『その頃の千歳2nd』

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

【その頃の千歳２nd　開始】

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

瑞雲の支配を取り戻した日向の実況を聞き、始終無感情を貫いていた千歳の瞳が、千代田の名が出た事で動く。 おそらく観客の誰も予想していなかっただろう第十五支援艦隊の奮戦の果て、長門と千代田だけが残り、その両者が向かい合ったと。 動きはしたが、何を考えているのかは日向には読めない。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu …勝負あったな。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

「…そうね」 日向の言葉と同じ事を思ったのは、観客達の中でも大半を占める。演習が始まってから話を聞きつけたのかみるみる増え続け、港湾部は今や人や艦娘でごった返していた。 中破状態とは言え、相手はあの長門だ。ここまでの戦いでも活躍を見せていない千代田に勝機を見る者は少ない。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

「でも…」 千歳が顔を向ける。見えるわけのない妹の方向へと。 「可能性は、ゼロじゃない」 妹の身を案じる姉の顔ではなく、艦隊のメンバーを慮る旗艦としての顔で、千歳が呟く。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu 千代田の勝率が、か？ 私は皆無だと思うぞ。『今の』長門と相対するのは、私でも御免だ。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

意地悪でもなんでもなく、冷静に分析した上で日向は告げる。 はったりやまぐれ、不意打ち…そういった類の攻撃が通用する相手ではない。 キレたりやぶれかぶれになる事で、性能や相性を超越して予想を覆す結果を招いた艦娘の例は確かにあるが、何をしても千代田の攻撃が長門に通じる道理が無い。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

あるいは、甲標的を使えば可能性もあるかもしれない。 だが、今日の千代田の装備に魚雷管は無いのだ。腰の後ろとふとももに見慣れない装備が２点あるが、形状として長門に有効な武装にはおおよそ思えない。 海中からの攻撃でもなければ、千代田が長門にダメージを与える事はできないだろう。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu 千代田は…弱いからな。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

日向はそう見ていた。 機動力、攻撃力、命中精度、回避性能、耐久力、どれを取っても並、でしかない。突出した能力が何も無い。当然持ち前の能力を活かした特技も業も無い。 何よりも、本人の性格と根性が、そもそもとして強敵に挑む気概に欠けている。 日向の分析は、全て的を得ていた。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

「…否定しないわ。あの子は弱い」 運動性能で龍田、演算能力で常盤、潜在能力で伊吹、戦闘技術で天龍、火力と機転で夕張と、勝ち目の無い筈の勝利を、それぞれが自らの能力を十二分に駆使して掴んできた支援艦隊の面々ではあるが、千代田には何も無いのだ。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

唯一挙げるとするのならば、扱える武器の種類だが、甲標的が無い以上現状では意味を為さない。 先も記したが、観客の中には長門の圧勝で終わると踏んでいるのが殆どだ。 長門と千代田を知っている艦娘では、そう思っているのはほぼ全員と言える。 それ程までに長門は強く、千代田は弱い。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

が。 全員ではない。 千歳を含め、ある条件を満たした者が何人かは、千代田の抱えている可能性を見ていた。低い。確率としては非常に低い。それでも逆転の目があると、かつて『千代田に負けた事のある』何人かは感じていた。 実戦の話ではない。それは、単なる遊戯による勝敗。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

「千代田は、１つだけ、この鎮守府で誰よりも強いものがあるの」 千歳の言葉に、日向が意外そうに片眉を上げる。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu ほう？　興味深いな。教えてくれ。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

「『将棋』よ」 本人は特技だとすら思っていない、千代田の持つ唯一の最強。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu そうか。 意外ではあるが…それが何だと云うんだ？

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

まさか基盤と駒を並べて長門に挑むわけではあるまい。 将棋が強いからと言って、だからなんだとしか日向は思わなかった。 日向も将棋は指せる。そこそこに強い自信もある。 戦闘に直結で通じるものがあるとも感じてはいる。 が、歩１枚では玉を詰む事はできない。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu 今まで仲間の５人を操って有利な状況を作っていたと？ 仲間に指示を出している様すら見覚えは無いが。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

言ってから、日向は幾つかの光景を思い出す。 瑞鶴の艦載機を１機の航空機だけでまとめて落とした時を。 敵を誘導し、同士討ちさせた瞬間を。 結果的に伊吹を連れ夕張を救い、常盤の居る位置にまで敵の４人を誘い込んだ状況を。 たまたまだと半分以上に思っていたが。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

「あの子は人を駒には見立てないわ。同士討ちさせたのだって、私には意外だったもの」 千代田は仲間を駒に考える程、将棋を崇拝してはいないし仲間を軽んじてはいない。仮に指示する立場にあっても、仲間と戦場を将棋にはリンクさせる事はないだろう。 だからこそ、と千歳は思う。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

日向は半信半疑でしかない。それも仕方ないと千歳は思う。 千歳は全てを話してはいない。 千代田が強いのは将棋のみならず、チェスやオセロ等の『戦略』が生じるボードゲームの類全般である。対人関係や普段の行動では何故かあまり発揮されないが、千代田は先を見る事に優れている。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

１度だけ千代田に聞いた事がある。 あれは飛車落としで加賀に圧勝した直後だったろうか。 「どれくらい先まで考えてるの？」と。 千代田が首を傾げる。「別に考えてないよ」と。加賀が視線を険しくした。 「選んでるだけ」千代田は続ける。 「千通りくらいからベストの手を」と。

日向 @ike_hyuuga

@titosedesu …始まるみたいだぞ。

第十五支援艦隊　千歳 @titosedesu

瑞雲で千代田と長門を観る日向の言葉に、千歳は回想を取り止める。 答えは間もなく見えるだろう。結果はいずれ必ず訪れる。 千代田は本気を出しても覚醒しても長門には勝てない。 もう頼れる仲間は周囲にいない。有効な武器も無い。 その状況で、妹は何を為すのか。 千歳は静かに祈る。