『ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ』#3&エピローグ
(これから流すのは艦これ二次創作SSです。適当に生暖かく見守っていたりスルーするなりしてければと思います。感想などもらえると飛んで喜びます。タグは #cr819_ss を用意しましたので適当にご利用ください)
2014-07-02 20:00:02「じゃあ私が、今からその施設を探しに行きます……!」吹雪のその言葉に誰しも驚きの視線を向けたが、もっともそれが顕著だったのは、他ならぬあきつ丸だった。「本気、でありますか……」だがその言葉にも、吹雪の眼に宿ったの決意の光は一切揺らぐこともなく、静かにあきつ丸を見据えている。 1
2014-07-02 20:01:17「その施設に行くことしか深雪を救う方法がないのなら、私はそれに全てを賭けます!」吹雪があらためて強くそう言い切ると、さすがにあきつ丸も思うところがあるらしい。帽子のツバを掴んで視線を隠し、さらに静かな声で質問を投げてくる。「……何が吹雪殿をそこまで駆り立てるのでありますか?」 2
2014-07-02 20:03:39「仲間を救いたい。それだけのことです」「仲間、でありますか」あきつ丸の声は、吹雪のその言葉を純粋に疑問に思っているかのようだった。そう言って少し考え込んだあと、あきつ丸から意外な提案がなされた。「ならば自分も、その施設を探すのを手伝いましょう」顔を上げ、あきつ丸は吹雪を見る。 3
2014-07-02 20:05:53あきつ丸の言葉に、今度は吹雪が考える番になった。その脇では天龍はなにか言いたげにあきつ丸を見ていたが、あくまで、吹雪の言葉を待っている。もし吹雪が言葉を出せないようならなにか切り出すつもりのようであったが、その機会はなく、吹雪の思考はすぐにまとまったらしくゆっくりと口を開く。 4
2014-07-02 20:08:04「あきつ丸さん、私たちに力を貸してもらえますか」その静かな決意の言葉は、あらためて、あきつ丸へ意志を問いかけるものであった。生半可な気持ちを許さない、強い思念の塊。それは吹雪だけでなく、天龍ら他の艦娘の意志も上乗せされているかのようで、いくつもの視線が、あきつ丸の答えを待つ。 5
2014-07-02 20:10:06「……自分は、自分にできることをするのであります」それでも、あきつ丸の言葉は淡々としたものだった。一瞬の静寂のあと、天龍が何かを言おうとしたが、吹雪が手でそれを制す。「わかりました。今はまず、施設を探すために力を貸してください」吹雪のその言葉に、あきつ丸もただそれに頷いた。 6
2014-07-02 20:11:57「……オレらはひとまず、ここで防御を固めることにする。深雪には悪いが、ちょっとばかり騒々しくなるぜ」天龍たちが宿営地の改装に取りかかりはじめたのを見て、吹雪とあきつ丸はジャングルの奥へと入っていく。目指す研究施設がどこにあるのか、まずはその手がかりだけでも見つけねばならない。 7
2014-07-02 20:13:48「……あらためて聞きます。吹雪殿はなぜ、そこまでして深雪殿を救いたいと思うのでありますか?」ジャングルの中、野営地も見えなくなった頃、あきつ丸が再びその質問を投げかけてくる。「冷たいことを言うようでありますが、深雪殿を見捨てるのも選択肢の一つであると思うのであります」 8
2014-07-02 20:15:38「……理由はいくらでもあります。仲間だから、友達だから、それに可能性を捨てたくはないから。でも……」吹雪の中にある、根本の答え。「でも最大の理由は、こんな世界の果ての孤島で、仲間を失うのは悔しすぎるから……。私たちは、誰一人欠けることなく、この任務をまっとうしてみせます」 9
2014-07-02 20:17:32その答えにあきつ丸は納得したのかしないのか、少しだけ考える素振りを見せたあと何か小さくつぶやいたが、その言葉は吹雪には聞こえなかった。「いずれにしても、いまは施設を見つけることが先決であります」そう言われては先程の言葉を問うこともできず、吹雪は再び前を向いて歩き出す。 10
2014-07-02 20:19:22そんな風にして当てのない踏査が続くように思われたジャングルの探索の中、不意に吹雪が足を止めた。「どうかしたのでありますか?」吹雪の急停止にあきつ丸も流石に驚いているようだが、吹雪は視線と人差し指を一本立てる身振りで、音を立てないように促す。ジャングルの中、二人の艦娘が立つ。 11
2014-07-02 20:21:13(何事でありますか……?)囁くようにあきつ丸がそう尋ねても、吹雪は目を閉じたまま、じっと意識を集中させている。「……なにか、機械の駆動音のようなものが聞こえます」「えっ」その言葉を聞いてあきつ丸も同じように耳を澄ますが、何も聞き取れないらしく、表情は困惑のままである。 12
2014-07-02 20:23:04「聴音機型ソナーの応用です。このジャングルは元々動物の数が極端に少ないからなんとかなるかと思ったのですが、うまくいきました」ようやく顔を上げ、吹雪はそう理由を説明する。艦娘、特に対潜水艦を重視する駆逐艦だからこそ微かな音を捉えられたのだと。「行きましょう、暗くなる前に」 13
2014-07-02 20:24:56ジャングルの奥、山間の切り立った側面に、その入口は大きく口を開けていた。その脇には、今なお静かに稼働し続ける巨大な発電機。「音の正体はこれだったんですね……」あらためて確認するまでもない。自然に満ちたこの島に不釣り合いなこのような人工物は、間違いなく以前の世界の遺産だ。 14
2014-07-02 20:26:48「行きましょう……」発電機からの電気で薄い明かりが灯る通路を、二人の艦娘が進んでいく。先を行くのは吹雪で、砲を構え、ゆっくりと警戒しながら歩を進める。通路は整備されて人が通るには充分な広さが確保されており、駆逐艦である吹雪の艤装程度なら、装着したままでもまだ余裕があった。 15
2014-07-02 20:28:38この施設がどれだけの期間放置されていたのか。今となってはわからないが、壁や床、天井の損傷は大したこともなく、また何よりも特徴的なのは、それらが今なお異常な清潔さを保っていることだった。白い壁にいくらかヒビはあるが、苔などは繁殖しておらず、また、動物等が侵入した形跡もない。 16
2014-07-02 20:30:29吹雪にはその異常な清潔さが、まるでこの島の不気味さがそのまま形となっているように思われた。「吹雪殿」「ええ……」吹雪たちの前に現れたのは、半開きで放置された両開きの扉である。明らかにこの先は空気が違う。既に扉の前でさえ、これまでとは異なる冷たくも重い空気が漂っている。 17
2014-07-02 20:32:21一瞬の躊躇はあったものの、吹雪はすぐに気を引き締め直し、警戒を保ったまま扉へと手をかけた。深雪のことを考えると迷っている暇はない。鍵はかけられていなかったらしく、ゆっくりと扉は開かれるが、まるで侵入者を拒むかのように、扉から重苦しい空気が漏れ、二人にまとわりついてくる。 18
2014-07-02 20:34:12「これは……」扉の向こうにあったのは、この島にまったくく不釣り合いな、研究所の一室のような実験施設だった。温度調節用の機械と、まだ液体の残るフラスコ。そして、何かを保管するための冷蔵庫のようなケースと棚。だがケースの扉は開いており、中には、割れた卵の殻だけが残されていた。 19
2014-07-02 20:36:03呆然とする吹雪の横で、あきつ丸もまた同じように驚愕していた。しかしすぐに冷静さを取り戻すと、机や棚の散乱した資料を拾い上げ、目を通し始める。だが、読み進めていくうちに見る見るとその顔から表情が無くなっていき、その資料を机へと無造作に置くと、青褪めた顔で言葉を絞りだした。 20
2014-07-02 20:37:56「……どうやら事態は、自分が考えていたよりもさらに深刻のようであります……」それだけ言うと、あきつ丸は大きく息を吐き、机の上に転がったフラスコを調べ始める。大半は割れて中身も残っていないが、それでも一部はまだフラスコの底に溜まっているものもあった。「いや……これは……」 21
2014-07-02 20:39:49資料でそのフラスコを確認すると、あきつ丸は今度はゆっくりと顔を上げて、真剣な眼差しを吹雪に向ける。「吹雪殿……」静かに、言葉が発せられる。それは、決断を迫る言葉。「あなたは深雪殿のために、命を、そしてなによりこの先の自分自身の人生を懸ける事ができますか……?」 22
2014-07-02 20:41:44それを問うあきつ丸の顔は白熱灯の下でいつもよりさらに白く見え、まるで神か悪魔の使者のようであった。「私は……」その凄味に、そして何より目の前で迫られた決断に、吹雪は言葉に詰まる。「私は、死にたくはない……」俯き、あきつ丸から視線をそらし、ただ小さく苦しい表情でそう口にする。 23
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