- koiflachuchu
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(これまでのあらすじ:フジキドにフラれたこいしは放浪の末キョートに辿り着く。紆余曲折ありガンドー探偵事務所に助手見習いとして厄介になることになったこいしに初めての依頼が来る。依頼は暗黒非合法ドラッグ『シアワセ戻る』の流通元を探ることだ。)
2014-05-15 08:17:12(開いた第三の瞳の力を用いてあっさり依頼を解決するこいしは依頼人「Nomark」の元へ行くが、そこで出会ったのはニンジャ以上の身体能力で部屋の中を縦横無尽に飛び回る全裸の中年男性であった。男の名はムジルシ。元ヨロシサン主任研究員であり、『シアワセ戻る』の開発者であった。)
2014-05-15 08:18:25「開発者?開発者ナンデ?開発者が流通元を割り出せなんて不自然な依頼ね」こいしはムジルシを警戒し、胸のコードを波打たせる。一方ムジルシは平然としている。「僕は作るだけ作って例の禁断症状起こして退職したからね。退職金がわりにウサギを大量に貰ったが、それも尽きてこのザマさ」 1
2014-05-15 08:25:11「ところでナンデと言ったね?そりゃウサギが欲しいからさ。それともう一つ。僕しか知らないウサギのレシピをそいつらは知っているのか知りたくてね。君が流通元をヨロシサンと暴いてくれたお陰でそれは合点がいったがね」「で、そのウサギって何?IRCでの略語ってだけじゃないのね」 2
2014-05-15 08:30:08「愛称さ。古来よりウサギの足は幸福をもたらすと言うからね」こいしは幻想郷の竹林にいる妖怪兎を思い出す。(今度やってみよう)「まあいいや。お金出来たら後で振り込んどいてね。私は帰るから」「待って、話せば長いのだ」ムジルシはこいしのか細く白い腕を掴み、制止する。 3
2014-05-15 08:40:01「何?もう依頼は終わったよ?」「僕はこれからヨロシサンを襲撃するつもりだ。禁断症状を発症させてね」「……死ぬ気?」こいしは先程の発症による身体能力向上については高い評価を下している。しかし、問題は正気を失うこと。そしてその行動原理が薬の入手であることだ。 4
2014-05-15 08:45:14薬を手に入れてしまったが最後、禁断症状はおさまり身体能力は惰弱なモータルのそれとなるだろう。そうなればニンジャどころか、クローンヤクザに殺されて終わりだ。「死にたくないからこうやって君に話しているんだ。頼む、僕とついでに世界を救うため協力してくれるか?」 5
2014-05-15 08:50:09「おじさんお金持ってないじゃない。それに、私にはおじさんを救う理由も世界を救う理由も持ち合わせてない」「誰かを助けるのに理由がいるかい?」「誰かを見捨てるのにも理由はいらないよ」こいしはムジルシの腕を振り払い、消えた。はね除けられたムジルシは虚空に向かって叫んだ。 6
2014-05-15 08:55:09「いまやウサギはトップシェアを誇るデザイナーズドラッグだ!オハギから中毒成分を抽出し、バリキやズバリを応用した悪夢のクスリだ!キョートや日本はいずれノミめいて跳躍する廃人だらけになるだろう!君の親しい友人も!家族も!みんなああなってしまうかもしれない!」 7
2014-05-15 09:00:18「僕はあんなもの流通させる気はなかった!それで意見は割れ、僕はウサギを飲まされヨロシサンを追い出された!あれはこれ以上世に出してはならない!君が来ようと来まいと僕はヨロシサンを明日のウシミツ・アワーに襲撃する!」こいしは鍼灸院の外で、ムジルシの慟哭をじっと聞いていた。 8
2014-05-15 09:05:22翌朝、キンギョ屋。「ほらよ」「ありがと」こいしがキンギョ屋から受け取ったのは猫型のドロイドと鴉型のドロイド。ガンドーが依頼が入ったと同時にキンギョ屋に頼んだものだ。「悪いな、完成に手間取ってよ。特に鴉型の飛行機能が難しくてよ」「チイサイみたくただ浮遊するだけでよかったのに」 10
2014-05-15 09:10:14「そこはほら、クヤシイだろ?」「うん、たしかにクヤシイ」こいしは猫型ドロイドと鴉型ドロイドを撫で、少し微笑んだ。「モーターオリン、モーターオクウ。それがこの子達の名前よ」「ニャーン」「カー」名前を呼ばれたオリンとオクウはAIのロジック由来のコマンド音声を出す。 11
2014-05-15 09:15:07「そりゃいいんだが、それどうすんだ?もう依頼は終わったんじゃ?」「報酬が未回収なのよ。それに、ちょっとクヤシイし」「そうかい。カラダニキヲツケテネ」こいしは二体のドロイドを引き連れ、キンギョ屋を後にした。「うーんと、確かオクウに入ってるのよね、アレ」 12
2014-05-15 09:20:00こいしはオクウの胸部に備え付けられたボタンを押す。「ドーモ、ディープスロートです」オクウが宇宙めいた合成音声で喋る!正確にはオクウではなく、オクウに備え付けられたIRC通信機からだ!「ドーモ、ラナンキュラス(訳注・事前に定めておいた暗号)です。ちょっと頼みがあるの」 13
2014-05-15 09:25:19「何かね?確認しておくが、彼から受け取った前金以上の依頼は受けかねるぞ」「んーとね、ちょっと売って欲しい商品があるの。レシピは後で送るからよろしく」「……食品かね?」「食品。甘くてちょっとしょっぱいお菓子よ」「また後で本社に来てくれたまえ。商談は直にしよう」 14
2014-05-15 09:30:25「ありがと」オクウの胸のボタンを押すと宇宙めいた合成音声は途切れ、オクウは再び電子音声で「カーカー」と鳴く。ディープスロート。又の名をコケシ・サイコウ。コケシ・マニュファクトリ社CEOその人である。過去にガンドーが獲得したコネクションの中でも最高級のものだ。 15
2014-05-15 09:35:08「さて、後は……」こいしはリフト乗り場に向かって歩いていく。目指すはガイオンはずれの庵だ。歩きながら、こいしは姉の事を思い出す。地霊殿に移ってすぐ、こいしが心を閉ざしたことで自暴自棄になっていた頃のさとりを。その頃の彼女は水タバコに嵌まっていた。 16
2014-05-15 09:40:10「アーイイ……」「お姉ちゃん、ごはん……」「そのへんに置いといて頂戴……アー、遥かにいい……」ろくに飯も食わず、ただ水タバコを吸いつづけるさとり。ナムサン。ニンジャ並の能力を持つヨーカイと言えどこのままでは衰弱死は必至であった。 17
2014-05-15 09:45:17(((このままじゃお姉ちゃんが引きこもりニートのガンギマリダメ妖怪になる)))そう思い立ったこいしは試しにペットを飼ってみることにした。言葉を持たない動物ならば、嘘をつくこともない。そんな動物の存在はさとりの心を癒し、水タバコも暇があれば吸うぐらいの頻度に落ちた。 18
2014-05-15 09:51:02火車と地獄鴉。それが最初にこいしが連れてきたペットであり、オリンとオクウのモデルでもある。こいしはムジルシの慟哭を思い出す。親しい友人も、家族も、みんな全裸中年男性と化してしまう。かつての姉のような人間だらけになる。それだけは絶対に許せない。こいしはうち震えた。 19
2014-05-15 09:55:13ふと気がつくとリフト乗り場。「使えるものは使わなくちゃね」こいしは姿を消し、再びアッパーガイオンへ飛翔していく。目的地はガイオンよりさらに西。森林再生プロジェクトの管理下に置かれた丘陵地帯だ。 20
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