太宰府レポート 断片の一 まとめ

まとめです。 『艦これビターエンド合同 薄墨色ノ越流』 梯子屋 usuzumiiro.ikaduchi.com こちらもよろしくお願い申し上げます。
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プラシーボ吹嘘 @placebo_s

極彩色の羽根が散る。アオバトは、手持無沙汰に制帽を被り直そうとした。風穴の向こう、止まり木に落ち着いた鸚鵡と目が合う。伝書艦が首を振ると、鸚鵡は心得たように嘴を閉じた。「工廠をお借りしても? 制帽を直しておきたいので――」 #太宰府レポート 50

2014-08-11 00:02:37
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

発着港には、三人の艦娘が見送りに立っていた。妙高に、三日月、満潮は右腕を包帯で覆っている。「急がれるのですね」「できれば本日中に、もう二箇所は回りたいので」満潮が射殺さんばかりの形相で睨んでくるので、アオバトは気が気でない。隣で三日月は申し訳無さそうだ。 #太宰府レポート 52

2014-08-11 00:04:21
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「こちらを」妙高が、手に抱えていた包みを差し出した。「あの。有形の物品は運びかねますが……」「差し上げます。けじめは必要ですから」アオバトは怖々包み紙を剥いだ。収まっていたのは、新鮮な艦娘の右腕である。 #太宰府レポート 53

2014-08-11 00:05:40
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「どうか、そちらでご容赦頂けませんか」三日月が言った。「信じて頂けないかもしれませんが、満潮に殺気はありませんでした」「新しい腕が使い物になるまで、みっちり再教育致します。特務艦相手に手間取っているようでは、この先思い遣られますからね」と、澄まし顔の妙高。 #太宰府レポート 54

2014-08-11 00:07:16
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

後半は満潮に向けて、妙高が続ける。「三日月に感謝なさい。アオバトさんに傷一つでも付いていたら、貴方の首を差し出さねばなりませんでした」唇を引き結び、ぷいと満潮はそっぽを向く。 #太宰府レポート 55

2014-08-11 00:08:38
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

鎮守府の風俗は、各提督の個性を色濃く反映して多彩である。それに一々付き合っていると身が持たないとも知っていた。「お気持ちは有り難いのですが、」「では、やはり首を」「結構です」渋々と包み紙を戻した。三日月がほっと胸を撫で下ろしている。 #太宰府レポート 56

2014-08-11 00:10:06
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

アオバトは迷った。ガンキ提督から、満潮への手紙を預かっている。直接渡せば手っ取り早かろうに。次に第◯八九三へ赴くのはいつの日だろうか? この場で渡してしまえば楽に違いない。提督から、特に注文はなかった。しかし……。 #太宰府レポート 57

2014-08-11 00:11:39
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

言葉の届くタイムラグに、果たして価値はあるのだろうか? あの頃とは違う。“開戦”初期に比べれば、電信の技術も大分マシになった。それでもアオバトのような伝書艦が現役なのは、統括が衛星鎮守府に睨みを利かせるため、監視と牽制の意味が大きい。 #太宰府レポート 58

2014-08-11 00:13:06
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

直接・端的・スムーズに、言葉と気持ちが疎通するならば、それに越したことはない筈なのだ。「今後、こういうことは無しにして頂きたいものです」こちらの価値を揺さぶるようなことは、困ってしまう。 #太宰府レポート 59

2014-08-11 00:15:05
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

どんな事情があろうと、伝書艦の仕事は変わらない。彼女らが敵を沈めるように、淡々と手紙を届けるだけだ。紙面に書かれた言外の重みまで運ぼうとすれば、砲口を前に躊躇った者達と同じ末路を辿るだろう。 #太宰府レポート 60

2014-08-11 00:16:17
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

満潮が、ちらりとアオバトの表情を窺った。その日一番途方に暮れた面持ちで、伝書艦は手にした右腕を見下ろしていた。 #太宰府レポート 61

2014-08-11 00:17:35
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「結局、あの腕ってどうしたの?」「はて?」「アオバトが、こないだ持ち帰ってきた奴よ」何の気は無しに“林檎”が問うた。アオバトと同じく、太宰府統括鎮守府所属の艦娘である。 #太宰府レポート 63

2014-08-11 00:19:05
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「さて。どうでしたかね……」伝書艦は歯切れ悪く答えた。話題を忌避する雰囲気を汲み取ったのか、そもそも大して興味が無かったのか。林檎は特に追及せず、ちょんとマグカップへ口付ける。壁にもたれ、アオバトは携帯糧食を齧った。 #太宰府レポート 64

2014-08-11 00:20:53
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

「統括に帰って来てる時くらい、まともな食事を摂ればいいのに」「これが好きなんです」「飽きない?」「飽きる飽きないの問題ではありません」「思考停止って奴だわ」「物事はシンプルであるべきです」「にしては面倒臭い性格してるよね、貴方」 #太宰府レポート 65

2014-08-11 00:22:12
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

アオバトは、もう一口糧食を齧った。咀嚼して飲み込むと、一拍あって林檎に声を掛ける。「面倒といえば。口に出せば済むものを、わざわざ手紙にする必要性とは何でしょうか」「恋文の話?それとも、果たし状の話?それこそ、よっぽどアオバトの方が詳しいんじゃないかしら」 #太宰府レポート 66

2014-08-11 00:23:38
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

林檎は両手でマグカップを持ち、ふうふうと冷ましてみせる。まだ返事の無いことが訝しく、背後の艦娘を振り返った。「アオバト?」「分かれと言われても困るのです」心外だ、という表情の伝書艦。「一通の手紙を宛てたことも、受け取ったこともないんですからね、私は」 #太宰府レポート 67

2014-08-11 00:25:12
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

処置無しといった風に、林檎は肩を竦めた。そのマグカップが乾くまで、無意識に右腕を撫で擦りながら、アオバトは黙して考え込んでいた。 #太宰府レポート 68

2014-08-11 00:26:41
プラシーボ吹嘘 @placebo_s

以上、お付き合い頂きありがとうございました。同一世界観のお話を、下記の合同誌に寄稿させて頂いております。興味を持たれた方は、お手に取って頂ければ幸いです。 『艦これビターエンド合同 薄墨色ノ越流』 梯子屋 usuzumiiro.ikaduchi.com #C86艦これ告知

2014-08-11 00:31:42