- asagi01dog
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どんなに殴られても、どんなに傷つけられても、逆に冷たく触れてくれさえしなくても平気だった。寧ろ俺の感覚としては快感で、耐えきれずにやけてしまうような変態で自分でも気持ちが悪いと思っていた。
2014-06-30 22:28:07ついこの間、しばらく付き合った奴に捨てられた。まぁこっちも行動パターンのマンネリ化で退屈してた所で丁度良かったのだが。そんな時興味を引かれる奴に出会った。
2014-06-30 22:30:14そいつとはまともに話した事はないが、職場では成績で頭もよく人当たりも良い俺の嫌いなタイプ。けれどどこか人と距離を置いているように感じるし、瞳はいつも笑っているのに冷めていた。
2014-06-30 22:32:39その瞳と視線が合うことはない。しかし、それから俺はそいつの夢ばかり見るようになっていた。いつも見慣れた俺のベッドでそいつは俺に跨がる。俺は全裸でそいつはしっかりスーツを着込んでる。
2014-06-30 22:34:53記憶にないからか声はなく、ただ冷たい視線だけが静かに俺を貫く。それなのに、俺の体は何の反応も見せないのだ。こんなにも美味しいシチュエーションにも関わらず。ずっと俺とそいつは睨みあったまま、夜が明ける。
2014-06-30 22:37:37職場に行けばそいつは今日も上司に誉められ、同僚に囃され、後輩に慕われる。俺にだけは冷たい視線。変な優越感がないでもないが、どこか気味が悪い。そしてどうしようもなく焦がれた。
2014-06-30 22:40:12ある日の昼休み。俺は具合が悪いと偽り会社を早退した。別にやりたいことがあったわけでもなく、もちろん体調も悪くない。強いて言うなら今日はそいつが休みだった。
2014-06-30 22:42:19ふらりと何となく立ち寄ったゲーセンで俺は一つのクレーンゲームの前に立ち止まった。そこにあったのは少し前に流行ったゲームのキャラクターのぬいぐるみ。今時これはないだろうと、皆も思っているようにそこには大量にぬいぐるみが積まれていた。
2014-06-30 22:45:09子供たちはカーレースや太鼓を叩くゲームに夢中になっている。俺はポケットに手を突っ込み、朝コンビニで弁当を買ったおつりの百円玉を掴んだ。そのままそのクレーンゲームに投入する。クレーンゲームは少し軋んだ音を立てて動き出した。
2014-06-30 22:48:26別段欲しいわけではないので適当な所でボタンを押す。するとクレーンはうまい具合にそのぬいぐるみを掴み、あれよあれよとポケットまで運んでいった。そうしてクレーンが開くときらびやかな音が鳴り、おめでとーとアニメ声が喋った。
2014-06-30 22:53:17初めてクレーンゲームで商品を手にしたが、何の感動も浮かばない。寧ろ何故取れてしまったのか、とりあえず手に取ったそのぬいぐるみを目に小さく落胆した。
2014-06-30 22:55:42無駄な時間を過ごしたと、クレーンゲームから踵を返す。近くにあったゴミ箱にそのぬいぐるみを捨てようとして、ふと動きが止まった。前方から見知った顔がやってきたからだ。そうそれは、彼奴に違いなかった。
2014-06-30 22:58:29そいつは休みのはずなのに今日もスーツを着ていた。しっかりネクタイを締め、神経質そうにワイシャツには皴一つない。ゲーセンにスーツなんて場違いなはずなのに、やけに似合って見えた。
2014-06-30 23:04:12思わずそいつの姿に釘付けになっていると、案の定そいつは俺の姿に気付き、いつも周りにするようにこりと笑った。偶然ですねと言った言葉に、俺は初めてそいつの声を知った。
2014-06-30 23:06:38「今日はお休みですか?」お前がな。「ゲーセン、好きなんですか?」たまたま、気分だ。「あ、そのぬいぐるみ懐かしいですね」欲しくて取ったわけじゃない。「今日はお一人で?」一人じゃ悪いか。
2014-06-30 23:09:41喋りまくるそいつに俺は無言で返事をする。予想していた以上に軽い口調のそいつに、俺はげんなりしていた。何故俺は興味を抱いたのか解らなくなってくる。が、そうして笑みが張り付いたそいつの瞳は、あぁそれでも笑っていなかった。
2014-06-30 23:12:41「気持ち悪い…」「…えっ?」ぼそりと俺が呟くとそいつは一瞬止まって、それからまた笑みを作る。俺は手にしていたぬいぐるみを乱暴にそいつに投げつけた。「やる」そう言って俺はそいつに背を向け、そのままゲーセンを出た。
2014-06-30 23:15:59その日もそいつは夢に現れた。いつものベッドに全裸の俺とスーツのそいつ。一つだけ変化があったとすれば、そいつが俺の名を呼んだ事だった。
2014-06-30 23:19:51それからしばらくは特に何も変化は起こらなかった。そいつが職場でも話しかけてくる、なんてことはなかったし、俺も掛けようとは思わなかった。ただ何となくだが視線を感じる気がする。いや、それは多分お局様からの威圧感だろうとあまり考えるのはやめた。
2014-06-30 23:23:41ゲーセンでの遭遇から2週間、俺は新しい相手を求めて行きつけのバーに来ていた。マスターとは良く話が合いちょくちょく来ていたのだが、先日別れた相手もよく此処にくる奴だったのでしばらく控えていた。
2014-06-30 23:27:28久しぶりに合う友人と呼べる人に俺もマスターも、おぉと声を掛け合った。そしてこれも久しぶりのお酒に気分はほぐれ、良い気分になっていった。
2014-06-30 23:29:33「最近どうなんだい?」「何が?」「何がって、決まってんだろ?」「あぁ…別れたよ」「あ、やっぱり?通りでどっちも店に顔見せないと思った」「…知ってて聞いてるでしょ」「バレたか。まぁ実はつい昨日彼奴が現れて全部聞いたんだがね」
2014-06-30 23:33:09「ふーん…」今さらなんの感情も湧かない。それなりに長い付き合いだったはずなのだが、思い出してみると同じ一週間をずっと繰り返しているような生活だった。そりゃ飽きるよなと思いながら、少しは彼奴を好きだったんだろうかと自問してみる。
2014-06-30 23:36:31答えが出るはずもなく、溶けた氷がカランと音を立ててるのをただぼんやりと眺めた。そういえば俺は彼奴の名を呼んだ事があっただろうか、そんな記憶さえ当に消え失せていた。
2014-07-01 21:31:58