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ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス #6

スーパーバイオレンスマグナムボール3号~熊野、宇宙へ!~
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劉度 @arther456

『鳥堀』甲板中央には即席のステージが組まれ、一人の艦娘が投光機の光を独占していた。横須賀鎮守府第33地区所属・那珂。アイドルグループNKC48においてはCグループの22位。それでも立派なアイドルである。「今日は那珂ちゃん、心を込めて歌います!みんな、ついてきてねー!」 21

2015-06-03 21:39:34
劉度 @arther456

【艦これ】『恋の2-4-11』フルバージョンでいっくよー★【オリジナル曲】 youtu.be/C6CYhKqjSR8 @YouTubeさんから

2015-06-03 21:43:01
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劉度 @arther456

鍋を叩いたようなイントロが、『鳥堀』のスピーカーから流れ出した。「みんな!誘導灯は持ったか!」「行くぞォ!」甲板に集まった陸軍兵たちが、一糸乱れぬ動きで誘導灯を振り始める!兵士たちの応援を受け、那珂の歌にも力が籠もる!呪歌を押しのけ、海に響く! 22

2015-06-03 21:43:13
劉度 @arther456

熊野は体が軽くなるのを感じた。「艦隊のアイドルというだけはありますわねえ……」道化じみた態度から、普段は彼女を甘く見ていた熊野だったが、少し見直さざるを得なかった。一方、泊地水鬼は呆気にとられていたが、那珂の歌が自分の呪歌を押し返し始めると、慌てて肩の砲を撃った。 23

2015-06-03 21:46:27
劉度 @arther456

狙いは僅かに外れ、『鳥堀』のすぐ横に砲弾が落ちる。「こんなになっても、那珂ちゃんは絶対、路線変更しないんだから!」だが那珂は挫けない。それが彼女のアイドル道だからだ。「ッハイ!ッハイ!ッハイ!FooFoo!」「那珂ちゃあああん!ナッ、ナァーッ!」兵士も同じだ! 24

2015-06-03 21:49:52
劉度 @arther456

泊地水鬼は歯噛みし、砲に次弾を装填する。「どこを見ていますの?」その胸を、背後から熊野の手刀が貫いた。熊野はすぐに泊地水鬼を蹴り飛ばし、手を引き抜く。チャンスは今しかない。「飛べっ!」高速で懐に踏み込み、掬い上げるようなアッパーで泊地水鬼を宙に浮かせる! 25

2015-06-03 21:53:08
劉度 @arther456

大きく息を吸い込み、熊野はオーラを纏った足で海を踏みしめた。海の魔力が熊野のオーラと反発し、彼女を高く飛び上がらせる。「ウリャッ!」突き上げた手が泊地水鬼に触れた瞬間、熊野は溜め込んでいた全ての魔力を解き放った。その瞬間、彼女たちの体が爆発的エネルギーにより急上昇する! 26

2015-06-03 21:56:36
劉度 @arther456

「熊野さん!?」『蔵王』に近寄る深海棲艦を倒しながら、熊野の戦いを見守っていた高波は、急速垂直射出された熊野の姿を見て、思わず叫んでいた。凄まじい勢いで天に向かっていく姿はまるでロケットのよう、いや、ロケットそのものであった。 27

2015-06-03 22:00:03
劉度 @arther456

神戸撃星嚇舞。体内の気を右手に集め、両手の気と空気中の魔力を反発させ、空中の相手を切り上げる技である。この時熊野は、空気をも切り裂きながら飛び上がるため、空気抵抗はほぼゼロになる。そして、両足の気と空気中の魔力と反発させ、加速し続ければどうなるか。 28

2015-06-03 22:03:20
劉度 @arther456

「トォォォン!」熊野は泊地水鬼を持ち上げながら、雲を突き破った。その高度はおよそ1万m。だが、二人の加速はまだ止まらない。神戸水鳥拳に伝わる伝説の中で、空に飛び立ったまま鳥となって帰ってこなかった伝承者というものが何人かいる。その正体が、これだった。 29

2015-06-03 22:06:33
劉度 @arther456

凍えるようだった周りの空気が、不意に暖かく、いや、熱くなり始めた。高度20km、成層圏に到達したのだ。既に呼吸のできる高さではない。だが、熊野のまとう気と艤装の魔力が、まだ彼女の命を守っていた。そして泊地水鬼もまた、熊野の拳を掴んで放さない。 30

2015-06-03 22:09:59
劉度 @arther456

二人の周りの空が、水色から青へ、そして夜色へと変わっていく。成層圏を突破し、熱圏に突入していた。もうすぐ衛星軌道である。いかに艤装のバリアで身を守られているといっても、宇宙に耐えられるかは分からない。大気越しではなく直接浴びせられる太陽の光と紫外線が、二人を容赦無く焼く。 31

2015-06-03 22:13:13
劉度 @arther456

放しなさい、と叫んだ声は響かなかった。既に震わせる空気が無い。泊地水鬼も己の運命を悟ったのか、熊野を道連れにしようとしているのだ。とっさに熊野は左手で自分の右手を切り落とそうとした。だが、寸前で泊地水鬼に手首を掴まれ、阻止されてしまった。 32

2015-06-03 22:16:40
劉度 @arther456

熊野と泊地水鬼の体が、急速に凍り始めた。遂に衛星軌道、極寒の宇宙空間に突入したのだ。もはや一刻の猶予もない。最後の力を振り絞り、熊野は泊地水鬼の腕を振り解こうとする。その時だった。頭上でギラついていた太陽が翳ったのだ。ここは宇宙、光を遮る雲などない。 33

2015-06-03 22:19:59
劉度 @arther456

見上げた熊野の目に映ったのは、巨大な、あまりにも巨大な物体だった。曲線で結ばれた矢印の先端のようなフォルムは、とても彼女が知る人工衛星には見えない。鳩のように真っ白い飛行機にも見えたし、あるいは翼をはためかせて飛ぶ白い天使のようにも見えた。 34

2015-06-03 22:23:21
劉度 @arther456

不意に、熊野の両腕を掴む力が抜けた。泊地水鬼が頭上の飛行機を見つめていた。求めるように手を伸ばす。「アークバード」声は聞こえない。だが、彼女の口は確かにそう動いていた。「やっと、あなたに」「そこおっ!」泊地水鬼の顔を蹴り飛ばし、熊野は上昇から下降に移った。 35

2015-06-03 22:26:35
劉度 @arther456

高度400kmからの落下である。普通に落ちれば、いかに艤装を纏った艦娘だろうと死ぬ。だが熊野に死ぬ気は微塵もない。ここで生きて帰ってこなければ、高波に示しがつかない。背負っていた航空甲板を取り出し、サーフボードのように足の下に置く。落下する熊野を囲う大気が、赤く燃え始める。 36

2015-06-03 22:29:49
劉度 @arther456

……その一方で、泊地水鬼の体は凍り続けていた。いかに陸上型深海棲艦といえども、力の源である大地から離れては、その生命力も著しく低下する。だが彼女が弱った理由はそれだけではない。深海棲艦を深海棲艦たらしめる未練の源が、彼女のすぐ目の前にあったからだ。 37

2015-06-03 22:33:02
劉度 @arther456

白い翼。アークバード。軌道上のデブリを払う巨大軌道衛星。彼が誇りにしていた機体。彼女が遂に辿りつけなかった墓所。「マタ……アノソラニ……」事故で損傷したはずのその機体が、今は万全の姿で星空を飛んでいる。彼女がずっと望んでいた光景だった。 38

2015-06-03 22:36:15
劉度 @arther456

天の鳥は太陽の光を受け、白銀の塗装を燦然と煌めかせていた。「アア……キレイ……大きな、翼……!」彼女の目から涙が零れ落ち、星空の中に消える。芯まで凍った目から、再び涙が流れることはなかった。完全に凍りついた彼女の体は砕け散り、白い翼の周りを舞う一条の氷の帯となった。 39

2015-06-03 22:39:35
劉度 @arther456

泊地水鬼の歌が消えたことにより、戦局はいよいよ大詰めを迎えていた。プリンス・オブ・ウェールズが呪歌によって行動不能に陥っている間、艦娘たちが集中砲火を浴びせたため、各部が炎上し浸水も始まっていた。だが、要ともいうべき主砲は未だ健在である。 41

2015-06-03 22:42:56
劉度 @arther456

「砲撃、来ます!散開!」不知火の掛け声で、艦娘たちはその場から離れる。数秒後、砲撃が巨大な水柱を上げた。「人のサイズで見ると、とんでもないわね、これ……」飛沫を被った五十鈴は肝を冷やす。砲弾で撃たれた記憶は艦霊が持っていても、艦娘として間近で見るのはこれが初めてだった。 42

2015-06-03 22:46:13
劉度 @arther456

「どうする?このまま下がり続けたら、空母部隊が狙われるよ」ヴェールヌイは後ろを気にしている。大鳳たちが撃たれれば制空権を失い、この戦いは負けるだろう。沈みながらも前進してくるプリンス・オブ・ウェールズを、何としてでも止める必要がある。 43

2015-06-03 22:49:37
劉度 @arther456

不知火は考える。戦艦部隊は謎のジェット戦闘機を追い返した戦艦棲姫を止めるためにここにいない。イタリア艦は南方の戦艦棲姫を倒すために、やはりいない。「倒すには火力不足。敵左舷に回りこんで、大鳳さんたちから戦艦の照準を逸らして……」「ちょっと待ったあああ!」 44

2015-06-03 22:53:00