当たって砕けて不連年』#5~9

天界ボラヴルに載せている『当たって砕けて不連年』のバックナンバーをまとめました。
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天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 #5-1

2014-04-22 17:53:06
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

目を覚ますと、白い天井が広がった。 明度一〇の白は存在しないというが、この天井の白さは俺の精神を不安定にさせた。 あれから、どうなったのだろうか。 友達は無事なのだろうか。 俺だけが助かったのだとしたら絶対、俺の代わりに亡くなった友達や明治さんを悔やみながら飛び降り自殺しよう。①

2014-04-22 17:56:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

DiveとDieは発音よく言うとどっちも「ダァイ」だから自殺は飛び降りるべきだろうなんてくだらないことを考えられる程度には現実に戻ってきたようだ。 ここどこだろう。 「病院だよ」 と、真上から声が降ってきた。曇天が話しかけてきたような、帰宅を促すような、そんな響きをもった声だ。②

2014-04-22 17:59:04
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

病院? なんで病院? 「君は沈んだ明治さんとやらの車から脱出して港に漂着したんだ。友達の腕をしっかり握って気絶してた」 そうだっけ… 「しっかしダイブとダイを発音よくダァイと言えば一緒だとか、君って本当しょうもないことを考えるね。君は美術さんじゃなく噺家にでもなるべきだ」 あ?③

2014-04-22 18:01:53
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

おい、待てよ。 その気持ち悪い物言いまさかお前…。 「どもー地口寸志で」 「お前かあ!」 思わず飛び起きた。こんなに素早く上体を起こしたのは生まれて初めてである。 それを見た地口は、人差し指を自分の口にとんと当てた。 「あ」 周囲の患者らしき人が怪訝そうにこちらを睥睨していた。④

2014-04-22 18:03:49
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

病室で絶叫しちゃった。俺は居住まいを正し、地口に向き直る。 「…なんでお前がここに?」 「通報してあげたのにそんな言い草はないでしょ。ま、恩を売ったつもりはないから君にこんなこと言うのは正しくないな。はい、今「ない」って何回言った?」 「5回だ」 「ん?出題含め4回じゃない?」⑤

2014-04-22 18:07:41
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「そんな言い草、の部分。そん「ない」いぐさ含めて5回だ」 「わ、さすが横様くん」 「だから何だその呼び方」 「葉の枚数を一瞬で把握し、今の様にばらけた共通の単語をすべて集められる。そして今回の脱出劇における君の記憶力、総合的に見て地口的には十分異常だと思うんだけど」 「はあ?」⑥

2014-04-22 18:10:25
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

つーかこいつさりげなく地口的には、って言ったぞ。どこのチャラ男だよ。 「人間は忘れる生き物だ。発想したことでも大昔の記憶でも、誰かにねえねえと声をかけられた程度で忘却の彼方に消える。だから小六の記憶のすべてを鮮明に残しているというのは、ま、つまりそういうことなんだよ、横様くん」⑦

2014-04-22 18:12:52
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「どういう…っていうかちょっ待て」 俺はその時初めて違和感に気づいた。 どうして地口は、俺がどんな目に遭っているのか、ちゃんと知ってるんだ。 しかもその状況で俺が何を考え、どんな行動を取ったかまで細大漏らさずに、ちゃんと知ってるんだろう。 こいつが予言した交通事故だってそうだ。⑧

2014-04-22 18:16:32
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

全国ネットでは取り上げられてなかったし、地域の新聞で隈無く探してやっと見つかるくらいで、知るにはかなりの労力を要する。 もし、予言が当たる外れる関係なく、当たる前提で考えてたとしても、被害の状況まで誤ることなく推測することなんて果たしてできるのだろうか。 恐らく、無理だろう。 ⑨

2014-04-22 18:20:57
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

全滅か、三人生存か、一人死ぬか、二人死ぬかは想像できても誰が死に誰が生存したかを当てるのは無理だ。だが地口はランドセルの男子とリュックの女子を助けたと言った。ランドセルの女子を救えなかったのを知ってた。そして俺に感謝すらした。俺が地口の予言を信頼して駅に行ったとは限らないのに。⑩

2014-04-22 18:26:51
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

それから今回。俺は一切明治さんのことを話してないのにさっき地口は明治さんの名を呼んだ。つーかそもそも友達と晩飯を食うのを話してないし急な誘いだったから事前に話すことは無理だ。話す理由もない。ましてあの時車はどこへ着くか誰も把握できなかったのに、落ちた地点で救急に通報したという。⑪

2014-04-22 18:33:14
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

そしてついさっき、俺は言葉を発しなかった。 ただのモノローグだ。しかし地口は俺のモノローグとしっかり会話していた。 つーか今もだ。 今は一切言葉を発してないのに俺の顔を見て地口はうんうんと頷いている。というか、「そうだね」とか「というと」とか合いの手を入れる余裕すら見せている。⑫

2014-04-22 18:35:20
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

どうしよ。 悪口でも言ってやろうか。 「泣くからやめてください」 「お前でも泣くのか」 「うん」 と感じなそうな表情で頷いた。 ますます底の見えない地口の黒瞳に挙動不審になっているようだ。地口とまともに会話なんかしてしまえば、コイツのペースになってしまうのに・・・・・・・・・。⑬

2014-04-22 18:38:09
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

・・・・・・・。 地口のペースに巻き込まれるから…なんだ? ところで俺は何故頑なに地口を拒んでいるんだったか。 いつも思ってることだから忘れない。 気持ち悪いからだ。 俺は地口が心の底から気持ち悪い。 では何故? 何で俺は地口が気持ち悪い? その感情に理由がないはずがないのだ。⑭

2014-04-22 18:41:11
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

どこかに原因があるはずだ。 そう、たとえば。 同族嫌悪。 「それで正しいと思うよ」 「………………」 「調べたらすぐ出てきた。君が持つ秀でた能力…もとい脳力のこと、多分理解したつもりだ」 わかった風な口を聞き、一呼吸おいて真摯に切り出した。 「君には、瞬間記憶能力があるんだね」⑮

2014-04-22 18:44:34
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

瞬間記憶能力。 あまり今まで言われることがなかったので一瞬言葉を飲み込むことができず俺は「ああ」、とだけ気まずそうに返した。 「どんなゴミ記憶でも君は一瞬で記憶する。教科書を一瞬で暗記できて羨ましい限りなんだけど、どう?君はこの脳力があってよかった?」 「便利なときは、便利だ」⑯

2014-04-22 18:46:45
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「けど人と違う脳味噌を持つ君はかつて言われた悪口やかつてされた嫌なこと、または自分が犯した重大なミスを忘れることができない。それを相手が忘れてるのが許せないとかずっと過ちを責めてるとかそんな風に過ごしてたんでしょ?それが積み重なり、周りに正体を知られないよう生きるようになった」⑰

2014-04-22 18:53:19
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「なんで、知った風なこと」 「でもそれはとんでもなく寂しいことだって君はわかっちゃったんだ。だから───君はこの脳力をまるでない風に振る舞い、多少気になることがあっても、我慢するようになった?」 「・・・・・・」 「我慢しなくても、いいのに」 言って、兄のように優しく微笑んだ。⑱

2014-04-22 18:55:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

さっき地口は、同属嫌悪は正しいと言った。 だとしたらコイツも、地口寸志も、 俺と同じなのかもしれない。 さすがに瞬間記憶脳力を持っている訳じゃなさそうだが多分、同じことで悩んだんだろう。 コイツだってきっと同じなんだ。 「お前は、アレだな」 「?」 「心でも読めているみたいだ」⑲

2014-04-22 18:58:06
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

『当たって砕けて不連年』 #5-2

2014-04-23 14:32:05
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「お前は、アレだな・・・・」 これは俺の直感で、確信だった。 「心でも、読めているみたいだ」 こいつには、心を読む力でもあるのかもしれない。だから、確信を突いているつもりで言ったのだが、にんまりと微笑むだけで、地口は何も言わなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・・んふふ?」①

2014-04-23 14:34:03
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「きもっ」 「とにかくだ、君は君を我慢する必要ないよ」 地口は足下の鞄から水玉のかわいらしい筆箱を取り出しくるくると回しながら俺に見せた。 「これ、何個?」 「67個だ」 「うわ、すごーい、なんでわかるのっ」 「殺すぞ」 「・・・・って、皆は反応してくれんじゃないの?って話さ」②

2014-04-23 14:36:38
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

「んな子供じゃあるまいし・・・」 「満更でもないとか考えてるでしょお」 「・・・・やっぱお前、心読めてるよな」 「んー?ふふー」 キモい・・・・・。 そこではた、と気づいた。 そういえば地口とこうしてまともに話すのは初めてだ。 というかどうしてこんな俺を助けてくれたのだろうか?③

2014-04-23 14:39:06
天界ボラヴル@4月ごろ再開 @vorrrrrrrra_e

ふと疑問に思ったが、地口は思うだけでわかってくれることを知れたのでじっと見つめて今の答えを待ってみた。しかし地口は俺に漫画に出てくるようなかわいいヒロインみたいに首をちょん、と傾げて微笑んだ。 殴った。 「痛い」 「ごめんきもちわるくてつい」 「ひらがな・・・」 「で、何で?」④

2014-04-23 14:41:15
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