王子の吐息(更新中)

オレンジシリーズの番外編。たまにはのんびりした話を、と。千依梨目線、ときどき由那目線です◎
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チカ @chica1219

51)だけど、そんな考えはあっさり消えた。「…は、晴…?」「…見んな」「ええええ…」だって。「顔赤い…」「……っ」指摘した途端、晴は片腕で顔半分を隠すように覆った。「…からかうの、やめて」「えーっ、からかってないよ。だって本当に顔真っ赤で、」「~っ、だから…っ」

2014-07-20 17:58:33
チカ @chica1219

52)うそ。嘘でしょ。どんな変態発言だってさらりと笑顔で言ってのける男が。高校の頃から、不特定多数の女の子の家を渡り歩いていた男が。「…だから、っ見んな、千依梨」 (…照れてる) 口調まで荒い。いつもの晴じゃない。「…楓さんにもまだ言ってないのに、」小さく晴が呟いたのを聞いた。

2014-07-20 18:02:59
チカ @chica1219

53)「え、待って!住んでるってことはやっぱり付き合ってるってことだよね!?」「……」「もうここまできて“違う”は無しだよ?」「……」「あ、話逸らそうとしてるでしょ!」まだ少し残るけど、顔の赤みが幾分か引いた顔で、私から目を逸らす。それから恨めしげに私を見て。 言うの。晴は。

2014-07-20 18:07:23
チカ @chica1219

54)「…付き合ってる、ちゃんと」 ずっと確信はしてたけど。実際に認めてくれたら、心の中に熱い何かが駆け上がってくるのを感じた。 高校の頃から知ってる。家をもっていなかったひと。誰にも心を開かないひと。…さみしいひと。 「……っ、」嬉しい。嬉しい嬉しい、うれしい…っ。

2014-07-20 18:13:55
チカ @chica1219

55)視界がじわあって滲み出す。晴が由那の家に『住んでる』って、言ったとき。私、あんなに嬉しそうな晴の顔見たことなかった。初めて見た。あんなに綺麗に笑うひと。 私、見たことなかったんだもん。 「…なんで千依梨が泣くの」「だって…嬉しい」「……」「晴が幸せで、嬉しい…っ」

2014-07-20 18:17:59
チカ @chica1219

56)こんなことあるんだ、って。そう思いながら涙は止まらなくて。晴は少しだけ、困ったように笑った。「…家があるって言うの、恥ずかしいよね」「それ、当たり前のことだからね…っ?」「…うん。そうなんだよね」しんみり、噛み締めるように呟く。

2014-07-20 18:23:37
チカ @chica1219

57)晴の抱えているもの、私は全部知ってる訳じゃない。だけど。「…ありがとう、千依梨」泣かないで、そう言う代わりに頭に乗せられた手が、優しいから、また泣いた。「…由那泣かせたら包丁持ってくるからね」「…、いきなり物騒な」「絶対、悲しませたら許さないから…!」「…うん」

2014-07-20 18:28:17
チカ @chica1219

58)困ったように笑う晴に、私は満面の笑みで返した。「千依梨、シャワー…、」「……」「…ただいま、由那ちゃん」「…なんでいるの」あああ、もう!!シャワールームから出てきた途端の、至極無愛想な由那の言葉にも、私は嬉しくって、顔面崩壊を抑えきれない。

2014-07-20 18:45:56
チカ @chica1219

59)「ゆな、由那!おめでとううううっ」そのままの勢いで飛びついたら、途端に由那は困惑の声を上げた。「っえ、なに」「だって付き合ってるんでしょ?一緒に住んでるんでしょ?」「…!?」「ふは、言っちゃった」「…!?」

2014-08-17 00:26:02
チカ @chica1219

60)声は出さないけど、その頬がどんどん赤くなっていくのがわかる。さっき見た晴の反応と似てるって思ったら、またにやけてきて仕方ない。「あ、私帰るね!レポート終わりそうだし」「え、いや…」「今度から由那の家来るときは前もって連絡するから心配しないで」「え…っと…」「じゃあまたー!」

2014-08-17 00:30:43
チカ @chica1219

61)私としてはなかなか素早くレポートを片付けて、赤い顔したままの由那に手を振り、家を出る。「ちょ、…千依梨!!」はっと我に返ったような由那の声をドアの向こうに聞きながら、明日質問攻めにしてやろうと考えていた。今はまだ私だって現実味ないし。だって、だって“あの”晴だよ!?

2016-02-13 18:17:15
チカ @chica1219

62)ああああ早く彰に報告しなくちゃ!わざわざ電話して『今から家に行ってもいい?』って訊くのももどかしいくらい。早く会って伝えなくちゃ、って。小走りで彰の家に向かう。一応電話を掛けたけど反応はなくて。とりあえず家の前まで行ってからもう一度電話掛けようかな。 (あーーっ、幸せ!!)

2016-02-13 18:21:56
チカ @chica1219

63)自分のことでもないのにこんなに幸せになれるんだ!なんて自分で自分にびっくりするけど。「あっ、もしもし!」家の前に着いてもう一度電話する。 『うん。…ごめんさっき電話くれた?』 耳元で聞こえる大好きな声。数メートル先にいるはずの相手に電話するの、結構好きだったりする。

2016-02-13 18:29:27
チカ @chica1219

64)「うん、掛けたけど平気!あのね、今話したいことがあるの!」『うん、なに?』「家に行って話してもいい?」『…って、もうエントランスにいるんでしょ?』「えっへへへ、正解!」『…ちぇり、酔ってるの?』「酔ってないよ!」『…まあいいや、上がっておいで』

2016-02-13 18:34:25
チカ @chica1219

65)玄関までひゅーんって一瞬で行けたら便利なんだけどなあ。彰の家の前に着いてインターホンを押す。鍵を回す音がして、扉がうっすらと開く。「う……っわ、?!」視界に彰が映った瞬間に抱き着いたら、彼のシャンプーの匂いが鼻腔を満たした。

2016-02-13 18:54:26
チカ @chica1219

66)「なに?ちぇり」「うん、あのねっ、」「うん」「晴がね…っ」 やっと、由那のこと好きって言ったよ。 やっと、ひとりの人を好きになれたんだね。 「~~…っ、」 「どうした?晴に何か言われた?」 喉が熱くなって言葉が出てこなくなった。熱くて、ただただ彰の胸に顔を埋めた。

2016-02-13 21:58:59
チカ @chica1219

67)嬉しいけど、私は少しだけ、心から喜べなかった。テンションを上げて、誤魔化してた。 「…彰ぁ、」「うん」「すき」「?、うん」「好きー」「うん、俺も好きだよ」「…違うもん」「え?」 違うもん。彰は。私のことなんて。 本当は。

2016-02-13 22:06:46
チカ @chica1219

68)まだずっと、私だけが好きなまま。高校生だったあの頃から、私たちの根本は何も変わってはいなくて。 「違うよ、私のほうがもっと好きだもん!」「何それ」誤魔化していつもの調子で言えば、彰は笑って、それから少しだけ意地悪な顔をする。「それより、ちぇり風邪引くから離れて」「え?」

2016-02-13 22:12:01
チカ @chica1219

69)「風呂上がったばっかりだから、俺濡れてるし」「私お風呂上がりの彰好きだよ?」「…、じゃあ今度一緒に入る?」「っそれは別!」「即答かあ」軽く笑いながら、部屋の奥へと進む背中がなんか遠くて。追いかけながら晴の話。彰の反応は素っ気なかったけど、でも少しだけ、口角が上がってて。

2016-02-13 22:21:18
チカ @chica1219

70)「何だかんだ、俺も晴のこと心配してたからね」にっこり。笑う彰くんの表情は、それはそれは穏やかなものではあったけど。 翌日。いつもの学食。昨日晴が爆弾発言してくれたせいで、あたしは今バカップルの前で居心地悪くコーヒーを飲む苦行を強いられていた。

2016-02-13 22:25:20
チカ @chica1219

71)…帰りたい。たぶん訊きたいことはたくさんあるはずなのに、ひとつも訊いてこないし。ただただあたしの顔見て頬笑むふたり。「………」コーヒーもそろそろ飲み終わりそうで。あの変態男に今すぐ来てほしい、なんて珍しいことを思ってしまうほど。

2016-02-15 17:44:21
チカ @chica1219

72)「…そういえば、なんだけど」苦し紛れに自分から話題をふれば、目の前のふたりは同じように首を傾げてみせた。もはや夫婦のよう。このふたりの結婚式は、きっとすごく絵になるだろうから出席するのが楽しみ。 「千依梨と彰くん、何つながりで出会ったの?」

2016-02-18 00:02:23
チカ @chica1219

73)考えてみれば、このふたり。高校が同じとは言っても学年が違うし、千依梨も彰くんも部活はしてなかったと言っていたし。晴とのことを訊かれる前に、先にバカップルの馴れ初めを聞こう、なんて。それはもう甘々な話になるんだろう、なんて。 思っていたんだけど。

2016-02-18 00:07:09
チカ @chica1219

74)「…」「…」なぜかお互いに見つめ合い、一瞬の間生まれた無言。あたしは動揺してしまった。「…いや、ただ気になっただけだから……」あまりの微妙な空気に口を開いた。 ら、「早速質問攻めされてるの?」後ろから能天気な声。数秒前に焦がれた男があたしの後ろから現れた。

2016-02-18 00:12:15
チカ @chica1219

75)…晴が来てくれて助かった。そういえば由那には私と彰の出会いなんて、言ったことがなかったし。すぐに答えられず、互いに交わした視線。説明しようもない、あやふやな関係が。 「……」なぜか晴と目が合って「そうだ千依梨ちゃん、」得意気な顔で「ちょっと秘密の話、したいんだけど」と笑う。

2016-02-18 13:49:11