アンド・ストライク・ア・ゴング#2

ジョインジョイントキィ
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劉度 @arther456

「神戸水鳥拳、なるほど、噂以上に華麗で、獰猛な技だ……」菊月がゆっくりと腕を回し、最初に見せた構えをとった。「だが、奥義を尽くさねば私は倒せんぞ」「……よろしくてよ!」お互い、負ったダメージは深い。これが最後の交錯となろう。 23

2014-06-21 21:48:20
劉度 @arther456

「ゆくぞっ!」菊月が消えた。熊野は目に頼らない。気配だけで、背後に回り込んだ彼女を捉える。振り向いて繰り出される拳を「ッ!?」気配が再び背後に回り込んだ。フェイント!「せいっ!」「くうっ!」肩口に拳が刺さる。かろうじて打点はずらした。秘孔は突かれていない! 24

2014-06-21 21:51:57
劉度 @arther456

「覚悟ォ!」裂帛の気合が熊野を打つ。繰り出される攻撃を熊野はなんとかガードするが、その勢いは激しくじりじりとフェンス際に追い込まれる。手刀、蹴り、空中に飛び上がっての延髄斬り、高速無数の必殺拳が、彼女の防御を崩そうと襲いかかる。トドメを刺そうとする猛攻だ。 25

2014-06-21 21:55:21
劉度 @arther456

だが、熊野にはその軌道が見えていた。<小パン、小パン、小足、あ、いや中段……>実況すら追いつけない菊月の攻めを、熊野は的確に防ぐ。偶然ではない。火事場の馬鹿力でもない。さっきまで見切れなかった速さが見えている。彼女自身もこの急成長に驚いていた。一体どういうことなのか? 26

2014-06-21 21:59:05
劉度 @arther456

その理由は簡単なものだ。神戸水鳥拳は無敵。それ故、逆に『強敵と戦う経験』が絶対的に不足していた。格上の相手にいかにして立ち向かうか。動きを読むか、隙を突くか。1/60秒の隙間を見つけるために集中する。神戸水鳥拳伝承者は、まさにこの瞬間、目覚ましい成長を遂げた。 27

2014-06-21 22:02:22
劉度 @arther456

「ヒャアッ!」一瞬、ほんの一瞬であった。ジャンプ蹴りを防がれた菊月が地上に降り、連続パンチを放とうとしたコンマ1秒の隙。攻撃の隙間に吸い込まれるように、熊野の拳が繰り出された。「ぬうっ!?」鳩尾を正確に捉えた拳に菊月が数歩下がる。熊野が壁際から、離れた。 28

2014-06-21 22:05:48
劉度 @arther456

「せいっ!」菊月が飛び、頭上から熊野を蹴りつけようとする。「トォォォン!」だが熊野がアッパーを放ち、これを相殺!更に自身も跳躍!「そこっ!」未だ空中にいる菊月に飛び蹴りを放つ!「くっ!」膝で防ぐが、重い一撃。少しよろめいて着地する。後を追って降りた熊野が猛反撃を開始する。 29

2014-06-21 22:09:17
劉度 @arther456

次々と放たれる手刀を、菊月は的確に避ける。京洛神拳二千年の歴史の中で最も華麗な技を持つ少女。最弱の駆逐艦種というハンデを背負い、最強の駆逐艦と呼ばれる菊月の心は未だ折れぬ!「覚悟ォッ!」コンマ1秒の隙。攻撃の隙間に吸い込まれるように、菊月の掌底が熊野の腹に突き刺さった。 30

2014-06-21 22:12:37
劉度 @arther456

目を見開く。「バカな……っ!」攻撃を放った菊月が、である。秘孔を狙った菊月の掌底は、しかし熊野の体の内側から押し返された。彼女の青く昂った闘気が、熊野の体を覆う鎧と化していたのだ!「行きますわよっ!神戸虎破龍!」そして闘気が熊野の両手に集まり、菊月を打つ! 31

2014-06-21 22:15:56
劉度 @arther456

「くぅぅっ!」菊月の体が切り裂かれ、血が噴水のように吹き出る!「トォッ!」熊野は跳躍し、菊月の頭めがけ手刀を放つ!「むっ!」額を狙う手刀を、手首を掴んで受け止める。さっきの三連撃と同じ動きだ。とっさに膝を持ち上げ、腹をめがけた蹴りに備える。 32

2014-06-21 22:19:22
劉度 @arther456

「喰らいなさいっ!」だが、今度も熊野が一枚上手だった。手首を痛めるのも構わず、熊野は菊月の背後を取るように回転、そのまま彼女の背中に強烈なキックを叩き込んだのだ!「カハ……ッ!」「貰ったぞ!」フェンスに叩きつけられた菊月めがけ、熊野が跳ぶ!「神戸水鳥拳奥義!」 33

2014-06-21 22:22:58
劉度 @arther456

その時、会場にいた誰もが、空中に飛んだ熊野を見た。飛び立つ白鳥を思わせる、美しい姿だった。かつて彼女の父が一度だけ使った、神戸水鳥拳の真髄。見様見真似の究極奥義。「飛翔白麗ッ!」上空から振り下ろされた熊野の腕が、菊月の胸に突き刺さった。 34

2014-06-21 22:26:18
劉度 @arther456

「神戸の奥義、しかと受け止めた……」胸に刺さった熊野の腕を、菊月が強く握り締め、そして放した。細い腕から力が抜ける。「菊月。京洛神拳の真髄、見届けましたわ」熊野が菊月から離れる。力尽きた彼女の体は、それでもなおフェンスに寄りかかり、地に倒れ伏そうとしなかった。 35

2014-06-21 22:29:39
劉度 @arther456

<第二試合・決、着、完、了ーッ!京洛神拳伝承者・菊月を倒したのは、神戸水鳥拳伝承者・熊野!二千年の歴史が今、覆ったァーッ!>沸き返る歓声の中、熊野は傷だらけの体を引きずってベンチへと戻る。「熊野!」「そんなに心配なさらないで、提督。この程度、傷のうちにも入りませんわ」 36

2014-06-21 22:33:07
劉度 @arther456

しかし熊野の服はボロボロで、血がこびりついている。「木曽、担架!」「わかった!」ふと、提督が顔を上げると、菊月が相手側のベンチに担架で運び込まれていた。顔には白い布がかけられている。「熊野……あれでよかったのか?」もたれかかる少女に、提督が問う。 37

2014-06-21 22:37:38
劉度 @arther456

「ええ。お気になさらず。これで……万事問題ありませんわ」それだけ言い残して、熊野も気を失った。「担架ァー!」「持ってきたぞ!」勝者も敗者も同じ姿で、表舞台から降りていった。 38

2014-06-21 22:41:08
劉度 @arther456

【アンド・ストライク・ア・ゴング】#2おわり#3へ続く

2014-06-21 22:41:33