屋代聡さん【誰が「歴史」をつくるのか/歴史叙述における主体と問題関心】

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屋代 聡 @yashirosatoru

【誰が「歴史」をつくるのか/歴史叙述における主体と問題関心】

2014-08-02 15:07:37
屋代 聡 @yashirosatoru

多くの方が気づいていないことですが、「歴史」とは、ありのままの過去ではありません。 そんなものに到達することは、たとえ歴史家であっても絶対に無理です。

2014-08-02 15:08:22
屋代 聡 @yashirosatoru

たとえば明治日本、室町末期、また藤原時代、いつの時代のどんな史料を用いても、そこに生きた人々の痕跡は1人1人別であって、そのすべてに当てはまる歴史を描くことは絶対にあり得ません。そして、その必要もありません。

2014-08-02 15:08:54
屋代 聡 @yashirosatoru

私たちの知っている過去、「歴史」とは、歴史家の問題関心に沿って、仮説がたてられ、推論され、そのための史料が用いられた結果、描き出された1つの像にすぎません。 過去の世界に人々は生きていましたが、それを「歴史」として提出するのは、歴史家なのです。

2014-08-02 15:09:36
屋代 聡 @yashirosatoru

(歴史とは学者がつくるものではなく市民や民衆がつくるものだろ?みたいなアホすぎる批判はやめてくださいね。)

2014-08-02 15:09:57
屋代 聡 @yashirosatoru

それゆえ「歴史」は歴史家が研究対象に対してもつ意思、採用するスタンスによってずいぶん違ったものになります。 そして歴史家はイデオロギー表明や恣意的な解釈をしていないか常に自問自答することが肝要なのです。

2014-08-02 15:10:40
屋代 聡 @yashirosatoru

こういうと、一般の方からは歴史家は史料に対してまっさらな気持ちで向き合うべき、主観をゼロにして史料を読まねばならないのではないかという反論、疑問が寄せられるのですが、研究者が自己を無にする、史料に対して完全な客観的位置を占めることはできません。

2014-08-02 15:11:09
屋代 聡 @yashirosatoru

歴史家というのは己を無にして史料に当たり、過去になにがあったか祖述する存在ではないのです。史料を前にした際、歴史家が自分を無にしてよみとくなど1つのドグマにすぎません。

2014-08-02 15:11:47
屋代 聡 @yashirosatoru

どれだけ歴史家が自分を「無」にしたつもりになっても、その題材を取り上げ、研究を継続するという意思・主観を抜くことはできないからです。

2014-08-02 15:12:08
屋代 聡 @yashirosatoru

かつて主観をできるだけ排して客観的に史料に向き合えば、客観的真理に到達できる、歴史の科学法則のようなものを探りあてられると考えていた歴史家はけっこういました。我が国では1980年代までかなりいました。(今もいます。)

2014-08-02 15:12:40
屋代 聡 @yashirosatoru

しかし僕らの世代はこれへの疑問を隠しませんでしたし、むしろこんな時代錯誤を積極的に批判していました。

2014-08-02 15:13:07
屋代 聡 @yashirosatoru

それでは歴史は「科学」にならないではないかというご意見がありますが、科学は主観が入るか否かで定まるものではありません。

2014-08-02 15:13:39
屋代 聡 @yashirosatoru

これには文系・理系の別もありません。 文系だから研究成果に主観が混じってしまい、理系だから客観的に実験がなされデータが取られ1つの成果が出ると思うのは短見です。

2014-08-02 15:14:06
屋代 聡 @yashirosatoru

なぜならば顕微鏡をのぞいたさい、目の前に現れた細胞内の未知の器官について、それが何であるか「解釈」するのは学者だからです。「もしこの器官が○○だとすると、すべての説明がうまくいく」と”考えた”のは、科学者にほかなりません。

2014-08-02 15:14:43
屋代 聡 @yashirosatoru

歴史研究でも同じです。同じ史料を見ても、ある人には何かが見えますし、素人には見えません。この力量は読書と他の研究者との交流によって磨かれます。 ある程度のセンスも要ります。

2014-08-02 15:15:19
屋代 聡 @yashirosatoru

いかなる史料を探り当て、いかに解釈し、いかなる「歴史」を紡ぐか。 それは歴史家の”主体的”な務めなのです。

2014-08-02 15:16:12
屋代 聡 @yashirosatoru

かように歴史家のスタンスが歴史像に大きな影響を与えるのであれば、どうしても問題となるのは研究の出発点、つまり、”歴史家がいかなる問題関心を有しているか”ということになるでしょう。

2014-08-02 15:17:02
屋代 聡 @yashirosatoru

歴史家が過去を明らかにするのは、それが、現在と未来における諸問題の解決に寄与すると、思われるからです。 逆にこうした問題と何の関わりもないなら、それこそ昔のことがわかったからといって何だ?ということになります。それは単なる懐古趣味、よくて訓古学です。

2014-08-02 15:17:49
屋代 聡 @yashirosatoru

それゆえ歴史研究者は普段から、現代世界に身を浸し、いま問題となっていることを注視し、その解決法を手渡してくれる方法と史料に思いを凝らさなければなりません。 そのうえで、作業仮説と断固たる覚悟をもって、過去へ歩みを進めるのです。

2014-08-02 15:19:32
屋代 聡 @yashirosatoru

僕らは、そういうお仕事をしているのです。(了)

2014-08-02 15:20:08