ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス　＃６

劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

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（これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ）

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【ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス】＃６

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（５のまとめはしばらくお待ち下さい）

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「やはり、参りましたか」水平線の向こうから、泊地水鬼が歌いながら近づいてくる。それに対して『蔵王』を守るように海面に立つのは、航空巡洋艦、熊野。間近で戦い、全身に呪歌を浴びた彼女は、誰よりも彼女の執念を知っている。あの程度の封印で大人しくしているとは思っていなかった。 1

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ピリピリと、全身が怖気立つようなプレッシャーが迫ってくる。徐々に体が重くなり、足裏が水面下へ、体が沈み始める。以前よりもずっと呪歌が強い。相手は本気だ。だが、こちらも本気だ。頭上の甲板で、ビスマルクと三隈が歌い始めた。宇宙にまで届きそうなデュエットを。 2

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ライオン/歌詞入 youtu.be/s0oDBZABdcU @YouTubeさんから

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歌のお陰でプレッシャーは和らいだ。プリンス・オブ・ウェールズに向かった主力艦隊は、敵艦から飛び降りた重巡と駆逐艦を相手にしている。他の手の空いた艦娘も南北の戦艦棲姫を相手にするか、この指揮艦の護衛についている。泊地水鬼に対処できるのは、熊野だけだ。 3

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「熊野さん！やっぱり私もお伴します！」横で叫んだのは、高波である。熊野が心配なのだろう。「平気ですわ。私のように拳法のできる子がまだいるなら、別ですけど」呪歌のせいで泊地水鬼には砲弾が当たらない。その為、熊野が単身格闘戦を挑もうとしているのだ。 4

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「それはそうですけど……でも、いくら熊野さんでも、あの深海棲艦にトドメを刺すのは無理かもです！必殺技とかあるんですか！？」「あります」「ひょわっ！？」まさかの言葉に、高周波めいた叫び声を上げる高波。「その技のためにも、今はお二方の歌を途切れさせないで下さい」 5

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「りょ、了解かもです！」高波の返事を聞いて、熊野は走り出した。泊地水鬼に向け、一直線に突撃していく。彼女に近づけば近づくほど、体が徐々に重くなっていく。「ヒョォォォ……」それに負けないように、熊野は特殊な呼吸法を用いて気を練り上げ、体を青白いオーラに包み込む。 6

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泊地水鬼が熊野に気付いた。肩の砲が熊野を狙い、砲撃！「ヒャアッ！」熊野はオーラを纏った腕で砲弾を切り払う！砲弾は二つに分離し、熊野の後方左右で爆発する。二射目が放たれる前に、熊野が泊地水鬼の懐に飛び込む！「トォォォン！」鋭い手刀で、泊地水鬼を切りつける！ 7

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泊地水鬼の首に熊野の腕が深々と食い込む。だが、泊地水鬼は笑っている。「フウッ……！？」熊野の腕を掴んだ泊地水鬼が、勢いに任せて彼女の体を投げ飛ばす！「ふんっ！」熊野は空中で態勢を立て直し、着水。ダメージはない。笑う泊地水鬼の首の傷が、ひとりでに塞がっていく。 8

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泊地水鬼は艦載機を繰り出した。百を超える爆撃機が空を覆い尽くし、熊野に向かって殺到する！「トォッ！」最初の爆撃を熊野は横っ飛びで回避！次に狙ってきた爆撃は、後方に跳躍して避ける！「私の動きは飛行機で捉えることはできなくてよ！」だが泊地水鬼は執拗に爆撃を繰り返す。 9

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熊野が避けた瞬間を狙い、泊地水鬼が背の砲を発射！「チイッ！」着水の一瞬の隙を狙われ、避けることも弾くこともできない！熊野はバリアを展開しこれを防御！「服が汚れたじゃない！」戦艦砲の衝撃は凄まじく、熊野の服があちこち破けた。だが、闘志は未だに破れていない！ 10

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泊地水鬼の隙を埋めるかのように、再び爆撃が始まる。「なるほど、少しはやるようですわね」手数の多さを敵は上手く活かしている。爆撃を避け、砲撃をいなしながら熊野は相手の隙を伺う。窮地に陥った所で、熊野が狙う技は変わらない。どうやってその状況に持っていくか、それが問題だ。 11

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キィィィン、と甲高い風切り音が上空から聞こえてきた。新手の艦載機、と見上げた熊野の顔が驚きの表情に変化する。やってきたのは泊地水鬼の爆撃機ではない。北方で戦艦棲姫たちと戦っていたジェット戦闘機、F-14だった。それも２機。「何をしているんですの！？」 12

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艦娘でさえ体に重みを感じる呪歌の中、普通の飛行機が飛べばたちまち落とされてしまうはずだ。だが黒いF-14は何らかの霊的措置を施されているのか、呪歌を振り払うように加速し、ミサイルと機銃を放つ！爆撃機の一群がそれを受け、爆散！更に追随したもう一機のF-14も攻撃を行う！ 13

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この乱入者に対し、泊地水鬼は――何もしなかった。回避も反撃もせず、空を飛ぶ黒い戦闘機を呆然と見つめていた。やがてF-14は爆撃機に追い立てられ、刃のような急旋回を見せた後離脱していく。「なるほど」その様子を見た熊野は確信した。「やはり、空に未練があるのですね」 14

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今の戦闘機のお陰で、頭上の爆撃機はかなり減った。このチャンスは逃せない。熊野は円を描くように腕を大きく回転させ、その後、両手を胸の前で合わせた。京洛天帰掌。ある暗殺拳に伝わる、命を懸けるに相応しい相手に見せる構えであった。「今、天に還る時が来たのよ」 15

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泊地水鬼も熊野から漂う覇気を感じ取ったのか、動こうとしない。歌を歌いながら、慎重に熊野の動きを見極めようとしている。「ビスマルクさん、三隈さん。もう少しだけ、あの歌を弱らせられます？」『蔵王』で歌う二人に、熊野は通信を送る。 16

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『……ごめん、これで精一杯』『凄い執念、押さえつけるのが精一杯ですわ』苦しそうな二人の声。熊野は歯噛みする。今のままでは体が重すぎて、あの技を繰り出せない。「せめてもう一人、歌を歌ってくれるお方がいれば……」その時であった。『アイドルが御入用ですね？』 17

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聞きなれない若い男の声が、通信機から聞こえてきた。提督のものではない。不思議に思って辺りを見渡すと、泊地水鬼の向こう側の水平線に、一隻の艦が姿を現した。アッドゥ環礁で泊地水鬼の封印を強化していたはずの『鳥堀』であった。「『鳥堀』！？どうしてここに！」 18

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『泊地水鬼が封印を破って逃亡したので、こちらに急行しました！……申し訳ありません。我々の力が及ばずに』「それは……まあ、後でたっぷり叱らせていただきますわ。それよりも、アイドルが御入用とは、どういう意味ですの？」『そのままの意味です。アイドルを連れてきました』 19

劉度 @arther456

「みんなー！いつもありがとー！」底抜けに元気な声が、海域中に響いた。今度は熊野も知っている声だ。いや、熊野だけではない。ビスマルクも三隈も、日本に住んでいる者なら誰でも知っている。「艦隊のアイドルゥー！那珂ちゃんだよー！よっろしくー！」 20