怪傑教師列伝ダンゲロス

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「ありがとうございます、スズキ先生」黒川校長が感に堪えない様子で言った。「いじめられっ子を助けようとするだけでなく、時にはいじめる子の方を助けなければいけない時もある。とても大切な話だったと思います」「僕が『逆さま』に注目したのも、あながち的外れではなかったんだな」とド正義。75

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「スズキ先生、お疲れさま」職員室から戻る途中のスズキ先生に追いついた田沢先生が、「はいこれ。リフレッシュしてね」と何やら酸っぱいドリンクを手渡した。「いつもありがとうございます。田沢先生」「これで、イジメ問題が全部解決するといいんだけど……ま、そう簡単にはいかないよね」77

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「そうですね、僕もあの時は雁木に教えられただけでしたし」酸っぱいドリンクを飲みながらスズキ先生が呟く。「教師は生徒に教えるのが仕事ですが、同じだけ、僕たちも生徒から教えられてると思うんです」「そうね、教えて、教えられて、お互いに失敗しながら成長していけばいいんじゃないかしら」78

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「スズキ先生ー先に部室行ってるよー！」「早く来てねー」窓の外から演劇部の女子たちが笑顔で言って小走りに部室の方へと駆けていく。スズキ先生もにっこりと笑って手を振った。「辛いことも多い仕事だけれど、でも、あいつらからいつも笑顔を分けて貰ってるんです」79

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「素敵ね、そういうのって」「ええ、あの一件以来、みんなも雁木から笑顔を分けてもらったみたいで、部室から笑顔が絶えたことはありませんよ」そう言ってスズキ先生は田沢先生にぺこりと頭を下げて行ってしまった。これから部活指導を行うのだろう。その背中を田沢先生はにっこり笑って見送った。80

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数分後、体育館脇にある演劇部部室に着いたスズキ先生が、「みんなお待たせー」扉を開くと、中からムッとする饐えた臭いが襲ってきて、その強烈な臭いに頭をクラリとさせながら、スズキ先生は半笑いを浮かべて部室内へ歩を進める。薄暗い部室の中では女子部員たちがまなこをとろんと濁らせていた。81

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その中央で部長の雁木マリが股間に女子部員のゲロを受けながら、スズキ先生に向けて震える腕を差し伸ばした。「あべえれべべべべべ、あべべべばあれべべべ、あれれべべえべべべあべべべべ、うわあべべべらあべべべばあばべべべ、あららべべばああああべええあべべあっべべ、らべえああばべあばべ」82

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雁木マリから受け取ったのは使用済みの注射器と何らかの粉末を包んだ薬包だ。薬包には「笑顔」とラベリングされている。スズキ先生は逸る気持ちで注射器に溶かした粉末剤を注ぎ込むとおもむろに上腕に突き刺した。「あらばばべべばばばば、あれれればべべばばあおべべべ、あばばべべああばあばば」83

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「あらばばべばばべば、うばばええばあば、ぶ、ぶ、ぶちょっおおお、わた、わたしにも、花畑ッ！　花畑見えた、見えたああべべあばべばばべ、あべばべあばべべ！！」そう叫ぶ部員の股間に向けて別の女子部員がゲロを吐く。スズキ先生もウェルカムゲロを頭から被って「あべべばえばべあべ、あべば」84

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

そのまま女子高生のゲロまみれの床の上をゴロゴロと転げまわりながら、落ちていた注射器を二本拾ってまとめて左腕に突き刺す。「うわああべえべばああらべべぺ、あべべあたあべあららべえべえ」「あべばらればべべべ、あらべべばあべべ」「あばあべえばあえべべ、あべべべばああららべべべ」85

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

あの事件以来、希望崎学園演劇部から笑顔が絶えたことはなかった。雁木マリから「笑顔」を分け与えられた彼女たちは、イジメも嫉妬もない、花畑に満ちた素晴らしい世界へと旅立ってしまったのだ。スズキ先生と共に……。86

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

希望崎学園教職員を悩ませていたイジメ問題の一つは、こうして確かに解決した。しかし、もっと大きな問題が密かにこの学園を蝕み始めていたことをまだ彼らは知らない。<終>