王子の吐息（更新中）

チカ @chica1219

26)「絶対何かを隠してるんだよね。考えたけど、記念日でもないし。この前知らない男と一緒にいるの見て、気になって」「……」最初は何のことかわからなかったけど、それを聞いて思い出した。ミスコンの、話。秘密にしてね、と言われたあの話。彰くんをびっくりさせたいから、って。

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27)「…ごめんなさい。わからないです」あのときの千依梨の顔、すごく、可愛くて、きらきらしてて。心配している彰くんには悪いけど、あたしは嘘を返した。「そっか」残念そうに眉を下げる。けど。「…協力してほしいことがあるんだ」次の瞬間には、その表情は別のものへと変わっていた。

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28)「……」見た。見ちゃった。この目で、ばっちり。「あれ？千依梨ちゃんどうしたの？」いきなり隣に現れて、にっこりと微笑んでくる変態人間を、私は半泣きで見上げた。「え、どうしたの」からかうつもりだったんだろうけど、私の表情を見て困り顔へと変化する。「あ、彰が…」「彰？」

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29)言いながら、視線は逸らせず、とある席を見つめたまま。構内のカフェで彰と待ち合わせしてるのはいつものこと。今日もいつものように向かうと、そこには先客がいた。綺麗な黒髪のその背中は、間違いない。「ああ…由那ちゃん？」晴はそれに気付いて、私の親友の名前を口にした。

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30)「ねえ、彰、近くない？…ほら！今！いま由那の顔にすごく近い…！」「そんなに言うなら行けばいいのに」「えっ、いや、そうなんだけど…！」何が嫌かって、由那の顔が赤いところ。滅多に表情を変えない子だからこそ、彰が何をしているのか気になる。どうして、由那にそんなに近いの？

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31)彰のことは信じてる。だけど悶々としているのは事実。「彰と言えば。そういや千依梨ちゃんのこと心配してたよ」「…え？」いきなりの不意打ち。私は彰から視線を逸らせないまま、晴の声に耳を傾ける。 「この前他の男と一緒にいたんでしょ？」 やけに楽しそうな声が、私の隣で弾んでいた。

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32)「すごく仲良さそうだったよね。俺も嫉妬しちゃった」「…」わざとらしい。私は晴の声を無視しようと決めた。視線の先では、由那と彰がふたり仲良く話してる。「…そういえば、ミスコンでドレス、着るでしょ」だけど無視する予定のその声が、まさか私の秘密を言い当ててくるなんて思わず。

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33)「え…っ！？」何で知ってるの！もしかして由那が言っちゃった？でもでも由那は口が堅い。どこからその情報を――「俺、由那ちゃんからは聞いてないよ」「じゃあ、どこで、」もしかして話が広がってる？もしそうなら彰の耳に入るのも時間の問題。慌てる私に、晴は小首を傾げて見せた。

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34)たぶん誰もが見惚れる笑みまでつけて。「…さあ、ね」 晴が一度誤魔化したら、最後まで種は明かさないってこと、知ってる。「…彰にだけは言わないでね」「わかってるって」釘を差した私。ちっともわかっていなさそうな返事をした変態男は、愉しげな笑みを浮かべていた。…不吉な予感が、する。

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35)だけど私のカンなんて、そうあてになるわけじゃない、よね。そう思い込むことでなんとか不安を吹っ切って、翌日。私は専門学校に来ていた。「千依梨さんすみません、わざわざ」「ううん、大丈夫だよ」

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36)サイズの細かな調整がしたいので、ってお願いをされたのは昨日のこと。大学からそう離れてはいない場所に専門学校はある。だから了承して講義終わりに直行した私を、学生さんは申し訳なさそうに、だけど爽やかに迎えてくれた。

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37)デザイン系の専門学校に入ることなんてはじめて。せっかくだから、って少しだけ校内を案内してもらって、それからサイズを測るため、部屋へと通された。「わ…」入った瞬間広がる、生地のたくさんあるその部屋。淡いピンクのドレスが真ん中にあって、そこに輝きを放っていた。

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38)「あのピンクのやつが、千依梨さんに着てもらおうと思ってるもので」「…え、あれ！？」ウェディングドレスのように裾が長い。どこかのお姫さまみたい。それを、私が。「…いいのっ？」びっくりしたまま訊いたら、彼は楽しそうに「はい」頷いてくれた。

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39)「ディズニーっぽくしたい、ってクラスの女子が盛り上がっちゃって。あ、ちゃんと王子の衣装もあるんですよ」「えー！すごいっ」「ははっ、見ます？」「いいの？」「もちろん」隣の部屋に移動すれば、そこにはタキシードと軍服の中間みたいなダークグレーの衣装。なんだか本当に楽しくなってきた

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40)王子の衣装も、ピンクのドレスも。まだ完成ではなくて、手直しを重ねている段階なんだって。もしかしたらまたサイズの測定をお願いするかも、なんて言われたけど、そんなの全然嫌じゃなかった。なんか、女子の憧れを叶えてもらっている気がして、頬の緩みが止まりそうにない。

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41)さすがにこんな顔で彰のところに行ったら、絶対にばれちゃいそう。私は迷うことなく由那に連絡を入れて、彼女の家にお邪魔させてもらうことにして。「今度サイズ調整の連絡来たら、由那も一緒に行こう？絶対に楽しいよ！」「…ふ、うん」「見てるだけであんなに楽しいって思わなかった」「へえ」

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42)語る私に、由那は目を細めっぱなし。「由那、絶対だよ？絶対行こうねっ」「うん」そのまま、話は授業のことになって、レポートやってないってことに気付いて。由那の部屋にある参考書を駆使して、課題消化をさせてもらうことに。由那の部屋は、彰の部屋よりも広い。そもそも寝室とリビング別だし

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43)リビングのソファは座り心地抜群だし、なんかこのまま住みたくなってくる。「千依梨、ご飯食べてく？」「え、いいの？」「うん。せっかくだし」「わああ、やったー！」レポートを終わらせてるからなのか、気を遣ってくれてるんだと思う。それに甘えて、私はレポートを進めていく。

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44)「千依梨、私シャワー行ってくるね」「はあい」結局今日は泊まることになって、私はもうすぐ終わりかけのレポートに改めて向き直る。由那に教えてもらわなかったら、完全に死んじゃってたなあ。「…んーっ」由那がシャワールームに消えて、一度伸びをした。とき。 カチャリ、音がした気がした。

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45)なんの音？そう思ったけど、もしかしたら由那がシャワールームから出てきたのかも。そのまま交代で入ろうかなあ、なんて思って少しだけテーブルの上を片付けて。 「…千依梨？」 ――いたときだった。 聞こえるはずのないテノールが、私の名前を呼んだのは。

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46)「…！？」え、なんで、どうして！？目を見開いた私。だけど向こうも同じくらい驚いた顔をしてた。そういえば私のこと呼び捨てにしてたし。きっと晴も頭が回ってない証拠だ。「…い、インターホンは…？」鳴った気がしないけど。ていうか部屋の鍵、由那締めてないの…！？

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47)由那は確かに男の人に免疫ない感じがするけど、セキュリティとかはしっかりしてそうなタイプなのに。これは後でちゃんと言わなくちゃ。何かあってからじゃ遅いもん。「…えーっと、」珍しいことに、晴も何て言えばいいのかわかんないみたい。困ったように眉を下げて、薄く笑うだけ。

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48)だからとりあえず。「晴くん、不法侵入は犯罪だよ」「…え？ああ、うん、そうだね」「ちゃ、ちゃんとわかってるの！？」「わかってるけど？」「いくら由那が鍵締めてないからって、インターホンくらいは、」混乱しながらなんとか言葉を繋げていく。だけど晴は私の言葉に苦笑いを深めた。

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49)「…んー…それ、なんだけど」「な、なに？」「…千依梨ちゃん、黙っててくれる？」「な、内容によるよ？」そもそも誰に黙っておけばいいのかわからないし。曖昧に頷けば、晴は少しだけ、下を向いて、それから顔を上げた。それはとても―― 「俺今、この家に住んでるから」 綺麗な、笑み。

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50)「………」「………」「…え、」ええええ！？叫ぼうとしたけど、声にならなかった。晴が思い切り口に手をあててきたせいだ。「ちょ、千依梨、黙って」「～！！」これが、黙って、いられるとでも！？絶対彰に言わなくちゃ。彰だって、晴のこと心配してたし。