原稿さん。

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とねりこ @toneriko99

 不意の来客は大体いつでも傲慢でこちらを配慮するように話を進めたことのない奴だった。 「よぉ」 「たまには正面から入ってきたらどうなんだよ。別に昔ならともかく今ならそこまで苦労しないだろ」   ため息交じりに見上げれば窓からの不審侵入者だ。空飛ぶ絨毯の上で座りながらにやりと

2014-07-07 23:09:46
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 笑った。 すっかり慣れたから今更通報とかしねぇけど。 「やだよ、かったりぃ。どーせこれ渡すだけだしよ」 懐から取り出したものをひょいっとそいつは俺に向かって投げてよこした。コントロールは正確でちょうど手を上げればその中に収まる。 「ん? 何コレ?」

2014-07-07 23:11:41
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 手のひらにすっぽり収まる小さな黒い瓶。中には液体が入っているようだ。 問いかければ、それはそれはムカつくにやけ顔が目に飛び込んできた。明らかに善からぬことを企んでいるか、俺にとってムカつくことを考えている顔だ 「最近マンネリ化してんだろ~。俺からの選別」

2014-07-07 23:15:52
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 予想もしてなかった言葉に思わずむせた。いやまぁ、確かに会いたいと思ってヤることなんて一つだからマンネリ化っちゃあマンネリ化なんだろうけど、少なくともその事についてあいつはお前にだけは絶対相談しないと思うぞ! 「大きなお世話だっつーの! つーか、何コレ?」

2014-07-08 07:16:22
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 小さな黒い小瓶、中に入っている液体。まぁ、話の内容から考えれば媚薬の類だろうか。脳裏に顔を真っ赤にさせた白龍を想像して口元がにやける。 「聞いて驚けよ! そいつはなんと相手のルフに触れることができる薬だ。まぁ、つまり相手の心の中や過去が覗けるって訳よ!!」

2014-07-08 19:40:26
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 「……へー」 自慢げなジュダルとは対照的に俺のテンションは今ひとつ上がらなかった。むしろ期待してたものと違ってしょんぼりしている。 ーーなんだ。媚薬じゃないのか……。 そんな俺の反応に不満げにジュダルが鼻をならした 「なんだよ、その反応。つまんねぇなぁ」

2014-07-08 19:58:08
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 「いやだって、俺経験あるし。アラジンの『ソロモンの知恵』みてえなもんだろ」 相手のルフに触れるといえば何回か経験したアラジンの力の一つだ。もっとも過去を覗くというより、相手の哀しみの根源に触れるような感覚だったけど。

2014-07-08 20:01:31
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 ていうかアレは緊急時だからこそ許されることであって、特に何もない平時にアレやって相手の心を覗いたらフツー怒るんじゃねえの?俺だったら嫌だ。 思わず手の内の瓶を見返した。かなり強烈な薬じゃねえの?と。そんな俺の懸念を気汲み取ったのかジュダルは首を横に振った。

2014-07-08 23:28:44
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 「違えよ。あんなに厭味ったらしく丸ごと見せる様なもんじゃねぇよ」 ややげんなりした声音に、そのしかめっ面に同情した。 ――そんなに嫌だったのか。 俺は近くにいたけどそん時の場面に遭遇してなかったからジュダルにとってアレがどれくらいのものだったかは知らない

2014-07-09 06:26:19
とねりこ @toneriko99

@toneriko99  明らかに顔をしかめたジュダルに半ば同情的な気持ちを感じつつ、黒い小瓶に目を落とす。  ゆっくりとその長い指で、ジュダルがその小瓶を指差した。 「そいつが見せるのは幸せだった過去だ。お前が飲めば白龍のルフに触れて幸せだった白龍の過去を見れるってこと」

2014-07-09 06:29:44
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 「幸せ……ねえ」 もっともこの小瓶にそんなものが詰まっているとは思えない。 幸せな過去、安らぐ思い出……。俺だったらいつだろうな。会いたくても会えない人に会えるなら夢の中でも構わない。そんな人ならいくらでもいる。 白龍ならどうだろうか。

2014-07-09 20:11:35
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 不意にある可能性に思い当たって、眉間にしわを寄せた。 「……それってさぁ。あいつの母さん出てきちゃう奴……とかじゃないよな……」 白龍の家族が誰も欠けていない時代。まだ母親が裏切るとも知らない幼い時間。 「あ――――。出るかもしれねぇなぁ」

2014-07-09 20:15:55
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 「逆に重くねぇか、それ」 ため息と共に手にしている薬がやけに恐ろしいものに思えてきた。 「つうかなんでそれがマンネリ化を防ぐって話になるんだよ。むしろ逆鱗に触れる方じゃね―の」 白龍にも知られたくない気持ちもあるだろうに。踏み入れてはいけない予感だ。

2014-07-09 20:39:43
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 この怪しげな薬はやっぱり使ったらいけない。 ーー返そう。 そえ、俺の決意は固まったはずだった。次のジュダルの一言を聞くまでは。 「あー、俺は知ってんだけどなぁ~~。そん頃の白龍」 いざ返そうとしていたてがぴたりと止まった。

2014-07-10 06:30:45
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 そのままジュダルの言葉に耳を傾ける。というより耳を離せない。 「俺もガキだったけどよ。あの頃は本当に泣き虫だったんだぜ。見た目の愛らしさもあって女官には密かに人気だったなぁ〜。可愛かったなぁ〜」  ジュダルはそんな俺の反応に気を良くしたみたいだった。

2014-07-10 06:40:54
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 底意地の悪い笑みを浮かべてそれこそ本当に愉しそうだ。 ーー明らかに悪魔の囁きだ。耳を傾けるな! そう自分に言い聞かせてもちっちゃい頃の白龍を想像し始めた頭は回転を止めなかった。率直に見てみたい。

2014-07-10 07:15:29
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 たまにはあの澄まし顔をいじる弱味をちょっとでいいから握ってみたいとか、あいつ綺麗な顔してるもんなぁちっちゃい頃もさぞかし可愛かったんだろうなぁとか、泣き顔みたいたか、そんなこと考えている場合じゃないだろ俺! 「知りたいんじゃねえの? もっと深く……な」

2014-07-10 18:47:05
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 「ううっ!」 「ほーら、一生に一回あるかないかだぞ~~。この機会を逃したらもう二度と見ることもできないかもなぁ」 「うううううっ!!!!」 俺はこの執務室で仕事しなきゃいけないのにっ!! なんだってこんなに誘惑されているんだよっ!!?

2014-07-10 22:30:15
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 結局――。俺はジュダルの口車にのって怪しげな小瓶を手にいれてしまった。 こっそりと机の下に隠していつ使おうかと考えながら――。

2014-07-10 22:31:06
とねりこ @toneriko99

@toneriko99 意外と機会は早く巡って来るもので、白龍がバルバッドを訪れる公務が偶然かはたまたジュダルの手回しかで唐突に浮かび上がってきた。 願っても無い機会だ。夜遅く白龍の寝室を尋ねる準備の中、そっと机の下に隠しておいた小瓶を取り出した。

2014-07-11 22:34:04