- sakura77_sosaku
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「ふぅ…」この街の門をくぐったわっちは、無意識に息を吐いた。何の進展もなくまたこの祭りを迎えてしまった。#空想の街 の氷涼祭。死者に会えるというこの祭りに去年も訪れた。生き別れた姉さまを探しに。結局会えなかったが、それは生きているということじゃろうか?わっちには分からない。#黒猫
2014-07-04 00:19:17わっちの名前はシャノワール・ミネット・バルバロイ。皆は気軽に"シャノ"とか"シャール"と呼ぶ。まぁどう呼ばれても構わん。元々、名など無かったんじゃからな。 #空想の街 には何度か訪れた。おかげで知り合いもできたが、今回はもしかしたら気づかれんかもしれんの。#黒猫
2014-07-04 00:25:42なんせ、人の姿をしとるからな。好き好んでこの姿をしとる訳ではない。わっちも本当は猫の姿でいたいんじゃ。じゃが今回は連れがおってな。そいつに合わせて人のなりをしておるんじゃ。まぁ長くても三日の辛抱じゃ。それまでに目的を達成できればいいがの。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 00:29:48「連れ」というのはわっちの横でさっきからキョロキョロしてるこいつ。名はあずき。いや、正確には違ったな。言いにくいからわっちが勝手にあずきと読んでるだけじゃ。たしか…朝倉たつきとか言ったか?わっちにはどうも言いにくくての。最初と最後をくっつけてあずきにしたんじゃ。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 03:05:30あずきと出会ったのは別の街。わっちはとりあえず今年も氷涼祭までに #空想の街 に向けて旅をしておった。その途中で出会ったんじゃ。辺りの人間に氷涼祭のことを聞いて回てての。気になって見ていたらわっちと目があったんじゃ。そしたらいきなり話しかけてきての。#黒猫
2014-07-04 03:11:47猫に話しかける人間なぞ珍しくはないが、妙に真剣な眼差しでの。#空想の街 を探してるということもあって話してみたんじゃ。いきなり猫がしゃべりだしたら驚くかと思ったらそうでもなかったの。藁にもすがりたい思いだったのか。少し興味が沸いてわっちが街まで案内することを約束したんじゃ。#黒猫
2014-07-04 03:17:11ただ一つ失念しておった。あずきと一緒に行くということは、こやつの歩調に合わせるということじゃ。別にノロイとは言わんが、わっちの本気に比べたら断然遅い。今回は早めに街に着くと思っておったのに、計画が台無しじゃ。まぁ、猫のわっちに計画らしい計画もないんじゃがな。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 03:20:29朝倉たつき。通称あずき。年の頃は20代半ば。黒い髪が肩より少し長く、背丈はわっちと同じほど。じゃから、あずきと会話をする時は、わっちはいつもこやつを見上げなければならん。じゃから今回は人のなりをすることにしたんじゃ。いい加減、首が疲れるからの。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 03:24:53性格は明るくて快活。なのに出会った時は誰もあずきの話を聞こうとしていなかったの。まったく無視じゃった。まぁ、ちょっとあずきもうるさいところはあったがの。でもそんな性格だから見た目はわっちより年上なのに、中身は年下のようじゃ。まぁ実際わっちより下じゃがな。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:10:58わっちは生まれてこのかた何年生きたか分からんぐらい生きた。それに比べて25歳などほんの小娘じゃ。わっちはいつも姉さまにくっついていたが、くっつかれることはなかった。でもこれはこれで悪くない。じゃからあずきからいきなり「シャノちゃん」と呼ばれても許さんことはない。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:16:23あずきが #空想の街 に行く理由。それは聞くまでもないじゃろう。こやつも明るく振舞ってはいるが、きっと大事な誰かを亡くしたんじゃ。氷涼祭は死者を迎える厳粛なとき。冷やかしで参加するようなものではない。ならばわっちがあずきの願いを叶えてよろうぞ。#黒猫
2014-07-04 18:19:52そう思って道案内を買って出たのじゃが、まさかここまで遅くなるとは思わなんだ。途中で急に泣き出すしの。確かに泣きたい気持ちは分かる。じゃが氷涼祭に間に合わなければ余計泣くことになるというのに。でもそのおかげというか何というか、ちょうど死者が帰ってくる時間に合った。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:25:58今回は北区から街に入った。もしかしたらここから入るのは初めてかもしれん。とりあえず中央広場に行くかや?「ねぇねぇシャノちゃん」と、そんなわっちの考えをよそにあずきが楽しそうな声で話しかけてきた。「なんじゃ?」「すごいね!みんな風船付けてる。なんで?」#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:35:17いいところに目をつける。まぁ単なる好奇心だろうが。「ちょうど死者が帰ってくる時間じゃからな。死者と生者の区別を付けずに心置きなく楽しめるようにの」わっちは得意顔で説明する。まぁわっちも氷涼祭は2回目じゃが。「へー、じゃあ私と一緒だ。シャノちゃん物知りね!」#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:41:23「そうじゃろう?」と言いながらちょっと不思議に思ってあずきを振り返った。あずきの手には早くも風船が握られていた。「なっ!おぬし、いつの間に…」「へへー、いいでしょ?」まったく、大方愛想振りまいて誰かからもらったんじゃろう。わっちの分ももらってくれれば良いのに。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:43:52「じゃあわっちの風船もどっかで調達せにゃいかんの」「あれ?シャノちゃんも風船付けるの?」あずきが不思議そうに聞く。こやつはわっちの説明を全く聞いとらんの。「当たり前じゃろう。もちろんわっちは猫じゃが今は人間の姿をしとるからの」前回は猫の姿でも付けておったがな。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:47:22さてと、その風船はどこでもらえるんじゃったかな?前回は確か……。そうじゃ…、あのうさ耳娘っ子に付けられたんじゃ。わっちの自慢のしっぽにぐるぐる巻きにされての。今でもしっぽが震えるわい。早いこと風船を見つけねばな。「あー、シャノちゃん!」まったく、今度はなんじゃ!#空想の街 #黒猫
2014-07-04 18:59:06「ほら、本屋さん。街の観光案内とかあるんじゃない?」観光案内か…。わっちは前回この街をくまなく走ったしの。それにわっちは…。「もらってきたー。#空想の街 タウン誌・あおいとり」早っ!じゃからわっちは字が読めんのじゃ!#黒猫 #青鳥書林 pic.twitter.com/2U0BmeTm53
2014-07-04 19:11:41まあよい。あずきが読んでくれるじゃろ。「で?風船はどこでもらえるんじゃ?」確か無料で配ってたはず。「あー、浴衣だって!」人の話を聞かんか!「ねぇ中央区行こ!」そう言って誘いながらもこっちの意見も聞かずにどんどん行ってしまう。でも中央区か。そこなら風船があるかや?#空想の街 #黒猫
2014-07-04 19:32:13「そういえばあずきの会いたい人は息子だったかや?」「…はい。そうです」この話をする時のあずきの表情が苦手であまり聞けんかった。いつもは明るいあずきの伏し目がちな表情が。「浴衣を作ったら探しに行くかや?」「うん!へへー、だからシャノちゃん好きー」「こら離れんか!」#空想の街 #黒猫
2014-07-04 19:56:35「わ、わっちにな。よい心当たりがあるんじゃ」わっちはあずきを引き離しながら言った。「本当!?」その言葉にすぐに反応するあずき。「心当たりといっても、情報のじゃぞ?居場所は分からん。でも、わっちの姉さまの事も知ってた奴じゃ。信頼はできる」と言ったところで……。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 19:59:01「人間の言葉には”噂をすれば”という言葉があるそうじゃな。まさにじゃ」わっちは行く先にある一つの建物を指さした。そこは #絵本屋さん 。前回訪れた時に、わっちの姉さまがこの街に来ていた事を教えてくれた店じゃ。今、わっちが元気でいられるのもそのおかげと言って良い。#空想の街 #黒猫
2014-07-04 20:04:18絵本屋さん・水登脩生との出会い
「せっかくじゃ。寄っていくか?」というと、あずきは無言で首を縦に振った。酔うぞ?わっちは #絵本屋 のドアを開けた。主人の名は水登脩生。奴はわっちのことを覚えておるじゃろうか。そもそも以前は猫で今は人間だから、一から説明せねばなるまい。#空想の街 #黒猫 @amenote07
2014-07-04 20:13:03わっちらが入ったその店は窓から陽の光が注ぎ込み、部屋を明るく照らしている。わっちらが入ってきたせいで空気が動き、少しだけ舞い上がったホコリが光に照らされてキラキラ輝く。ここに来るのは2回目じゃが、やっぱりここは居心地が良い。#空想の街 #黒猫 #絵本屋 @amenote07
2014-07-04 20:28:59