- hachisu716
- 4538
- 6
- 0
- 0
どうやら早苗さんから経緯や雨雲の様子を聞く限り、雨は早苗さんの家に宿っているようです。 雨が宿る原因を探すあやさな。 雨は雨の匂いのするところに宿るといいますよ、と教えてくれる文さん。 ? 雨が降るから雨の匂いがするんじゃないですか?
2015-05-08 21:26:12雨の匂いがするというなら、もうそこは雨が降っているんじゃ。 雨の匂いというか、雨に似た匂いというか。湿った木板の臭いとか、じめじめした土黴の臭いとか、雨っぽい匂いというか、雨がもたらすのと近い匂いってあるでしょう? そういうものを好むそうですよ。
2015-05-08 21:30:02雨宿りが好んで宿りそうな場所を探すあやさな。もうよく分からないし色々探してるとあらこんなところにこんなひどい汚れがとか、雨宿りが宿るかどうかじゃなく次から次に気になる掃除ポイントが出てきて、ついでに年の瀬でもないのに諏訪神社大掃除を始める早苗さん付き合わされる文さん。
2015-05-08 21:32:28掃除してる内にだんだん雨も小糠雨、霧雨へと変わってきて、雨宿りがだんだん離れていってるのを実感するあやさな。 ふたりで無心になって隅々まで大掃除をしおわった頃に、ようやく久々の晴れ間が覗く空。 どうやら行ったようですね。とつぶやく文さん。
2015-05-08 21:35:46宿ってる部分を掃除していったからちょっとずつ止んでいったんですかね、と話す早苗さん。 いや……本来はひとつのものに宿るはずなんですが。と考え込む文さん。 じゃあ元から雨宿りでもなんでもなくて、単純に時間が経過していく中で自然に止んだのでは?
2015-05-08 21:38:42だとしたら骨折りですねー、と口では言いながらも、すっかり掃除しきって気分がいいのか清々しい顔をしている早苗さん。 いや……、自然の雨とは違いました。確かに雨宿りだった。そこは齢幾千年の天狗の目を信用してください。 ふうーむ、と考え込む文さん。
2015-05-08 21:41:57雨宿りがひとつのものに宿っていたとして。少しずつ離れていった、ということは、宿っていたものが少しずつ変化していったことになる。 ということは、毎日掃除していたものがそれだ。 私たちはここ数日、何部屋かに分けて掃除していたから、毎日触れるものなどなかった筈だけど。
2015-05-08 21:54:55毎日触れていたもの。毎日掃除して、綺麗になっていったもの。 毎日触れていたもの……雑巾? いやいや掃除するほど汚くなるでしょう。それに湿った雑巾は逆に雨宿りを呼びかねないものですから。 はてはて。 首をかしげる文さん。
2015-05-08 21:57:51晴れた空を見上げながら、清々しい笑顔になっている早苗さん。 文「ご機嫌ですね、早苗さん」 早苗「掃除って、がっつりやって綺麗になると、なんかアガりません? テンション」 てんしょん、が、あがる、とは? 聞き慣れない言葉に首をかしげる文さん。
2015-05-08 22:01:36そんなご機嫌な早苗さんを見ながら、はたと気付く文さん。 ああ、ひょっとすると。雨宿りは人にも宿るのか。 掃除をしていく内に綺麗になっていったのは早苗の心だったのではないだろうか。 雨宿りは早苗から雨の匂いを嗅ぎ分けその身に宿ったのか。
2015-05-08 22:06:01あまり聞いたことの無い話ではあるけれど、この子の場合、人であって神でもあるのだから「普通」の物差しでははかれないのかもしれない。なんたって、「奇跡の」現人神なのだ。 それなら、あなたの心から、雨の匂いは消えたのですか? 早苗さんを見ながらそっとつぶやく文さん。
2015-05-08 22:10:52そんな文の視線に気付いたのか、振り返ってにっこりと微笑む早苗さん。 早苗「ねえ、文さん知ってますか? 雨宿りってけっこう可愛い子なんですよ」 文「何を云ってるんでしょうこの人……アガったてんしょんで頭も天麩羅みたいにアガっておかしくなったのでしょうか、記者は衝撃を受けたという」
2015-05-08 22:16:02早苗「思っても実況しないで下さい、記事にしないで下さい……」 ジト目で見る早苗。それでも気を悪くした風でもなく、身ぶりで説明する早苗さん。 早苗「雨宿りってね、こーんな、ころころ太った仔犬みたいな女の子なんです。」
2015-05-08 22:18:26早苗「多分、友達とうっかりケンカしちゃったとか、ちょっといいなって思ってた人に自分なんかよりずっと仲のいい人がいたとか、ちょっとした人間関係がうまくいかなくて、それでえらく落ち込んじゃったような。そんな感じだと思うんです」 文「そんな感じですか」 早苗「まあ、妄想ですけど」
2015-05-08 22:25:01そんな雲だったんですよねえ。ずっとやることなくて雲を見続けていた私からすると。 そんなことを呟く早苗。 文「暇ですねえ」 早苗「暇だったんですよお。文さんも来てくれないし」 口を尖らせる早苗さん。 文「あや、それはすみませんでしたね。ちょっと取材で家を空けていたもので」
2015-05-08 22:28:25はあーっと大きな溜め息をつく早苗さん。 早苗「まったく。こんな雨降りの日に、恋人をずーっと放置しておく……なんて、そんなことするから私が暇にあかして雲名人になるんですよ」 腕組みしてうんうんとうなずく早苗さんのしぐさに、 文「いやはや面目がないことで」
2015-05-08 22:33:44そんなこんなで文さんがいなくてさびしい早苗さんは雨が降りだしたとき、弱い霧雨から別のほうの霧雨さんを無意識に連想していたようで、今も払いきれない雨雲のような昔の恋に更に寂しくなって雨宿りも宿っちゃってなんちゃらかんちゃらした。 でも文さんと一緒にいる内に雨は晴れたわけですね。
2015-05-08 22:39:54早苗さんの雲の女の子の話を聞いてるうちに、あそこにあったあのむっくりした雲、と指差されたところにあったその雲は、そんなに目立つ姿容をしていただろうか、と違和感を感じる文。 空を飛びなれて、雲を見慣れている自分から見る限り、どこも同じ雨雲だった。目立てば気付くはずだ
2015-05-08 22:45:44雨宿りは雨の匂いがするものに宿る。自分に似たものを自分の一部に取り込む。 だとしたら、早苗に見えているイメージは、早苗自身に近いのではないだろうか。 ーーころころした仔犬みたいな女の子……。 文が、ふっと口唇に指をあてる。背中を丸め、それを覆うように羽根をふくらませ、
2015-05-08 22:53:26やがて抑えきれずにくつくつと笑う。 早苗「あっ、何笑ってるんですか。やらしー。思い出し笑いなんて、文さんえっちなんだ」 なんとなく笑われてるのを悟って、そんな風にやり返す早苗さん。 文「ええ、もう……まさに思い出しているところで」
2015-05-08 22:55:55ころころした仔犬の女の子。 傷付きやすくて、繊細で、友達とのケンカや、想い人の隣に自分がいられないことに、そっと胸を痛める女の子。 のほほんとして、いつもは笑っていて、だけどふとした悲しみに、悲しみかたが分からなくて、自分でも戸惑って、止めかたも分からなくて、
2015-05-08 22:58:29いつまでも自分の中の悲しみに戸惑いながら泣き続けてしまうような女の子。 それが雨宿りの核であり、それに通じる、早苗の柔らかいところの核なのだ。 ああ。 ああ、なんて。 それは切なくて。 いとおしい。
2015-05-08 23:02:06文「……淋しくさせてしまったお詫びに、今日はとびきり、サービスさせていただきましょうか」 そっと細い腰を引き寄せて、雛を抱き込む親鳥のように、早苗を腕に閉じ込めて囁きかける。 その中で羽ぐくもる早苗は、そっと柔らかな吐息をついて、素直に胸に面を埋める。
2015-05-08 23:09:20