ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ダッテメッコラー!」「ワドルナッケングラー!」BLAMBLAMBLAM!血も凍るような恐るべきヤクザスラングと銃声が、ストリートを覆う悲鳴を上から塗りつぶす。「アバーッ!」露天商がまた独り、屋台に突っ伏して死んだ。貴重なパーツが道に投げ出され、逃げ惑う人々に踏みしだかれる。47

2014-07-23 02:22:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブッダ!また縄張り争いだ!」「もうこのストリートはオシマイだ!」露天商らが逃げながら叫ぶ。「アイエエエエエ!」ホリイも頭を低くしながら闇雲に逃げた。銃弾がすぐ傍をかすめた。そして彼女は十字路を曲がり、咄嗟の判断で、いかがわしい民宿サルーン「MASUDA」に飛び込んだのだ。 48

2014-07-23 02:28:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

完全に恐慌状態に陥っていたホリイは、その前後の記憶がやや覚束ない。だが暫くすると銃撃戦は収まり、同じく逃げ込んでいた露天商らは、あたかもこれがチャメシ・インシデントであるかのように、死体の転がるストリートへと戻ったのだ。ホリイは彼らの正気の沙汰を疑いながら、酒場に留まった。 49

2014-07-23 02:36:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

酒場に安全に留まるには、酒を注文し、居場所を確保する必要がある。だがホリイは「MASUDA」に入店したことなど無く、この手の店が持つ暗黙のルールにも精通していなかった。運び屋、フリーランスヤクザ、ヤク中、筋金入りのローグハッカー、高級サイバネ娼婦らが、不審の目で彼女を見た。 50

2014-07-23 02:42:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホリイは祈るような気持ちで、自分の居所を探した。いかな探究心に満ちた有能なコードロジストといえど、彼女は裏社会の住人ではない。ここでは完全に無価値で無力であり、異物であった。彼女は視線を避ける暗がりを求め、オスモウ・ウェスタンのギター演奏が鳴り響く店内を、奥へ奥へと進んだ。 51

2014-07-23 02:49:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何時注文したか覚えていないが、彼女は並々と注がれた重いケモビールジョッキを危うげに揺らしながら持ち、ダンスパーティの相手にあぶれた壁の花めいて右往左往していた。入口の方向を振り向いた時、彼女のサイバネアイは、危険な兆候を察知した。黒尽くめの追跡者3人組が踏み込んできていた。 52

2014-07-23 02:57:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

3人組は騒ぎを起こす気配は無く、客らに何かを聞き込みしていた。自分を探しにきたのだ。ホリイは絶望に呑まれかけた。そのとき彼女は見たのだ。民宿サルーンの隅の、最も暗く不吉な場所で、丸テーブルで独り静かにウイスキーを呑む、ぼろぼろのカソックコートにウェスタンハットの偉丈夫を。 53

2014-07-23 03:06:03
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ホリイは、その男の周囲だけ影が濃くなっているかのような錯覚を覚えた。その男の周囲には、他のヨタモノとは違う、奇妙なアトモスフィアが漂っていた。……どうにでもなれ。「ドーモ、ご一緒してもいい?」死を覚悟した大胆さから、ホリイは入口に背を向け、その男と同じ丸テーブルに陣取った。 54

2014-07-23 03:11:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーゾ」音楽に聴き入っていたその男は、ワンテンポ遅れて、嗄れた声で応えた。きついアルコール臭が漂ってきた。銃弾の穴がいくつも開いたウェスタンハットの下では、瞼の無い目が不気味に輝いたが、彼はそれをホリイには見せなかった。ホリイはむしろ、その穏やかな物腰に安堵を覚えた。 55

2014-07-23 03:19:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホリイのサイバネアイは、丸テーブルに何本も置かれた酒瓶のひとつにフォーカスしていた。そこには店内の後方の様子が反射し、映り込んでいた。じわじわと、追跡者たちが背後から迫ってくるのが解った。アマクダリという名の、顔の無いシステムが。 56

2014-07-23 03:23:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あとでわけを話すから、お願い」ホリイはフードを脱ぎ、その男に助けを求めた。彼女の今の髪型はツイン・オダンゴと呼ばれるそれで、利発そうな額を晒していた。黒い眉は力強く、辛抱強さと我の強さを感じさせる。「面倒事は……」「追われてるの。私を常連か何かだと言ってくれればそれで…」 57

2014-07-23 03:36:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「面倒事は…御免だ。俺は今夜は静かに、酒を飲んでいたいだけなんだ」その男は店内の様子を……人探し中と思しきクローンヤクザどもを見渡しながら、淡々と乾いた口調で言った。それがこの男、ジェノサイドの嘘偽らざる本音であった。ホリイは目を閉じ、歯を食いしばって、観念した様子だった。 58

2014-07-23 03:48:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドは思案した。向こうでは、憔悴した店主のツルギ老人が、カウンターから身を乗り出し、祈るように成り行きを見守っていた。ジェノサイドにとって、クローンヤクザを殺すのは造作も無いが、ようやく見つけたこの快適なサルーンの中で、殺しはしたくなかった。少なくとも今夜くらいは。 59

2014-07-23 03:56:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

店主は知っていた。客も知っていた。この流れ者を怒らせると、何が起こるのかを。そして彼の存在により、MASUDA周辺が、縄張り争いの緩衝地帯になっていたことを。……ホリイの右肩に手が置かれた。だがそれはクローンヤクザではなく死者の手だった。彼はホリイに立つよう小声で促した。 60

2014-07-23 04:03:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドはホリイに肩を見せるよう助言し、彼女を連れて階段を登った。追っ手は、髪型を変えタトゥーを入れたホリイに気づかなかった。2階から上は民宿だ。「その女は?」行司姿の店員が形だけ問うた。「俺のゲイシャだ」「あんたがそう言うなら、そうなんだろう」行司は畏まって道を開けた。61

2014-07-23 04:13:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ】#1終わり #2へ続く

2014-07-23 04:14:11