ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス #3

前回の裂けるチーズサムネが消えないんだけどどうなってんの
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2015-05-29 20:32:08
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)

2015-05-29 20:33:19
劉度 @arther456

《発射シークエンス、最終段階に突入します》巧妙に所在を隠された宇宙船発射場。そこから今、一機のシャトルが打ち上げられようとしていた。コックピット内では、飛行士たちが緊張した面持ちで発射の時を待っている。ただ一人、革の手帳を胸の前で抱えた女性を除いては。 1

2015-05-29 20:34:14
劉度 @arther456

「ねえ、本当にいいの?」彼女の隣の席に座る女性パイロットが話しかけた。「何がですか?」「……あっちにいったらアナタが何をしなくちゃいけないのか、分かってるでしょう?」表向き、彼女たちは宇宙のデブリ清掃を行う手筈となっているが、現実は違う。 2

2015-05-29 20:37:27
劉度 @arther456

世界はいよいよ追い詰められていた。この地球上において戦火に包まれていない国はない。その戦火が、ひょっとしたら宇宙にも持ち込まれるかもしれない。この打ち上げは、そういうものだ。だけど彼女には関係ない。「いいんです。あの人を地球に還すためですから」 3

2015-05-29 20:40:39
劉度 @arther456

「アー……うん、そうね。ごめんなさい、辛いことを思い出させちゃって」「そろそろ発射だ。口を閉じろ。舌を噛むぞ」機長が言って、話は終わった。だが彼女は終わっていない。あの時からずっと続いている。まだ軌道上のどこかにいる、夫のことを思い続けている。 4

2015-05-29 20:43:56
劉度 @arther456

そのために、亡き夫の友人を頼り、アメリカ軍の極秘計画のパイロットとして志願した。幸い、彼女の能力は軍の審査を満足させるには十分だった。《発射30秒前……ッ!?襲撃だと!?》突然、管制センターが慌ただしくなった。《今更止められるか!秒読みは続行しろ!》 5

2015-05-29 20:47:20
劉度 @arther456

ズゥン、ズゥゥンと砲撃の音がシャトルの中にも聞こえてくる。にわかにシャトルに緊張が走った。「艦娘め、ここを嗅ぎつけてきやがったか……!」機長が呻いた。《発射10秒前!後は頼む!合衆国、いや、世界の命運を!》《3,2,1,発射!》瞬間、すさまじい圧力が彼女を襲った。 6

2015-05-29 20:50:36
劉度 @arther456

シャトルの後尾ノズルが火を噴き、白煙を残しながら上昇していく。重力が彼女の体にのしかかり、息も吸えなくなる。あの人も宇宙にいった時は、こんな大変だったのだろうか。彼女は宇宙にいる夫に想いを馳せる。もうすぐ会える。このシャトルは軌道上にに建造された巨大衛星に赴くのだ。 7

2015-05-29 20:54:02
劉度 @arther456

それはかつて、事故で破壊されたデブリ清掃衛星を修復したものであった。そこにシャトルに積まれた最後のパーツを接続し、彼女たちの魔力で動く宇宙魔導決戦兵器が完成する。巨大な翼を携え、大気圏内飛行もできる衛星は、来るべき国連軍の日本への反攻において、大きな役割を果たすだろう。 8

2015-05-29 20:57:15
劉度 @arther456

だが彼女の心は別のところにあった。その衛星の近くを漂っているはずの夫の遺体を引き取りに行くためだ。彼がとっくに死んでいるのは分かっていたが、寒い宇宙に一人ぼっちなのは可哀想だった。不意に、彼女の体に衝撃が走る。あっと思った時には既に、眼前に青空が広がっていた。 9

2015-05-29 21:00:39
劉度 @arther456

【ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス】#3

2015-05-29 21:03:58
劉度 @arther456

「うぐぅ……!」『蔵王』甲板上。ビスマルクはうつ伏せに倒れ伏していた。ビスマルクに向けられた歌のせいだ。「Shit!ビスマルク、無事か!?」「バカにしないで!そっちこそどうなの!」「……Sorry.俺も立てねえや」「でしょうね……!」倒れながらもビスマルクは歌う。 10

2015-05-29 21:04:15
劉度 @arther456

呪いの歌はますます彼女を押し潰していく。ミシミシと、体の骨と甲板がきしんだ音を立て始める。歌を邪魔した者は、深海にも沈めずに押し潰すつもりか。「せめて、もう一曲……!」歌いたい曲は、世界に聞かせたい曲はまだまだ残っている。それを歌うまでは、生き残りたい。 11

2015-05-29 21:07:37
劉度 @arther456

曲が終わる。インターバルに入る。次の曲が始まるまでの数秒、彼女は対抗するための歌無しで呪歌に晒されるだろう。耐えられるか。ビスマルクの頬に冷や汗が垂れる。だが、曲が終わった瞬間、休みなしで次の曲が流れ始めた。「……え?」知らないイントロ。ビスマルクの歌ではない。 12

2015-05-29 21:10:51
劉度 @arther456

『みなさーん!』スピーカーから聞こえてきたのは、別の少女の声だった。ビスマルクは驚いて辺りを見回す。「あそこだ!」ジャンゴウが艦橋を指差した。マイクを持って艦橋の窓から手を振る少女が一人。艦内で提督たちを見張っているはずの三隈だった。 13

2015-05-29 21:14:08
劉度 @arther456

『今日は集まってくれてありがとうございまーす!くまりんこ、心を込めて歌わせていただきますわー!』「ハァ!?」ドイツのトップシンガー、ビスマルクでさえ押され気味なのだ。素人の三隈が歌って、何の足しになるというのか。「三隈、バカな真似はやめて……ああ、マイク切られてる!」 14

2015-05-29 21:17:41
劉度 @arther456

どうやら艦橋からスピーカーを操作して、マイクを乗っ取ったらしい。こうなってはビスマルクに止める術はない。三隈が歌い出すのを、黙って聞いているしかなかった。『それじゃあ、くまりんこ、歌います!抱きしめて、銀河のはちぇまれ!』 15

2015-05-29 21:21:03
劉度 @arther456

「何ですかこの歌は!?」『鳥堀』上で結界を構築していた倉田中将は、隣の『蔵王』から聞こえてきた歌に困惑していた。艦橋に艦娘が立ち、さっきとは別のアイドルソングを歌っている。「三隈さんが歌っているであります!」「そんな!ビスマルクでも無理だったんですよ!?」 16

2015-05-29 21:22:35
劉度 @arther456

「三隈ちゃん!?」甲板にいた魔術兵が叫んだ。今度は、他の魔術兵たちも三隈に注目している。「まさか、またアイドルですか!?」「ご存知、ないのですか!?彼女こそリランカ島でのコンサートでチャンスを掴み、スターの座を駆け上がっている超時空シンデレラ、三隈ちゃんです!」 17

2015-05-29 21:25:52
劉度 @arther456

「まさか、こんなところに……」「デビューライブ、絶対行けないと思ってたのに」「おい、誰かサイリウム持ってないか?」「そんなもんあるわけ無いだろ!」「あったよ、誘導灯が!」「でかした!」心得のある兵士たちが、三隈の歌に合わせて誘導灯を振りはじめた。 18

2015-05-29 21:29:08
劉度 @arther456

『まあ!陸軍のみなさーん!素敵なサイリウム、ありがとうございますわー!』「くまりんこぉぉぉ!」三隈に手を振られるだけで、兵士たちは沸き返る。『それじゃあ私の合図に合わせて、3・2・1で"くまっ☆"お願いしますねー?』「"くまっ☆"……?」倉田とあきつ丸が、顔を見合わせる。 19

2015-05-29 21:32:28
劉度 @arther456

『せーのっ、3・2・1!』「「「くまっ☆!」」」三隈の合図に合わせて、兵士たちが右手の中指と薬指を折り曲げた独特のポーズをキメる!ゴウランガ!なんたる親衛隊めいた一糸乱れぬ挙動か!「馬鹿どもが……飼いならされやがって!」それを見て倉田は頭を抱えていた。 20

2015-05-29 21:35:45
劉度 @arther456

だが、この歌が呪歌を押し返しているのは事実である。歌唱力そのものはビスマルクに及ばないまでも、熱烈なファンの後押しによって呪歌に対抗出来るだけのパワーがこもっていた。「戦況は……戦況はどうなっているんですか!」再び倉田は、泊地水鬼に目を向ける。熊野の姿は見えなかった。 21

2015-05-29 21:39:03