不知火に落ち度はない その9

@yamoto 氏の #不知火に落ち度はない をまとめました。 以下本家より抜粋 【不知火に落ち度はない】 続きを読む
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浜風さんと温泉回

yamoto @yamoto

煙草を切らして、外に買いに出た。 今日はあいにくと自販機が特売やってたらしい。 俺の愛用煙草のPEACEがどこでも近場で品切れだった。 「やってらんねーな」 ため息を吐くと街に向かって車を飛ばした。 一応不知火には、補給に出るとだけ言って置いた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 20:42:18
yamoto @yamoto

「ちっす婆さん、生きてた?」 「相変わらず口だけ達者な髭坊主だね。ほら、カートン」 「あいよ。ついでに缶ピもあるかい?」 「五つセットで買ってきな」 おのれ商売上手婆さんめ。 ここぐらいしか缶入りPEACEは売ってないしな。 おとなしく従うとしよう。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 20:45:17
yamoto @yamoto

そんなわけで元は美女だったと評判の、たばこ屋の婆さんから品を受け取る。 ライターを5つ付けてくれた上に、今回はさらにおまけが付いてきた。 「ほら、抽選券だよ。もっていき」 「何コレ?」 「商店街の福引きだよ」 お、それはテンション上がるねえ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 20:47:06
yamoto @yamoto

「さんきゅ婆さん。ちょっくら海外旅行当ててくらぁ」 「はいはい。そのままハワイで遊んできな」 お、ハワイ旅行当たるのか。 そりゃ楽しみだ。 当たったら……あ、休暇ねえから無理だよな。 ダメ元で当たったら取るとしようか。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 20:50:53
yamoto @yamoto

そして結果である。 俺の手元にはティッシュが5つセットで届いたわけで。 俺のリアルラックは尽きたなあ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 20:56:01
yamoto @yamoto

ちなみに一等賞は、京都三泊四日の旅であった。 ハワイに旅行っつーのはあれだ。飛ばされろって意味らしい。 痛烈な皮肉をありがとうございましたご老人。 さて、ここでティッシュを不知火に五セットでやるというところまで考えたが、せめてもう一品当てたい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:00:06
yamoto @yamoto

俺は最後の祈りを込め、抽選券を渡してガラガラを回す。 勢い込んで2回転半ほど回すと──お、色つきの奴が出た。 「おめでとうございまーす!」 カランカランとベルを鳴らす抽選所のおっちゃん。 いいねえ、楽しそうだね。 これは京都行けちゃうんじゃねえかな? #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:03:44
yamoto @yamoto

「なあ、不知火」 帰投後。俺は早速愛すべき副官殿に声をかける。 煙草の袋を置き、早速一服なんぞ嗜んでおります。 禁煙の文字は最近消えて、ここでも休憩中は吸ってよくなりました。 それはさておき。 「なんでしょうか、司令」 「お前、温泉好き?」 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:05:38
yamoto @yamoto

「特に好きではありません」 「あ、そ」 ぷかあ、と一服。 はっきりした副官殿である。 ポケットの中のティッシュを出すタイミングは永遠に失われたようだ。 仕方ないので仕事しましょうか俺。 真っ向からすぱっと切られるとつらいもんである。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:09:19
yamoto @yamoto

そして仕事終了後に、いつもの場所で浜風と出会う。 ホットなコーンスープを片手に天体観測を楽しむ時間だ。 今日は蟹座の話を聞いたところで、ふと聞いてみた。 「浜風。お前温泉好き?」 「え……突然なんです、提督?」 お、脈ありか? #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:13:09
yamoto @yamoto

「ほら、やるよ。一枚」 「え、え?」 さっとポケットから今日の収穫物を出す。 近場の温泉の入浴券である。 二枚セットで貰ったが、一枚単位でも使える優れものだった。 ポケットティッシュもついでにポロリしてしまい、慌てて拾ったのだがそれはさておき。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:20:41
yamoto @yamoto

「適当な時に行けばいい」 「そうですか……では頂戴します」 うん。こいつは温泉好きそうな気配があったのだ。 すっと俺が差し出したチケットを浜風は── 二枚まとめて持っていった。 え。ちょっと。 おま? #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:29:05
yamoto @yamoto

あのー。浜風さん。 それ、俺の分あるんですけど。 何この子、だんだん強くなってない? その温泉券2枚ぶんどって、まさか2回行くつもりなわけ? そういうの俺的に良くないと思います。 俺だって温泉行きたいです。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:33:01
yamoto @yamoto

「折角ですから、これから一緒に行きませんか、提督?」 「なんだ。お前が預かってくれるってわけか」 うわー。安心した。 全部持ってくつもりかと思ったぞ俺。 「まさか、私が独り占めすると思いましたか?」 うん、ぶっちゃけその通り。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:36:55
yamoto @yamoto

「この温泉は知ってるんですけど……徒歩で行くにはちょっと」 「なんだ、場所までご存じだったのか」 「提督が知らないのが意外でした」 うむ。貰ったはいいが場所をよく知らないのだ。 「ナビ、やりますよ?」 浜風からだめ押しの一言が出た。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:40:14
yamoto @yamoto

そうして着替えてきた浜風と合流。 軍用車に乗っての夜ドライブ。 隣に座る浜風は、薄青のキャミソールとワンピがくっついた服装で。 可愛らしいポシェットを肩からかけていた。 どうしてこれでぼっちなんだか。 アロハの俺ならともかくな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:49:23
yamoto @yamoto

「提督。もう少ししたら右です」 「オッケー」 かかるラジオのBGMは「やさしさに包まれたなら」 何とも和む曲である。 浜風のナビは結構優秀だ。スマホ片手に地図参照。 的確な場所で曲がる位置を教えてくれる。 ドライブ好きなのか、何だか楽しそうだ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 21:59:24
yamoto @yamoto

月夜の道を飛ばすのはわりと爽快で。 浜風も窓を開けて風を楽しむ余裕がある。 こいつ、車の運転覚えそうだな、そのうち。 そしたらドライブに連れてって貰うか。 そんなことを煙草を咥えながら思うと、隣でしゅっと音がする。 「火、どうぞ」 「さんきゅ」 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:05:22
yamoto @yamoto

煙草も吸いたい放題。 浜風は、煙草の匂いを気に入ってるのがありがたい。 不知火はあからさまに窓を開けて煙たがるからな。 そいや長門はどっちでもないか。 ともかく味方が居るのはありがたいことである。 月夜の道を15分ほど飛ばし、俺達はそこに着いた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:12:32
yamoto @yamoto

「うっわー。これはまた」 「……ええ、これは」 車を止めるとそりゃもうびっくり。 そこにあったのは思いっきり古い建物であった。 見るからに昭和初期、下手すると明治ぐらいの気配がある。 これ営業してるのか? そう思えるようなところだった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:15:31
yamoto @yamoto

「いいですね。ここ」 え。 お前いまなんつった? 「提督はこういう宿嫌いです?」 馬鹿言えお前。 「大好きに決まってんだろうが」 頭撫でてやる。 「え、ちょ、ちょっと提督!? あの!?」 うりうり、うりうり。 いやー、たまらんわ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:16:52
yamoto @yamoto

「んじゃ早速行くぞ。風呂を拝んでみたいわ」 「あ、て、提督。ちょっと待ってください!!」 遅いぞ浜風。この宿の古さとひなびた感、すっげー気になるじゃねえか。 浜風の手を引いて温泉宿の方へと向かっていく。 期待通りの宿であることを信じたい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:25:36
yamoto @yamoto

おお。 おお。 ブラボー。 おお、ブラボー。 入口をくぐると、まさにそこは理想郷だった。 築余裕で50年は過ぎてそうな建物。 申し訳程度のスリッパに、適当な感じの木彫りの熊。 「浜風、ちょっと今俺感動してる」 「わかります」 マジ大当たりだ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:33:52
yamoto @yamoto

さっそく上がり込んで奥へ。 同年代よりちょい上の仲居が立っている。 うん。40ぐらいのがいるならさらにいいな。 とりあえず温泉を利用したい旨を伝えると、浜風が前に出てくる。 「このチケットで大丈夫ですか?」 「はい。ご夫婦で?」 いや違います。 #不知火に落ち度はない

2014-07-18 22:49:25
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