【例の提督が鎮守府に着任しました】#2

例のアレ。主役が喋らない病。
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里村邦彦 @SaTMRa

「うちの艦隊も、少なくともトラックでは古参の部類で、そう弱くはないわ。艦娘は少ないけど」酒の入った陽気な笑い声。壁ビニールの隙間からちらと視線に入る、路地を歩いてくる長身は大型艦の艦娘だ。「人いない間、漣ちょう頑張ってましたよ。マジ頑張りましたよ」「はい、わかってる、わかってる」

2014-05-31 21:44:45
里村邦彦 @SaTMRa

大井はビールを飲み干した。一杯注いで、千歳を見る。「……戦果を期待されていない艦隊、というのが、気に入らないんです」実験。試作。限られた数だけの。ろくでもない言葉だ。どうせうまくゆくわけがない。失敗して、見捨てられて。何もできないままに。難しい戦況の中で。「そこが問題?」

2014-05-31 21:47:11
里村邦彦 @SaTMRa

「そこ以上の問題がどこにあるんですか。ここは……こんなでも最前線ですよ」「まあ、なんとかなるとはおもいま……大井さん大丈夫ですか。顔真っ赤ですよお」「大丈夫ですとも。もちろん」大井はビールを干した。ただで話せるような気分ではなかった。「戦果を上げられないまま忘れられるなんて、嫌」

2014-05-31 21:49:17
里村邦彦 @SaTMRa

おそらくはそういうことを言っていたのだろうという記憶がある。千歳がぐっと言葉少なになって聞いては、折を見てビールを注ぎ、もちろん大井にも注がれ、たまには例を言い、勢いに任せて同じことを表現が変わったり変わらずにループしてはしゃべり、大いに飲んだことまでは、朧気に覚えている。

2014-05-31 21:50:50
里村邦彦 @SaTMRa

翌朝、簡易寝台で苦痛に呻きながら目を覚まし、至近距離にいた目覚まし提督の一つ目ごと部屋を吹き飛ばさなかったのは、さすがに艤装を外していたからだ。「千歳さんに正面から行くとかパネェですよ大井さん!」「やめて。頭に響くから」なお、大井がこの頭痛を制圧するためには、中和剤二本を要した。

2014-05-31 21:55:11