはずないでしょ…!撫でてあげるくらい、時雨にもしてあげてるし…これくらいのことで一々嫉妬してたら、姉様に面倒くさいって思われちゃうだろうし…」 …やっぱり少しだけ気にしてるみたい?

2014-05-10 23:15:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「それにいいのよ、あのコは。あのコが思いっきり甘えられる場所なんて、殆どないんだから。難儀なものよね…」 そう言う山城の目は、妹を心配する姉のようでした。…こういう時の山城、私は好きです。満潮にとって、扶桑さん、山城のお二人は、とてもいいお姉さんなんだろうなって思います。

2014-05-10 23:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「それで、あのコから何を頼まれたの?」 「えっとですね、これを比叡お姉様に届けて欲しいって…」 「比叡に?」 …山城が私の目を、その吸い込まれそうな真っ赤な瞳で見つめて来ました。な、何でしょう…。 「頑張って」 「…!!?もう!そういう目的じゃありませんったら!!」

2014-05-10 23:25:20

 ***

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

山城とも別れ、私は比叡お姉様の部屋の前に来ました。早速ノックをします。 「……?」 返事がありません。いないのでしょうか。私はドアノブに手をかけて見ました。すると…。 「あ、開きました…。比叡お姉様?霧島?」 中は明かりが点いていましたが、やはり返事はありませんでした。

2014-05-10 23:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「お姉様…?あ…」 部屋の奥に進むと…ベッドで比叡お姉様が仰向けになって眠っていました。掛け布をかけてないところを見ると、横になってそのまま寝てしまったようです。…春になって暖かくなったとはいえ、風邪引いちゃいますよ…?

2014-05-10 23:40:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私はベッドに静かに近づき、比叡お姉様のお傍に座りました。 「…比叡お姉様」 何となく、お姉様の名前を呼んでみました。榛名の名前を呼んでくれないかなと、淡い期待を抱きながら。 「……」 …お姉様の規則正しい寝息が聞こえてきます。 部屋は今、その音だけに満たさていました。

2014-05-10 23:45:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「んっ……」 あ…。比叡お姉様がこちらに寝返りを打ちました。比叡お姉様のお顔が…榛名の方を向いています。それは無防備で、無垢で…とても可愛いらしいお顔でした。…榛名の心臓が、いつもより少し早く鼓動を刻んでる気がします。ああ…私いま、ドキドキしてます…。

2014-05-10 23:50:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

そう言えば…比叡お姉様に演習要項をお渡しに来たんでした。いけません、本来の目的を忘れそうになってました…。でも、気持ちよさそうに寝ていらっしゃるのに、起こしてしまうのは申し訳ない気がしました。…そうです、申し訳ないからです。決して、やましい気持ちがあるわけでは…

2014-05-10 23:55:23