同居する森と月と伊月のグルメ

伊「毎週水曜日はオレが晩御飯担当なのでご飯作ってます。その激戦と奮闘の記録です!」 森「これ掲載誌的に『食戟の伊月』の方がよくないか…?」
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同居する森と月bot @doukyomi5

「うわっ」 急に森山さんに前髪を触られた。髪を触られること自体はよくあることだけど、考えごとをしてたからびっくりしてしまう。 「伊月前髪だいぶ伸びたな。オレ切ったろーか?」 「あ、いいです」 「それ結構うざったいぞ伊月。それとも、オレの腕は信用ならないか?」

2014-07-16 22:30:35
同居する森と月bot @doukyomi5

「そうじゃなくて、通ってる美容室があって」 「あ、そうか。早めに行けよー」 「そうなんですけどね……」 髪はだいぶ伸びている。きっかけなんていくらでもある。でもまだ踏ん切りがついてない。 「?」

2014-07-16 22:40:29

伊「伊月のグルメ第9回。オレは夏休みなう。森山さんはゼミ中」

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「森山さんゼミ今週まででしたっけ?」朝食の皿を洗いながら伊月が言う。伊月は授業もう全部夏休みに入ったって言ってたな。 「あ、うん今日まで」中間発表があるから、昨晩遅くまでキーボードの音を鳴らしてたのを気にしてるんだろうか。「肝心のゼミで倒れないでくださいね」って笑ってる。

2014-07-23 08:10:30
同居する森と月bot @doukyomi5

「そんな情けないことにはならないさ」 これでもゼミ内じゃ頼りになるイケメンスポーツマンの名をほしいままにしてるのだ。

2014-07-23 08:20:31
同居する森と月bot @doukyomi5

ちなみに同ゼミの数少ない女子には、最初のコンパで全員に運命のときめきを熱烈に語ってみたが、全員から「森山くんって噂通り面白い」って言われただけだった。 _人人人人人人_ >おもしろい<  ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄

2014-07-23 08:30:33
同居する森と月bot @doukyomi5

「…ハラ減ったな…」恙なくゼミは終了したが、日は暮れて道遠し。 玄関ドアの前に立ったところで妙なデジャヴを感じる。匂いっていうか、――― 「あ、森山さんお帰りなさい」 イーグルアイで外まで見えるわけでもないんだろうが、ドアを開ける前に菜箸を持った伊月がドアを開けてくれた。

2014-07-23 19:30:34
同居する森と月bot @doukyomi5

「伊月、お前」 「空元気のから揚げカラー、ゲッ?キタコレ!」 「ゲッ?ってなんだよ、――キテねーよ…」 食卓には二人分にはやや多い鶏のから揚げ、トマトスープ、きんぴらが並んでいる。満面の笑顔でひどいダジャレを言った伊月に、オレは弱くツッコミを入れることしかできなかった。

2014-07-23 19:45:28
同居する森と月bot @doukyomi5

「前よりは上手くできましたよ。冷めないうちにご飯にしましょう」 伊月に促されて手を洗ってきて席に着いた。から揚げ。なにをどう言えば、と思いながら一口食べてみる。 「……美味しい」 「ずっとリベンジするチャンスを狙ってたんです」

2014-07-23 19:55:29
同居する森と月bot @doukyomi5

あの時の失敗のこと、気にしてるみたいで話題に出しづらかった。伊月の手首や足に火傷の跡が残らないかとか、料理が怖くなったりしてないかとか、オレにも気にすることはあった。 「伊月が全部作ったのか?」 「はい」 大丈夫だった?と訊ねようとして、信用してないみたいだからやめにする。

2014-07-23 20:10:31

森「あの時の失敗→伊月のグルメ第二回でから揚げを作り、油をひっくり返し、伊月が火傷を負った話」

同居する森と月bot @doukyomi5

「…これタレかかってる?レモンじゃなくて?」 「そっちの皿は甘辛風に味つけして、胡麻もあえてみました。あえてあえてみましたキタコレ!―――うちがこうなんです、姉と母にすごくしごかれたし、もうから揚げ食べ飽きたって文句言われて、……門に文句言うもん!キタコレ?」 「姉と、母?」

2014-07-23 20:20:30
同居する森と月bot @doukyomi5

「伊月ひょっとして、週末家に帰ってたのって、料理習うため」 だったのか。 毎週毎週何かと理由をつけては実家に帰って、そんなに一日オレと一緒に過ごすのは気詰まりなのかって思ってたけど。 そういう事だったのか? 「え?!あ、いや、…だって!ずっと頼りきりじゃ情けないでしょう」

2014-07-23 20:35:29
同居する森と月bot @doukyomi5

「一人で作ってたら味加減とか正しいのかわからないし!」 「――そう、そっか」 「それだけじゃないです。本当に、友人と予定があることもありましたし。言っとくけど、…別にそんな綺麗な理由ばっかりじゃないですよ」 伊月は負けず嫌いだから失敗したままってのが悔しかったんだろう。

2014-07-23 20:45:30
同居する森と月bot @doukyomi5

オレのため、なんて喜んだりはしないさ。 でも、  「うん、ありがと」 言い訳するように早口で喋ってた伊月を、『照れてるな』っていつもみたいに茶化そうかとも思ったけれど、胸がきゅーっと詰まってしまって、その一言しか言えなかった。

2014-07-23 21:01:32
同居する森と月bot @doukyomi5

「…どういたしまして」 「本当に美味しい」 「な、なんで森山さんちょっと涙ぐんでるんですか!」 「や、…ちょっと真心が沁みる年になってきたっていうか、つかツッコんでんじゃねーよほっとけよそこ優しさだろ」 「あなたオレのお父さんですか…」

2014-07-23 21:15:29
同居する森と月bot @doukyomi5

先輩だ、とかチームメイトだ、とか返したい言葉はあったが、ふざけるのはやめておく。 伊月を、いいなって思うのはこういう姿を見た時だ。出来ないことに対してクサらずに、真っ当に努力を積んで不可能を可能にする。失敗したことに落ち込まずに、じゃあどうすればできるようになるかって考える。

2014-07-23 21:30:30
同居する森と月bot @doukyomi5

それは、失敗し慣れてるからとか、不可能を当然と思うほど自分を低く見すぎているからかと思うとやや寂しくもある。 けど、自分は不器用だから人の何倍も練習しなきゃって、実際に人の何倍も練習するのは、…し続けるのは、口で言うほど楽なことじゃない。

2014-07-23 21:45:30
同居する森と月bot @doukyomi5

「ごちそうさまでした」 「お粗末さまでした」 食べてしまった後で、写メってればよかったって今さら思いついた。 今さら、と言えばさっきは聞き流したことを反芻する。 伊月はあのお綺麗なお母様とお姉様と台所に立ってたのか。食べ飽きたって言われるくらいから揚げばっか作ってたのか。

2014-07-23 22:10:33
同居する森と月bot @doukyomi5

彼女に手料理を作ってもらったらこんな気持ちになるのかもしんない。すげー嬉しい。 お腹が、っていうより胸がいっぱいで苦しい感じ。 「あ、合宿の準備してます?森山さん」 伊月が皿をかたしながら声を上げて、オレは現実に戻ってくる。今すごいホワホワしたこと考えてた。ヤベー。

2014-07-23 22:20:31
同居する森と月bot @doukyomi5

「ハッ、あ、いや全然準備してない」 「まあ、持っていくもの着替えくらいですけど、……明日も気温上がりそうだし、今日は早めに寝てくださいね」 そう言うと伊月はさっさと自分の部屋にひっこんでしまう。立ち去り難い、というかもうちょっと伊月と無駄話をしていたかったのだが仕方ない。

2014-07-23 22:30:32
同居する森と月bot @doukyomi5

ところが、オレがそう思ってたのがバッチリ顔に表れてたのか、部屋に引っ込む時に伊月が振り返って、ニコっと笑ってひらひら軽く手を振った。 ―――勘違いかもなって思ってたけど、やっぱりちょっと前から伊月の様子が変わってる。こころもち明るくなったっていうか。

2014-07-23 22:40:30
同居する森と月bot @doukyomi5

多分今週の月曜、誠凛の壮行会に行ってから。なにかあったのかな。 ………… ………… うむ、わからん! わからないものを考えてもしょうがない。オレも明日の合宿の準備して早く寝よ。

2014-07-23 22:50:29