『当たって砕けて不連年』#10~13

天界ボラヴル( @vorrrrrrrra_e )に載せている『当たって砕けて不連年』のバックナンバーをまとめました。
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「ん?」 と、地口は胸ポケットからルーズリーフに書いた手紙を差し出してきた。 そこで予鈴が鳴ってしまったので、じゃあねと名残惜しそうに地口は去っていった。 俺は一度さっと読んだら内容をすべて細大漏らさず暗記できるのでそうする必要はないのだが、もらった手紙を眺めるように目を通す。⑫

2014-05-09 04:25:50
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「頼まれてた若きダンプのレーダーの報告です。 まず彼は煙草を吸いません。今更って感じだけれど、これで嗜好品に薬物を仕込んでいる説は否定されたね。 次に彼の事故時の心境を読んでみると、幽体離脱したみたいに遠くから自分の行動を眺めている状態だったようだ。君もこんな感じだったのかな?⑬

2014-05-09 04:29:45
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

とても気味悪いけど地口的に脳を支配する脳力、あまりに見境なさすぎる。こんな脳力がまかり通れば世界は簡単に壊れてしまう。そんな力を神様が僕達なんかにあげないと思うんだ。だから黒幕さんがどうやって脳を支配するか調べる必要があるかもね。君にはわかる?」 ここまでは想定内の内容だった。⑭

2014-05-09 04:35:17
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

確かに脳を支配するという至極チートな脳力がまかり通るのはおかしい気がする。 現に地口のチート臭い読心の脳力は制御が効かず常に膨大な情報量を脳にたたき込まれる。少し集中すれば、必要な情報のみを脳内で処理することができるが、それを行うと、猛烈な疲れが地口の痩躯を軋ませるのだ。⑮

2014-05-09 04:40:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ここまでの負荷がないにしても脳力の発動条件か何かあるはずだ。その発動条件は若きダンプにも、 明治さんにも、 そして俺にも共通するもの。 もしかして俺は既にどこかで黒幕と接触していてそのとき何か仕込まれたのかもしれない。しかしここ二日間ずっと一緒にいる地口にはその様子はない。 ⑯

2014-05-09 04:42:43
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

だとすればそれ以前に、という話になるのだろうが、そのときの俺は普通のそこらにいるような一般的な高校生。車系統のものを運転することはできないし、黒幕に狙われる理由もない。そこまで考えて、続きの文章をすっかり忘れていることに気づいた。 その文章を目にした瞬間、驚愕に目を開いた。⑰

2014-05-09 04:45:33
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「それから授業中横様くんの机が水浸しにされてました。クラス中で協力して丁寧に拭き取ったし横様くんが机に物入れてなかったので荷物とかは多分無事。みんな怒ってた。絶対に許せねえって一丸になってて感動したし、少し羨ましい。地口も手伝おう、と思って横様くんの荷物をどけた。そのときにね。⑱

2014-05-09 04:50:40
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

横様くんの荷物が見てたんだ、犯人。物に記憶があるとは思えないし場に残された犯人の意志?を読み取ったのかな。よくわかんね。そしたらね、 カザミドリが、横様くんの机にバケツで水をかぶせてる様子が聞こえてきた」 この部分だけ強い筆圧の地口の汚い字を、俺は穴が空くくらいに凝視した。⑲

2014-05-09 04:55:34
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 #11-1

2014-05-11 21:15:05
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

風見鶏秀、カザミドリヒイデという地口級の問題児が俺のクラスにはいる。いや地口は意思の疎通ができるのでまだマシだろう。気持ち悪く慣れ慣れしく、押しても倒れない地口寸志でも、話が通じるので今では恐ろしくも近づき難くもない。 しかし風見鶏秀の場合は正直何を考えてるのかわからない。①

2014-05-11 21:25:39
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ヤツは、ちょっと危ない中二病患者なのだ。 「何で風見鶏がわざわざ俺の机に水をかけるんだ…?」 俺は地口以外にはあまり嫌がらせをしないので知らないうちに風見鶏の恨みを買った心当たりすらない。俺の机が濡れたところで俺一人が困るだけだ。俺には風見鶏が水をかける理由が想像できなかった。②

2014-05-11 21:35:30
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「そ・れ・な!」 昼休みになり持て余したのか地口が保健室に購買で買ったらしいメロンパンをもさもさ貪りながらやってきた。どうやらパン食うのが下手みたいで大量のクッキー生地を口の周りにつけていた。生クリーム入りのメロンパンらしく、クリームも付いていた。 清廉なる保健室で汚いヤツだ。③

2014-05-11 21:39:41
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

どうやら地口も風見鶏は苦手なようで、横様くんの机濡らすなんてひどいだの、きっといつもの癇癪に違いないだの、風見鶏への愚痴をこぼしていた。地口が人の悪口言うという珍しい光景を眺めてると地口は自分が熱中していたことに気づいたらしく残りのパンを一気に飲み込み「横様くん」と向き直った。④

2014-05-11 21:47:50
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「具合どんな感じ?まだ悪いなら地口も一緒に帰るけど」 すぐこの調子だ。 愚痴をこぼす地口というのをもう少し見てたかったような気がする、と考えつつ、俺は地口への返答を渋ってみる。 すると案の定地口は不安げに首を傾げた。ここ二日で地口の行動パターンが読めるようになってきた。 「あ」⑤

2014-05-11 21:55:31
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「…どうしたの?」 行動パターン。 いつも何かの条件、何がしかの状況下で起こす行動を決める法則めいたもの。 または癖。心向きとも言うのか。 俺は先ほどの地口の愚痴に違和感を覚える。 ふと地口を見ると、考え込んだ俺の読心に集中しようと、黒瞳を大きく見開いて、こちらを凝視していた。⑥

2014-05-11 22:01:07
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「…吸い込まれそうな目してるよな地口って」 「どうもさん」 「ところでさっきお前、風見鶏がいつもの癇癪起こしたに違いないって言ってたけど、もしかしたらその癇癪とは違うんじゃないか?…少し、脳内整理に付き合ってもらえないかな。お前に聞いてみたいこともあるし」 「ん、いいよ」⑦

2014-05-11 22:05:47
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「サンキュ。地口、お前はいつも風見鶏が癇癪を起こすのがどのタイミングかわかるか?あるいは風見鶏がどんな気持ちになったとき癇癪を起こすんだ?」 「誰かに話しかけられて、うっひょう待ってました!って快哉を叫んだときだ」 ・・・・・・・・・・・・・・・。 そうなんだ・・・・・・・。⑧

2014-05-11 22:08:22
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

風見鶏の癇癪の代表例といえば、文化祭のクラスTシャツのサイズを実行委員の生徒が風見鶏に尋ねるために、ねえねえ、と彼の右肩をとんとんと軽く叩いた際、突然ナイフを取り出して暴れ回ったことがある。この一件以降、風見鶏に触れること能わずの格言がクラス一同の間での沈黙の掟となったほどだ。⑨

2014-05-11 22:16:17
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そんな厄介極まりないヤツの癇癪が、まさかの構ってちゃんアピールだった。どんだけ感情表現下手だよ。 「横様くんも人のこと言えないでしょ」 「続けよう。そんな構ってちゃんがどうして誰もいないときに最悪俺以外誰も反応を示さない俺の机にバケツでわざわざ水運んで机を濡らしたんだろうな?」⑩

2014-05-11 22:22:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「確かにバケツで水運ぶって重労働だし教室移動してたから教室には誰もいなかった。横様くんが何か風見鶏に嫌がらせしたとか」 「疑ってんのかよ」 「まさか。地口の横様くんはそんなことしないって信じてるよ」 「いつからお前の俺に…。まあそんな訳だ。いつもの癇癪じゃないとすると…何だ?」⑪

2014-05-11 22:28:32
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

不意に腹の虫がぐるぐると鳴いた。 俺だ。 「いる?」 と、地口は購買で買った焼きそばパンやらおにぎりやらパプリカの皮で風味を出しているから揚げなどが入ったビニル袋を出してきた。 俺は現在自宅がキャリアカーなのでいつも母親に作ってもらっている弁当を持ってくることができなかった。⑫

2014-05-11 22:30:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そういえば携帯もないので母親と連絡が取れていない。 今日辺り電話しとこう。 そんなこんなで。 ここは、地口の厚意に甘えよう。 「ああ、恩に着る」 「重くない?」 「大丈夫だよ。お前俺の心配ばっかだな」 「そうかな」 「ああ」 「鬱陶しい?」 地口は光の無い黒瞳を俺に向けてきた。⑬

2014-05-11 22:32:46
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

地口お決まりの読心の眼差し。 俺は地口に微笑んだ。 「まさか、有難いよ」 「……そう?」 「ああ」 「ほんとに?」 「しつこいな、彼女かお前は」 地口の背中をぽんぽん叩いた。 すると地口は何か決意したような覚悟したような、強い眼光を黒瞳に湛えていた。嫌な予感しかしなかった。⑭

2014-05-11 22:35:06
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「…そのご飯持って帰れよ、横様くん」 「何企んでやがる」 「君のことだからどうせ地口の家までの道もう把握してるだろーし午後も出る気ないでしょ?」 「まあ、サボれるならサボりてーな。気分じゃないし」 「じゃあ荷物持ってくる」 「待て返事になってない」 「先に帰って」 「おい地口」⑮

2014-05-11 22:37:54
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「帰れ」 地口は保健室から出て行った。 もしや機嫌を損ねたか?いや、あれだけ感情を隠し通す地口だ。ムカついても先ほどのように当人のいない場所で愚痴ったり、愚痴らなかったりするだろう。 なら。 この地口の頑なな態度は、一体何だ? 俺は初めて地口の脳力が欲しいと感じた瞬間だった。⑯

2014-05-11 22:41:10
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