~人へ~

zero(@allplusnothing)のtwitter詩集。保存用です。
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alchemist @allplusnothing

〈遺書Ⅳ〉この手は初めから汚れていた。生まれたときから血まみれだったんだ。手をきれいにするために私は人を傷つけた。人の返り血を浴びてもともとの汚れが洗い流されていった。そうしてきれいになった手の輝きを前にして私は畏れおののいた。もはやこの手は汚れることができない、余りに罪深いから

2014-08-05 06:50:40
alchemist @allplusnothing

〈遺書Ⅲ〉どこまでも弱くて、世界が耐えがたくて、そんな脆い自我が世界を破壊しようとした。私は世界の侵攻で既に満身創痍、これ以上は世界と刺し違える他はない。特に美しいもの優れたものほど私を傷つけた。だが私の手の届く範囲はあまりにも小さく勝つ術のない闘いにせめて虚構を作り勝とうとした

2014-08-05 06:18:12
alchemist @allplusnothing

〈遺書Ⅱ〉例えば死産した恋がナイフのように机に仕舞われていること。胚胎されながら流産してしまった幾つかの恋が、私を傷つけようといつも狙っていること。このことは私を受け継ぐものに伝えておきたい。私は死んだ恋の刃に対抗できるだけの鋭い切っ先を、意識の先端に遂に常備できなかった。

2014-08-04 18:51:28
alchemist @allplusnothing

〈遺書Ⅰ〉私はノイズの集積であり、ここに残される言葉はその中でも特にノイジーなものだ。私は音楽にいつでも憧れていた風の音だった。理性と論理で全てを切り抜きたい欲望のノイズだった。私は絶え間なく逸脱していく。逸脱していく私から更に逸脱していくもの、それが騒がしく遺書として残る。

2014-08-04 17:43:33
alchemist @allplusnothing

〈滅亡〉差し伸べられてくる光の細い腕に亀裂が入り、みるみるうちに砕けていく。僕は重力を見失いもはや地面を踏みしめることができない。小鳥が鳴いていると、声から先に壊れていき、羽は散らばり嘴は一気に燃え去る。緻密に張り巡らされていた持続の糸が断たれていき、世界は滅び始めようとしている

2014-08-04 06:07:26
alchemist @allplusnothing

〈一つの顔〉一つの顔しか持たない僕は二つの表情を取ることができないし、二人の人と同時に話せないし、一つの正義しかまなざすことができない。だがこの社会という4次元も5次元もある空間では、顔が沢山あるように見せねばならぬ。僕は一つの顔を心から引っぺがしてせわしなく書き換え続ける。

2014-08-02 05:08:00
alchemist @allplusnothing

〈八方美人〉組織は大きな車輪を回し続ける。その車輪を滞りなく回すため僕らは互いに摩擦しない。油の中を漂うかのようにツルツルな僕ら。だから全ての人に遍く好意を寄せ、全ての人から遍く注文が降ってくる。このてんでバラバラな注文に全ての人の機嫌を崩さぬよう、矛盾を丸めて矛盾でなく見せる。

2014-08-02 03:15:17
alchemist @allplusnothing

〈板挟み〉僕はどちらかに傾くことしかできない粗製の天秤。両方の皿に必死な二人があらんばかりの重りを載せてくる。そして必ず命令するのは「釣り合わせろ!」そもそも粗製の天秤にいい加減に重りを載せているのにどうやって釣り合うことができるのか。僕は予備の重りを使いネジを調整し偽りの均衡を

2014-08-02 02:17:09
alchemist @allplusnothing

〈全てが虚しい僕へ〉死ぬほど潔癖な独房へようこそ。もう何も見なくていいし何も聴かなくていい。どんなに美しいものでも今の僕には醜いから。どんな発見も今の僕には意味がないから。どんな優しさも今の僕には敵意でしかないから。独房で少し独白するんだ。全ての聖なるものへ罵声を浴びせかけるんだ

2014-07-30 16:33:43
alchemist @allplusnothing

〈明方の孤独〉始まるものと終るものが互いに巻き込まれて静かに壊れていった。人はまだこの世で互いの表情を交換し合わない。太陽は自らの作る朝に呼ばれるのを待ち続けている。僕の手近には何もない。距離が静けさで拡張されてしまった。僕の身近には誰も居ない。言葉が空気を泳ぐ前に滅びてしまった

2014-07-26 14:42:55
alchemist @allplusnothing

〈奇跡〉どんな出来事でも奇蹟ではありえない。そこに超越的な力など介入しないからだ。だが、出来事に寄せられた人々の思いの分だけ出来事は奇蹟に近くなる。奇蹟は起こるのではなく人々の感銘によって作られる。だからあなたの誕生も起こったのではない。僕たちの感動によって少しずつ作られたのだ。

2014-07-24 06:14:22
alchemist @allplusnothing

〈幻想〉小さなあなたが手を開いては閉じる。そこに儚く消え去る真っ赤な炎が見える。小さなあなたが泣き声をあげる。そこにずっと続いていく言葉の連鎖の波が見える。小さなあなたが顔を動かす。そこにいつかは表情となり花となるわずかにほころびた蕾が見える。小さなあなたの体に大きな滝が重なる。

2014-07-24 06:05:44
alchemist @allplusnothing

〈誕生の恐怖〉世界にこれだけ無数の空席があるというのに、あなたはどの席にも座らない。あなたに席は要らない、ただ驚きがすべての席を埋める。むき出しの可能性を体全体で表現するからあなたは怖い。世界に新しいものなどなく、全てが使い古しのはずなのに、あなたは衝動のような新しさを湛えている

2014-07-23 18:49:47
alchemist @allplusnothing

〈誕生〉生きるために産まれてきたのでも死ぬために産まれてきたのでもない。目的がないのではなく目的を作るあなたが産まれたのだ。あなたは自由でもなければ不自由でもない。自由を作るためにあなたが産まれたのだ。あなたはまだどこにも存在が登録されていない。なぜなら全ての登録簿は新品だから。

2014-07-23 18:04:45
alchemist @allplusnothing

〈私と社会〉社会は初め私をくるむ甘い衣のようだった。私が一人で歩きだすと、社会は今度は数限りない迷路と罠をしかけてきた。私が地図を作り罠の避け方を学ぶと、社会は今度は遠くに見える山頂のように聳え立った。私が山を登り始めると、木々は囁きかけ花々は笑い社会はもはや私の体と区別がつかぬ

2014-07-17 07:00:04
alchemist @allplusnothing

〈仕事人間〉日本の社会と経済を支えているのは我々一人一人の名もなき労働者。日本から更に身近にすぼまって行く輪の中で、会社、家族、そして自分の存在は自分が作り出している。過去は捨てろ、現在と未来がたくさんの美味な責任を課してくる。責任を華麗に燃やし尽くすんだ、成功という名のもとに。

2014-07-15 05:46:23
alchemist @allplusnothing

〈3か月目の憂鬱〉そろそろ地獄廻りも一周したなあ。天国廻りも兼ねた豪華なツアーだった。一区切りついたことだし一度地上に戻ろうか。でも知っている、地上は天国でも地獄でもないただの退屈な場所。僕の全身に刺青された責任は、案内役として天国と地獄の上階へと僕を引き上げ一層の苦楽を約束する

2014-07-13 18:52:45
alchemist @allplusnothing

〈日曜日の憂鬱〉気がついたら体が顕微鏡になっていて、地面に撒かれた極小の海が大写しにされた。海は僕を勝手に攫って行って、溺れているうちに気がついたら僕の体は望遠鏡になっていた。宇宙をめぐっている密林が大写しになると、今度は僕は密林に紛れ込み、存在しない出口を探し回る。そんな日曜日

2014-07-13 17:19:14
alchemist @allplusnothing

〈孤独の光〉人は多くの孤独を抱えているほど豊かな人間だ。仕事に就いて人と沢山情報交換していると孤独は消えてしまったかのように思える。だがそのときいよいよ光を増してくる孤独の数の分だけ人は人生を知っている。文学について、哲学について語りたい。光り始める孤独の分だけ人は人間に相応しい

2014-07-10 14:39:11
alchemist @allplusnothing

〈孤独との出会い〉僕は人と知り合うごとに一つ一つ孤独と出会って行きます。同じクラスで仲良くなった相沢君、君と出会うことで孤独が一つ増えました。よく一緒に食事をした中村さん、あなたと出会うことで孤独がまた一つ。一人一人、大事な人であるほど僕の孤独です。人と会うごとに孤独は増えていく

2014-07-10 14:24:06
alchemist @allplusnothing

〈管理職のあなたへ〉組織はあなたにとって夢の実現の階梯だ。人脈を広げるごとに組織を少しずつ味わっていく快楽に身を震わせた。掌に収めた業務は存在をかけたバクチでありあなたは勝利の歌しか知らなかった。あなたより優れている人など存在してはいけない。優越を確かめる欺瞞もいつしか真実となる

2014-07-09 06:53:45
alchemist @allplusnothing

〈くだらない唄〉大事なものを落とし過ぎたがもはやそれが大事だとも思わなくなった。夢の見すぎで目が悪くなったがもう遠くにある夢は見ないので目が悪くて構わない。今では故郷よりも昔住んでいた別の場所に郷愁を感じる。桜の木の下に立っても青春時の喪失感などなく未来の生活と闘いが見えるだけ。

2014-07-08 05:07:21
alchemist @allplusnothing

〈七夕に願うこと〉これまで僕に対してずっと挨拶を送ってくれていた人や物の挨拶に気づくことができますように。現実や生活と夢や理念が対立することなく有機的に体系を作り上げますように。他人に対して充分与えてきたと自分を肯定できますように。世界でたった一つでいいから深い愛を作れますように

2014-07-08 04:46:52
alchemist @allplusnothing

〈支配と被支配〉権限が大きくなった分だけ却って支配されるようになった。部下を支配すると伴に部下からの評判に支配される。誰からも名前を知られるようになったがその分多くの視線に厳しく焼かれる。栄光はいつでもひっくり返ってそれでも栄光だ。成功とは監視の無限乱反射の坩堝に投げ込まれること

2014-07-05 07:02:52
alchemist @allplusnothing

〈幸福不信〉幸せは寄せては返す波のようなもの。一定のリズムに乗った大きなものの到来。だが僕はその波が幸せであることを知らない。ただの砂浜に打ち寄せる水だとしか思わない。それよりも照りつける太陽のような不幸をいつまでも信じつづけていたい。何もかも醜く暴いてしまう光だけを浴び続けて。

2014-07-05 04:58:00