(そんな男の宿願は、自分の求める最高の身体に、自分の魂を込めて刺青を彫ることであった。男はその身体を必死に探し求めた。しかし、容易に見つかるものではない。数年の後漸く見つけたその身体は、とある陰間の身体であった。初めて目にしたのは青年の脚のみ、されど男はその脚に一目惚れした。)
2014-06-15 21:55:22(男は青年を求め、手を尽くし、遂に青年を自分の家に連れ帰ることに成功した。そして青年に二本の巻物を見せた。そこに描かれていたのは、他の人間を肥しとし、美しく輝く女性の姿である。気の弱そうな青年はその絵を恐れたが、しかしその容貌は絵の女と妙に似通っていた。)
2014-06-15 22:00:43(『この絵の女はお前だ、この女の血がお前の身体に交っている筈だ』そう笑う男に青年は震える声で訴えた。『後生だから、早くその絵をしまってください』しかし青年も、自分の内に宿る本性に気付き始めていたのである。男は逃げようとする青年に麻酔剤を使った。)
2014-06-15 22:05:23(男は漸く手に入れた身体をじっくりと眺め、それから一心不乱に青年の背に刺青を施し始めた。一点一点に、男は己の魂を込めた。そうしていくつかの夜が明け、遂に青年の背に巨大な女郎蜘蛛が浮かび上がった。目覚めた青年の顔は苦痛に歪んだが、その瞳には不思議な光が宿っている。)
2014-06-15 22:10:22(青年の紫の瞳に見つめられた男は笑う。『苦しかろう、蜘蛛が抱きしめているのだから』その言葉に青年はくつりと笑い返す。『美しくなるのなら、どんなことでも辛抱してみせましょう』そうして仕上げのために湯浴みに行き、戻ってきた青年は、最早もとの青年ではなかった。)
2014-06-15 22:20:25(ゆったりと着物を纏った青年は言う。『私はもう今までのような臆病な心を、さらりと捨ててしまいました。――アンタは真っ先に俺の肥料になったんだ』男はその姿に息を呑む。『帰る前にもう一度、その刺青を見せてくれ』青年は頷くと背を向け着物を脱ぐ。背の刺青は妖しく輝いた。) ≪終演≫
2014-06-15 22:25:22