ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス#1

2015年春イベSS、はっじまるよー!
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2015-05-25 20:30:25
劉度 @arther456

【ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス】#1

2015-05-25 20:31:52
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)

2015-05-25 20:32:59
劉度 @arther456

銃火が地下道を明滅させていた。暗闇がマズルフラッシュで照らされ、焼きレンガで作られた壁が聖別されたライフル弾に抉られる。「くそ、怪物め!主よ、どうかお力を!」通路を奥に後退しながら、黒人修道士が手榴弾を投げる。数秒の後、閃光と轟音が地下道を大きく揺らした。 1

2015-05-25 20:34:42
劉度 @arther456

「やったか!?」「無理に決まってるだろ!扉を閉めろ!」最後の部屋に駆け込んだ修道士たちが、古びた鉄の扉を閉めた。厚さ30cmの鉄の扉には、無数の聖句と破邪の呪文が書き込まれている。ソマリアの海賊と呪術師が束になっても突破できなかった、最後にして最強の防壁だ。 2

2015-05-25 20:38:01
劉度 @arther456

ゴン、と鈍い音が扉に打ち付けられた。「あなたたち。すぐに扉を開けなさい」聞こえてくるのは女性の声。だが、ここに逃げてきた修道士たちは知っている。この扉の向こうにいるのは人間ではない。数々の防衛戦と罠を軽々と突破してきた、銃弾も爆弾も効かない怪物なのだ。 3

2015-05-25 20:41:18
劉度 @arther456

「開けないのなら、この扉をぶっ壊すわよ?」「やれるものならやってみろ!」黒人修道士の一人が叫び返した。「……なら、扉の側から離れなさい!」脅しのはずだ、と修道士は自らに言い聞かせる。対戦車ロケット砲でも破れない鉄の扉が、物理的に破れるはずがない。 4

2015-05-25 20:44:36
劉度 @arther456

だが、轟音とともに修道士たちは衝撃を受けて吹き飛ばされた。慌てて起き上がった彼らの目に写ったのは、大きく凹んだ鉄の扉だった。「そんな……!?」驚く修道士たちの前で、二度目の爆音が響き、鉄の扉が弾け飛んだ。部屋の中に流れ込む黒煙を掻き分け、人影がゆっくりと歩いてくる。 5

2015-05-25 20:47:48
劉度 @arther456

それは白と赤を基調とした、セーラー服ともメイド服とも言い切れない服を着た女性のように見える。しかしその背中には人型サイズに縮小された戦艦砲と、付属する機械群を背負っていた。修道士たちは日本の海上兵士たち、艦娘の事を知っている。だが、彼らは叫んだ。「深海棲艦め!」 6

2015-05-25 20:51:11
劉度 @arther456

修道士たちが守るのは、黄金で飾り付けられた箱だった。頂点には、2体の金の天使像が据え付けられている。一目で美術的な価値があることが分かる黄金の箱だが、それを見たものは等しく息を呑む。美しさではない。箱から放たれる、畏怖ともいうべき威圧的なオーラに。 7

2015-05-25 20:54:23
劉度 @arther456

「貴様のような不信心者にこれを渡すわけにはいかん!」修道士の言葉に、しかし深海棲艦は首を振る。「いえ……私もあなた達と同じ神を信じているわ」彼女の胸には、小さな銀の十字架がぶら下がっていた。「深海棲艦が神を?馬鹿な……」狼狽える修道士の間から、一人の老人が進み出た。 8

2015-05-25 20:57:36
劉度 @arther456

「我々と同じ神を信じるのなら、どうしてこの箱を持ち出そうとするのかね?」「……私の信仰を、皆に信じてもらうためです」彼女は俯き、申し訳無さそうに呟く。「書に記されたそれを持ち帰れば、私が本気で神様を信じるって、みんな分かるでしょう?」 9

2015-05-25 21:00:55
劉度 @arther456

真剣な深海棲艦の眼差しに対し、老人は優しく微笑む。「なるほど。神の教えを知ったばかりじゃな、君は」「ええ、そうよ。だけど、本気よ」「……持って行きなさい」老人が道を開けた。「どの道、今の我々に止める術はない。なら互いに不本意な結末にならぬようにするのが最善じゃよ」 10

2015-05-25 21:04:12
劉度 @arther456

「互いに……えっ!?」そこで、修道士たちは気付いた。あの深海棲艦が、今まで自分たちを一人も傷つけていないことに。「ご理解いただき、感謝いたします」深海棲艦は修道士たちの間を進み、箱を手に取った。金メッキとはいえかなり重い箱を、彼女は軽々と持って部屋を去ろうとする。 11

2015-05-25 21:10:10
劉度 @arther456

「ああ、一つ言っておこう」その背に司祭は声をかけた。「必ず君はそれを返しに来る。そう決めたら、いつでも遠慮せずに来るといい。種なしパンは出せないが、温かいスープを傍らにおいて、話をしようじゃないか」深海棲艦は返事をしなかったが、肩越しに頷くと去っていった。 12

2015-05-25 21:11:50
劉度 @arther456

彼女の背が見えなくなると、修道士たちが一斉に騒ぎ出した。「司祭殿!本当にあれで良かったのですか!?」「深海棲艦に至宝を渡すなど……!」だが、司祭は泰然としている。「必ず戻ってくるよ。君たちも、あれがどういうものかはよくわかっているだろう?」 13

2015-05-25 21:15:02
劉度 @arther456

修道士たちは言い返せない。確かにあの箱には、人知の及ばぬ力が働いている。「ですが、人ならともかく、深海棲艦では……」「大丈夫さ」地下室の天井を見上げながら、司祭は呟いた。「それに、あれには御使いが……大いなる天の鳥がついている」 14

2015-05-25 21:18:19
劉度 @arther456

アンズ環礁。セイロン島より南西へおよそ540海里、インド洋に浮かぶ群島国家モルディブに属する、アッドゥ環礁の海に設置された深海棲艦の泊地である。半径10kmにも満たないこの小群島に、深海棲艦たちは巧妙に拠点を隠していた。補給艦の後をつけなければ、見つけられなかっただろう。 16

2015-05-25 21:21:47
劉度 @arther456

「まさか、イギリス東洋艦隊と同じ場所に秘密基地を建てるとはねえ……はっちゃん、ご苦労様」『いえ。お安いご用、ですよ』尾行任務を成し遂げた潜水艦の艦娘に、提督は労いの言葉をかけた。提督の乗る指揮官『蔵王』は今、アンズ環礁より北へ50海里のところにある、ガーンドホー島にいる。 17

2015-05-25 21:25:06
劉度 @arther456

『アンズ環礁には空母ヲ級や輸送ワ級、それに、未確認の陸上型深海棲艦もいるみたいです』「陸上型か……」今回の主目標は、西のアデン湾を封鎖する深海棲艦の大艦隊の撃破だ。そのためには、挟み撃ちを避けるため、この秘匿泊地に打撃を与える必要がある。しかし陸上型深海棲艦は、強敵だ。 18

2015-05-25 21:28:20
劉度 @arther456

「いよいよ、倉田の出番だなあ」提督は隣の椅子に座る眼鏡の男を見やった。海軍軍人ではない。濃緑の軍服を身にまとった、日本陸軍第10軍、通称・魔術師団の師団長、倉田修。今回の西方作戦に極秘参戦した陸軍中将であり、あきつ丸の本来の上官であり、提督の友人でもある。 19

2015-05-25 21:31:42
劉度 @arther456

「ようやく例の術を試す時が来たようですね」倉田は感慨深げに呟いている。無理もない。深海棲艦との戦いが激化してから、陸軍にはほとんど活躍の機会が無かったのだ。もしも彼らの魔法で陸上型深海棲艦を封じることができれば、この大戦における陸軍の立場は大きく変わる。 20

2015-05-25 21:35:01
劉度 @arther456

「ところで倉田、別に敬語じゃなくていいんじゃない?」「いえ。作戦行動中ですから」「つっても、気心の知れたメンバーじゃないの」「分かりました……じゃあ早く高波ちゃんを出撃させて写真撮りましょう」「ひえっ!?」「素を出せとは一言も言ってないから!?」 21

2015-05-25 21:38:18
劉度 @arther456

生来のロリコン気質を発揮させた倉田を提督が止めている間、艦娘たちはそそくさとCICを離れ、艤装着脱ドックへと向かっていった。「高波ちゃん、大丈夫?」「は、はい……びっくりしました。カッコイイ人だと思ってたのに……」鈴谷に話しかけられても、まだ高波は震えている。 22

2015-05-25 21:41:35