【連投SS】スカイハイの作り方

2014/5/11~ Twitter連投で書いたSSのまとめ。 単独で結構な量になってしまったので、「twitter連投SSまとめ」から分離しました。 http://togetter.com/li/591356
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佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

①私が能力に目覚めたのは、18歳の夏だった。暑い日だったよ、とても。高校を卒業して、進学する大学も決まっていて、長い夏休みをのびのびと過ごしていた。進学先は、そこそこいい大学だったんだよ。信じられないかな。私はパパとママの自慢の息子だった。あの日、NEXT能力が目覚めるまでは。

2014-05-11 11:27:30
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

②何が引金だったのかは、今でもわからない。そんなものはなかったのかもしれない。庭にいた私を、突然嵐が襲ったんだ。凄まじい暴風だった。けれど、指の隙間から見える空は何故か変わらず澄んでいた。そして私は、自分の体が青い光を放っていることに気付いたんだ。暴風を発していたのは、私だった。

2014-05-11 11:29:19
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

③わけもわからないまま翻弄されて、やっとの事で暴風から逃れた私の目に映ったのは、植木も芝も花もめちゃくちゃになってしまった庭と、傷だらけの家の外壁、割れたガラス、引き剥がされ吹き飛んだ軒先。そして、恐れと嫌悪を浮かべた、両親の目。幸いにして、ケガ人はいなかったよ、私以外には。

2014-05-11 11:29:53
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

④古くて小さな田舎町のことだ。私が「奇妙な力」に目覚めたことは、あっという間に町中の噂話になった。そしてあの町は、あまりNEXTへの理解があるところではなかった。両親が私を捨てるようなことはなかったが、時々、初めて能力が出た日と同じ目を私に向けた。もう、あそこにはいられなかった。

2014-05-11 11:30:15
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑤最低限の服と、在学中にアルバイトで貯めたお金と携帯電話だけを持って、家を出た。NEXTが自由に生きられるという街を目指して。電車とバスを何本も乗り継いで、この街にたどり着いた。とても時間がかかったよ、とても。けれど、またあの力が暴走したらと思うと、飛行機には乗れなかったからね。

2014-05-11 11:31:10
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑥初めて見るシュテルンビルトは、賑やかでまぶしくて混沌としていて、ここでなら私も、人に紛れ、隠れて生きていけると思った。NEXT能力のことは隠していたが、NEXTが理由でなくても、高校卒業と同時に当てもなく地元を飛び出してきた若者など、この街では珍しくとも何ともないだろう。

2014-05-11 11:32:01
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑦ここでなら私は、奇妙な化け物ではなく、よくいるただの向こう見ずな青年になれた。だから、ポセイドンラインの駅の乗客整理のアルバイトにもすぐ就けたし、住むアパートもすぐ見つかった。両親からの連絡は、ついに一度も無かった。

2014-05-11 11:32:44
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑧がむしゃらに毎日を駆け抜けているうちに、アルバイトから契約社員になり、食うには困らなくなり、アパートも安いが小綺麗で安全なところに変わった。それでもなお、たった一人で生きていくのに精一杯で、足元ばかり見ていた。そんな私の顔を、通りがかった街頭モニターから響いた声が、上げさせた。

2014-05-13 21:44:03
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑨『ワイルドに吠えるぜ!』とね。青いスーツのヒーローが、そこには映っていた。そう、ワイルドタイガーだ。ヒーローTVのことは知っていたけれど、見るのはほぼ初めてだったと言ってもいい。衝撃的だった。人や物や、自分自身すらも傷つけ得る強大な力が、人を助けるために振るわれているんだ。

2014-05-13 21:45:25
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑩何かを傷つけ壊すことにしかこの力を振るえない私には、それはとても眩しく、手の届かないもののように見えた。…私がそんな風に思っていたなんて、信じられないかい?だけどその頃の私は本当に、この力を呪われたもののように思っていたんだ。封じ込めて、押し隠すことしか考えていなかった。

2014-05-13 21:47:31
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑪だが、画面の中のワイルドタイガーは言ったんだ。「その力は、人を助けるためにある」と。そうだね、彼自身がMr.レジェンドに言われたことだそうだ。私と同じように、自分のNEXTに怯えていたときに、その言葉に救われたのだと。そして、私もまた、ワイルドタイガーのその言葉に救われたんだ。

2014-05-13 21:49:11
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑫私は、初めて自分のNEXT能力と向き合おうと思った。たった一人で、能力のコントロール訓練を始めたんだ。彼のようなヒーローになりたいと思ったわけではなかった。ただ、いつか誰かの役に立つ日が来るかもしれない、そうでなくても、この力でもう何も傷つけずに済むようになりたいと思った。

2014-05-13 21:50:35
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑬正面から向き合おうと決めた瞬間、風は私の味方になった。初めて発動したときの暴走が嘘のように、私の意思を感じ取って動いてくれた。とは言え、最初から今のように使いこなせたわけではない。始発前のまだ暗い操車場や、誰もいない整備場。イメージと実践を繰り返し、ときには失敗やけがもして。

2014-05-13 21:51:32
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑭そんなことを何年も続けているうちに、私は20代も半ばにさしかかろうかという年齢になっていた。そして、ついに私は、自分の体を浮かせることと、それと同じくらいの重さのものならば、吹き飛ばしたり持ち上げたりすることができるようになったんだ。もう、能力が暴走することもない。

2014-05-13 21:52:16
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑮そんなある日、私の勤めていた駅で事件が起った。追われた強盗犯が逃げ込んで、モノレールをジャックしたんだ。バーナビー君がデビューした事件と同じだね。私たち駅員も犯人を追いかけてホームに駆け込んだけれど、犯人は自らモノレールを運転して強引に発車させた。私は、咄嗟に車両に飛び乗った。

2014-05-14 21:48:08
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑯運転士は、私の友人だった。犯人は、あろうことか抵抗する彼を車外に突き飛ばしたんだ。かろうじて扉の横にしがみついて、彼は落下をまぬがれた。だが、車外に足場などなく、いつ手を滑らせて何百m下に落ちてしまうかもわからない。だが運転室に戻れば、今度こそ犯人に突き落とされるかもしれない。

2014-05-14 21:49:15
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑰私は客車の窓から身を乗り出して手を伸ばした。それだけでは届かない。能力のことが頭をよぎる。風を操る力。その力を使って、風で彼を掬いあげればいい。練習ではもう簡単にできるようになっていたことだ。そうだ、私も誰かを助けられる。けれど私は怖かった。力を使うのが、怖くてたまらなかった。

2014-05-14 21:49:42
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑱もしも彼をうまく浮かせることができなかったら?あのときのように暴風を巻き起こしてしまったら?掬い上げるはずの風が、かまいたちを生んで彼を傷つけてしまったら?必死で手を伸ばしながらも、その指先はどんどん冷えていった。どうしてさっきまで、この力で人が助けられるなんて思えたのだろう。

2014-05-14 21:50:13
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑲私はあの日から何も変わっていなかった。ヒーローTVとワイルドタイガーに勇気をもらっても、結局は自分の能力に怯える臆病者だ。そうしている間にもモノレールは揺れながら走り続け、彼は振り落とされようとしている。そしてついに、わずかに引っ掛けていた彼のつま先が、車両の外壁から、外れた。

2014-05-14 21:50:44
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

⑳…もしもこれがドラマや小説だったなら、きっと私が能力を発動して彼を助るのだろうね。そしてヒーローにスカウトされ、めでたしめでたしだ。けれど現実は、そうならなかった。私が能力を使うことは、最後までなかった。そんな臆病な私と違い、彼は勇敢にも自ら飛びついて、私の手を掴んだんだ。

2014-05-14 21:52:14
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

㉑しっかりと握りあった彼の手は、熱かった。私は必死で彼を引き上げて、車両の中に引き込んだ。の駅で待ち構えていた警察にモノレールを強制停止されて、犯人はあっけなく逮捕されたよ。それを見届けて、私と運転士の彼は、その場にへたり込んでようやく息をついた。そして彼は私に言ったんだ。

2014-05-14 21:53:41

の駅→次の駅 です

佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

㉒「助けてくれてありがとう」「キース、お前は俺のヒーローだ」とね。ヒーローだなんてとんでもない。私は彼のために能力を使うことができなかったのに!そうとは言えない私は、ただ首を振った。彼を助けたのは、彼自身の勇気だ。彼が手を伸ばしてくれたから、私はその手を掴むことができたんだ。

2014-05-14 21:53:51
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

㉓そう言ったけれど、彼は変わらず笑うんだ。「俺が手を伸ばして飛び出せたのは、お前が助けてくれるって信じていたからだ」とね。彼の言葉の意味がわかったのは、それからしばらく経ってからだった。私は突然、ポセイドンラインの本社に呼び出されたんだ。末端の一駅員が、本社の役員会議室に、だ。

2014-05-15 12:48:38
佐藤稲荷*さくさく揚げ @inari_tbss

㉔初めて訪れた本社には、見るからに重役であろう男性が私を待っていた。そして彼らは、私に書類の束を突きつけた。「君は、NEXTだそうだね」と。血の気が引くと同時に、「ああ、これが私を呼び出した理由か」とどこか納得した。私はまた、この力を理由に居場所を失おうとしているのだと思った。

2014-05-15 12:49:40